手嶋政廣名誉教授、播金優一助教の令和5年度文部科学大臣表彰 伝達式・記念講演会を開催

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 宇宙線研究所の高エネルギー宇宙ガンマ線グループに所属していた手嶋政廣名誉教授(注1)(東京大学Global Fellow)と観測的宇宙論グループの播金優一助教が、令和5年度の文部科学大臣表彰の科学技術賞(研究部門)、および若手研究者賞をそれぞれ受賞したことを受け、宇宙線研究所が主催する受賞伝達式と記念講演会が5月19日、柏市の柏の葉カンファレンスセンターで開かれました。オンラインも合わせて関係者およそ80人が出席しました。

祝賀会にオンサイト及びオンラインで参加した宇宙線研究所の関係者

 司会の瀧田正人副所長が開会を宣言した後、最初に登壇した中畑所長は「手嶋先生、播金先生、本日は誠におめでとうございます」と呼びかけ、科学技術分野の文部科学大臣表彰の趣旨を説明。さらに、科学技術賞(研究部門)が、我が国の科学技術の発展等に寄与する可能性の高い独創的な研究又は開発を行った研究者に対して贈られるもので、宇宙線研究所では手嶋名誉教授が初めての受賞であること。若手科学者賞が、萌芽的な研究、独創的視点に立った研究等、高度な研究開発能力を示す顕著な研究業績をあげた40歳未満の若手研究者に贈られるもので、播金助教は今年の受賞者の中では31歳と最年少で、宇宙線研究所から4人目の受賞者であることなどが紹介されました。二人の受賞理由については、手嶋名誉教授が「大口径チェレンコフ望遠鏡の開発とガンマ線天文学の研究」、播金助教が「すばる望遠鏡等の大規模観測データを使った遠方銀河の研究」であることを説明し、文部科学省が公表した文書をスライドで示しながら読み上げました。

受賞理由を説明する中畑雅行所長
司会を行う瀧田正人副所長

 さらに、表彰状を読み上げ、記念のメダルとともに授与ししました。

梶田教授「今後もリーダーとしての活躍を期待します」

 続いて、梶田隆章教授、木舟正名誉教授、大内正己教授の3人が順番に登壇し、祝辞を述べました。梶田教授は播金助教について、「観測的宇宙論の分野で世界的にご活躍されていると認識しています。宇宙線研究所の修士・博士の研究発表会だったと思いますが、宇宙の星形成率の進化の物理的起源を観測データから明らかにしたという研究発表をお聞きし、すごく納得させられました。その後も活躍を続けられ、播金さんのお名前は、分野の違う私でさえ、国際会議でお聞きすることがあり、本当に素晴らしいと思っています。若手科学者賞は、今後の活躍への期待を込めて贈られるものですが、私自身も播金さんが今後も今まで以上にご活躍され、日本、世界の宇宙物理を牽引していって欲しいと思います」と語りました。一方、手嶋名誉教授については、「高エネルギーガンマ線で宇宙のさまざまな現象を解明する分野で、世界のリーダーとして研究し、さまざまな成果を上げてきました」と紹介し、MAGICが観測したガンマ線バーストからのTeVガンマ線、IceCubeのニュートリノ信号と連動した高エネルギーガンマ線の観測を例としてあげました。「私はラパルマに2回行きましたが、LST1号基の完成記念式典でお会いした富士通の社長さんが『このような美しいものはうまくいくものだ』と話していたのをよく覚えています。2-4号基もようやく完成時期が見えてきました。手嶋先生には今後も、高エネルギーガンマ線のリーダーとしてさらに大きな成果を上げていただくことを期待しています」と述べました。

受賞した二人に対する祝辞を述べる梶田教授

木舟名誉教授「個人の努力とガンマ線天文学の発展などをお祝い」

 手嶋名誉教授の指導者の一人で、ガンマ線天文学の黎明期をよく知る木舟正名誉教授が、祝辞を述べました。木舟名誉教授は手嶋名誉教授について、「彼は大学院生の学生として、宇宙線研究所に来て、一緒に苦労してきました」と紹介。1980年代に高エネルギー加速器の時代になり、素粒子物理学の最先端だった宇宙線研究が厳しい状況に置かれたことに触れ、「そんな時、京都大学の長谷川博一先生が『Air Showerの研究に宇宙線研究所に行ってこい』と言って、学生を宇宙線研究所空気シャワー部に派遣してくれました。その中にいたのが手嶋くんです。手嶋くんはまず最高エネルギー宇宙線の観測に従事しました。そして、それと並行して、宇宙線がどこからやってくるのかという謎を解明するため、直進してくるガンマ線を見ようということにも参加しましたが、実際に見えるまでには大変な苦労がありました」と振り返りました。

 1987年に大マゼラン雲で起きた超新星爆発からのニュートリノが観測され、木舟名誉教授らは「ガンマ線でも・・・」とニュージーランドで観測を試みたものの、はっきりとした結果は得られませんでした。そのような状況下の中、長谷川名誉教授の提案に従い、当初の目的だった月との距離を測る観測を終了し、埼玉県の堂平観測所に放置されていた国立天文台の望遠鏡を譲り受け、これをオーストラリアに移設してガンマ線観測を試みるというCANGAROO実験を始めることになりました。ここからさらに紆余曲折を経て、CTAなど現在のガンマ線天文学に繋がったと言います。木舟名誉教授は「手嶋くんの個人の努力に加え、ガンマ線天文学が分野として確立した、さらに、『宇宙線研究発端の動機』だった『宇宙と素粒子を理解するために行う宇宙線物理』という姿勢が現時点でも重要課題であることがわかった、という三つの点でお祝いしたい気持ちです」。また、最近のAI(人工知能)にひっかけ、「マルチメッセンジャー天文学の世の中となり、これからはAI (Astrophysical Interaction : 宇宙物理学研究者の交流、そして素粒子相互作用への興味の維持)が必要です。インタラクションしながら宇宙の根源を追求し、そこにガンマ線も寄与していくことを期待します」と述べました。

手嶋名誉教授に対する祝辞を述べる木舟正名誉教授

大内教授「素晴らしい成果は10年間の熱意と努力の結晶」

 播金助教の大学院当時の指導教員だった大内正己教授も出張先からリモート参加し、祝辞を述べました。大内教授は播金助教について、「10年前、大学4年生の2013年秋に宇宙線研究所に来てから一貫して遠方銀河の研究を続けてきました」と紹介。大学院修士課程の時代に遠方銀河を1万個集めたサンプルで統計解析を行い、論文にまとめた成果が、あまり評価されなかったことに触れ、「この分野では新参者だった播金さんが出した成果を、周りの研究者は理解できず、とても厳しい時期もありました。普通だったら研究が嫌になってしまうところですが、播金さんは周囲の無理解と悔しさをバネに研究を加速させてきました」。その後、小野宜昭助教など先輩研究者たちの協力も得ながら、銀河数が400万個という「世界の追随を許さない驚愕の数字」(大内教授)までサンプルを拡大させると共に、20年来の謎だった宇宙星形成史の物理的な起源が、重力による構造形成と宇宙膨張による物質降着率の変化の重ね合わせで説明できることを示し、今日の成功に至ったと報告。

 学生からの質問や、研究者仲間からの相談にも丁寧に応じる人柄についても、「時には自分が作ったプログラムや図を提供したり、自ら調べた研究手法を惜しみなく教えるなどの協力を自然に行い、グループ内外で人望を集めてきました」とコメント。最近では、ALMA望遠鏡の電波観測やジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(JWST)などの大型研究のリーダーとしても活躍し、「JWSTの観測データを使い、今年3月にAPJに出版した論文は、わずか2ヶ月で129件も引用されるなど、約6万本の論文の中でトップ0.02%という超高インパクト論文となっています。さらに2本の主著者として論文を出版するなど目覚ましい活躍を見せています」とし、「今日の受賞は、播金さんが困難な中でも努力を重ねてきた10年間の熱意と努力の結晶です」と称えました。

播金助教に対する祝辞を述べる大内正己教授

 この後、ガンマ線グルーブの秘書を務める菅原みどりさんから手嶋名誉教授に、さらに観測的宇宙論グループの秘書を務める井戸村貴子さんから播金助教に、花束が贈呈されました。

菅原みどりさんから花束を受ける手嶋名誉教授
井戸村貴子さんから花束を受ける播金助教

 このあと引き続き、手嶋名誉教授、播金助教による記念講演会が行われました。詳細は以下のリンクでご覧ください。

手嶋名誉教授が記念講演「皆さんのサポートがあり、頂けた賞です」

播金助教が記念講演「このような機会を設けて頂き、大変ありがとうございます」

注1. 手嶋政廣元教授の名誉教授の称号は2023年6月13日付けで授与されました。

関連リンク

東京大学宇宙線研究所 高エネルギー宇宙ガンマグループの公式ページ
東京大学宇宙線研究所 観測的宇宙論の公式ページ
令和5年度 科学技術分野の文部科学大臣表彰受賞者等の決定について
ICRR Webニュース「手嶋政廣前教授(東京大学Global Fellow)、播金優一助教が、2023年度文部科学大臣表彰の科学技術賞(研究部門)、若手科学者賞をそれぞれ受賞」(トピックス2023.04.07)