所長挨拶

2021年度当初にあたり、ご挨拶申し上げます

宇宙線研究所は宇宙から飛来する宇宙線の観測と研究を様々な方法をもちいて行っています。研究所の歴史は1950 年に朝日新聞学術奨励金で乗鞍岳に建てられた宇宙線観測用の「朝日の小屋」に始まります。その後1953 年に東京大学宇宙線観測所(通称、乗鞍観測所)となりました。この観測所は、わが国初の全国共同利用の施設でした。そして1976年に旧原子核研究所の一部の部門の移管とあわせて現在の名称の東京大学宇宙線研究所となり、全国共同利用の研究所として宇宙線の研究を進めてきました。

研究所は宇宙粒子線を研究手段として、動的な高エネルギー宇宙を解明するとともに素粒子物理のフロンティアを開拓する研究を行っています。そのため研究所には、宇宙ニュートリノ、高エネルギー宇宙線、宇宙基礎物理学の各研究部門があり、研究スタッフはどれかの研究部門に所属して研究を行っています。研究所は東大の柏キャンパス内にありますが、それと共に研究所は国内に4か所の観測施設(神岡宇宙素粒子研究施設、重力波観測研究施設(以上、岐阜県飛騨市の神岡地下)、乗鞍観測所(乗鞍岳2,770メートル地点)、明野観測所(山梨県の明野高原))と1つの研究センター(宇宙ニュートリノ観測情報融合センター(柏))、海外に4か所の観測拠点(チベット・ヤンパーチンの高原(4,300メートル)、アメリカ・ユタの砂漠、スペイン・カナリー諸島ラパルマ(カナリア高エネルギー宇宙物理観測研究施設)、ボリビア・チャカルタヤ山)を持っています。神岡は超新星ニュートリノやニュートリノ振動(質量)を発見したことで特に有名なのでご存じの方も多いかと思います。このように研究所では観測しようとする宇宙線の観測に最も適した場所を世界中から探し、そこで研究を行っています。

宇宙線研究所は2010年から始まった国の共同利用・共同研究拠点制度のもとで、全国及び海外の宇宙線研究者と共に共同利用研究を進め、2018年新たな国際共同利用・共同研究拠点として認定をされました。毎年100件以上の共同利用研究が全国の宇宙線関連研究分野の研究者の方々によっておこなわれきましたが、加えて外国からの共同利用研究の申請を受け付け、今まで以上に国際的に共同利用研究を推進していきます。したがって、宇宙線研究所の研究成果は国内外の宇宙線研究者との共同研究の成果であると言えます。実際、既に宇宙線研究所の研究のほとんどは国際共同研究です。これらの共同研究を通して素晴らしい成果があがっていますが、それらについては各研究グループのホームページをご覧ください。

近年の宇宙線研究分野の発展はめざましく、世界中の研究機関から本当に重要なニュースが飛び込んで来ます。宇宙線研究所は今後も世界の宇宙線研究の中核をなす機関として世界の宇宙線や関連する研究に貢献していくつもりです。その一つが重力波の観測研究であり、1990年代から研究所の将来計画の柱と位置づけられ、科学的にも極めて重要なテーマとの認識を持ってきました。このようななか、2010年度から文部科学省のサポートを得て大型低温重力波望遠鏡(KAGRA)プロジェクトの建設が進められてきました。KAGRAが進められたのは皆様からの強いご支援によるものです。皆様のご支援に感謝いたします。KAGRAプロジェクトは、宇宙線研究所をホスト研究機関とし、共同推進機関である高エネルギー加速器研究機構及び自然科学研究機構国立天文台との協力体制で推進されています。2016年2月にはアメリカのLIGOによる重力波の初観測が報じられ、重力波天文学がいよいよ幕開けしました。KAGRAは2019年春には基本的な装置の設置を終え、2020年2月には最初の観測運転を開始しました。今後は観測と感度向上を繰り返しながら、重力波天文学の発展のために貢献していきたいと考えています。今後も一層のご支援をお願いいたします。

2011年度には将来計画検討委員会を設置して、1年以上かけて重力波の次の研究所の基幹の将来計画をどうすべきかの検討がなされました。その結果超高エネルギーガンマ線天文台プロジェクトCTAをはじめ複数のプロジェクトが高く評価されました。委員会からの報告を受けて、宇宙線研究所ではCTAプロジェクトの推進などの新たな展開を図ってきました。幸いにも北半球の大口径望遠鏡(LST)4基の日本分担分について予算化がなされました。そして2018年秋には大口径望遠鏡の一号機が完成し、2019年4月1日にカナリア高エネルギー宇宙物理観測研究施設がラパルマ島に開所しました。2019年には宇宙線研究所も参加しているMAGIC望遠鏡で、ガンマ線バーストからの多数の高エネルギーガンマ線を観測し、ガンマ線バーストで粒子加速が起こっている直接の証拠をとらえました。このようにガンマ線観測には大きな成果が期待されます。CTAも研究所の基幹計画の一つとしてしっかり進めてまいりますので、ご支援のほど、よろしくお願いいたします。

また、スーパーカミオカンデで行ってきたニュートリノ研究の今後を検討することも重要であり、2016年度には新たな将来計画検討委員会を立ち上げて検討してきましたが、2017年に委員会からの報告が提出されました。具体的にはスーパーカミオカンデの約10倍となる次世代の測定器(ハイパーカミオカンデ)を建設して、ニュートリノ研究や陽子崩壊の探索等を行うことを目指すべきとされました。そのため、宇宙線研究所では、カブリ数物連携宇宙研究機構、理学系研究科、地震研究所と共に次世代ニュートリノ科学連携研究機構を立ち上げ、この組織を中心にハイパーカミオカンデを推進していくことになりました。幸いにも2019年度補正予算、2020年度予算でハイパーカミオカンデの建設が認められました。2027年の実験開始を目指して、東大内の次世代ニュートリノ科学連携研究機構、そして共同ホスト機関である高エネルギー加速器研究機構と協力し、ハイパーカミオカンデを建設してまいりますので、ご支援のほど、よろしくお願いいたします。

2020年度は、新型コロナウイルス感染症蔓延により、共同利用研究を行う宇宙線研究所の歴史上はじめて所外の研究者をほとんど共同利用で受け入れることができず、非常に残念な年となりました。まだまだ感染流行の収束には時間がかかるかもしれません。この間、宇宙線研究所では、共同利用者が現地に来なくとも可能な限り共同利用研究に参加できるよう、遠隔での共同利用研究推進体制を整え、また感染収束後には共同利用研究者の皆様を迎えて研究することができるよう準備をしてきました。一日も早く多くの皆様と共同利用研究を進められる日が戻ってくることを祈っています。

宇宙線研究所の研究計画を進めていくためには、今後も宇宙線関連分野の研究者の皆さんの支持、大学からの支持・支援が必要なことはいうまでもありません。また国からの支援もますます重要になっていきます。今後とも、宇宙線研究所の研究活動にご支援をお願いしますとともに、本研究所からの研究成果にご注目下さい。