文部科学大臣表彰・若手科学者賞を受賞した播金助教(観測的宇宙論グループ)が記念講演

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「このような機会を設けていただき、大変ありがとうございます」

記念講演を行う播金助教

 

播金助教はまず、国立天文台のすばる望遠鏡、ALMA望遠鏡、またNASAのジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡などの観測データを使った自分の研究が評価されたことに感謝の言葉を述べ、自らの歩んできた10年間を振り返りました。

 播金助教にとって宇宙線研究所との出会いは、大学3年生のときに参加した宇宙・素粒子スプリングスクールでした。第一希望は観測的宇宙論グループでしたが希望者が多く、じゃんけんで負けて、高エネルギーガンマ線天文学グループに加わることに。「しかし、これが大当たりで、スプリングスクール期間中にかに星雲でガンマ線のフレアが起きました。急きょテーマを切り替え、手嶋先生たちのサポートのおかげもあって最優秀賞をもらうことができました。スプリングスクールを体験し、宇宙線研究所って楽しいところだなあと好印象を持ちました」

遠方銀河とダークマターハローの関係を観測で明らかにしたい

 大学院入試に合格すると大学4年生の秋から宇宙線研究所へ。大学院の研究テーマとして、遠方宇宙における銀河とダークマターハローの関係を選びました。最初に使ったのはハッブル宇宙望遠鏡の観測データで、そこからライマンブレーク法により赤方偏移z=4以上の銀河をおよそ10000個選び出し、これによる角度相関関数をhalo occupation distribution (HOD)を含む構造形成のモデルと比較することでダークマターハローの質量を求めるという研究に挑みました。

「遠方銀河でHODを含む計算をした例はほとんどありませんでした。グループでも誰もやっていなかったので、自分で計算プログラムを書く必要があり、合計3ヶ月ほどかかってしまいました」。観測データから目的の角度相関関数を計算し、ダークマターハローの質量を見積もることができましたが、「まだ銀河の数が足りず、不確かさが大きい結果でした。そこで次の研究に使ったのが、ハッブル宇宙望遠鏡よりも視野が広く、たくさんの銀河が見つかると予想される、すばる/Hyper Suprime-Cam (HSC)のデータでした」

10000個の銀河で導き出した最初の結論

遠方銀河のサンプル数は博士課程で1万個から50万個と飛躍的に拡大

 しかし、HSCの観測データは大規模で遠方銀河を選び出すのは容易ではなく、選択基準も一から作り上げる必要があったといいます。「天体カタログは一応作られているのですが、たまに変な天体がいて、カタログが間違っていることもありました。観測的宇宙論グループの小野助教と一緒に、信頼度の高い分光データなどを使いながら試行錯誤を繰り返し、選択基準を検討しました。最終的にz=4-7の遠方銀河を50万個集めることに成功しました」と播金助教。50万個の遠方銀河サンプルは当時世界最大で、角度相関関数やダークマターハローの質量を非常に良い統計精度で決めることができました。さらにz=4-7で星形成効率が大きく変わらないという結果を示し、宇宙の星形成率密度の進化の物理的起源が、構造形成による増加と宇宙膨張による減少の重ね合わせで説明できるとわかりました。

 「宇宙の星形成率密度の平均値が進化するということは1997年ごろから言われてきたのですが、物理的な起源については納得のいく説明がされてきませんでした。すばる望遠鏡/HSCをもとに苦労して構築した非常に大きな銀河サンプルを使うことで、この起源について答えを提示したことになります」。観測的宇宙論グループではGOLDRUSH、SILVERRUSHというプロジェクト名ですばる/HSCの観測データを使った成果論文を投稿し、海外の研究者からも認知度を上げたこと、さらに夜遅くまでHSCデータの解析に熱中し、南棟5階の観測的宇宙論グループの居室の窓だけが煌々と明るかったことを紹介しながら、播金助教は「夜遅くの帰り道で野生のうさぎに出くわすことがありました。自然豊かな場所で研究できているのは楽しいものだなあと思いました」などと当時を振り返りました。

修士・博士の研究発表会で当時の梶田所長から所長賞を受賞した

国立天文台、ロンドン大学で研究生活 Richard Ellis氏に師事

 宇宙線研究所で博士課程を終えた播金助教は、2019年4月から国立天文台ALMAプロジェクト、その半年後からはロンドン大学で研究員生活を送りました。国立天文台では自ら提案したALMA望遠鏡の観測プロジェクトのデータを使った論文を投稿することができ、「自分で代表として提案した観測のデータを使い論文を書くことで、これで自分も一人前の観測天文学者になったのだ」と当時の気持ちを振り返りました。ロンドン大学では世界的に著名な天文学者のRichard Ellis氏に師事。「Ellis先生のサポートのおかげで、新しい研究を始めてから6ヶ月という比較的短期間で論文を仕上げられました。さらにジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡の研究について議論ができ、これはその後採択された私たちの観測提案につながりました。海外で研究していると、海外の研究者からの認知度が上がるのも良かったです」と語りました。

 2020年6月に宇宙線研究所の助教に就任すると、すばる/HSCの観測データを使った研究を再開。数年が経過して観測データが蓄積されていたことで、遠方銀河のサンプルは膨れあがり、400万個という驚くべき数になりました。論文にまとめて投稿した8月2日にちょうど長男が誕生したことにも触れ、「そこから合計約1ヶ月の育児休暇を取りました。快く休ませてくれた観測的宇宙論グループの皆さんに感謝しています」

銀河サンプルは驚愕の400万個に 最遠方銀河の候補も発表

 育児休暇から復帰すると、名古屋大の宮武広直准教授と協力し、すばる/HSCの大規模遠方銀河サンプルと宇宙マイクロ波背景放射の重力レンズ効果を利用し遠方宇宙における宇宙論パラメータを推定する研究論文や、早稲田大学の井上昭雄教授と135億年前の最遠方銀河の候補HD1に関する論文を発表し、2022年にプレスリリースを行いました。

ジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡の公開データを使った研究でも超インパクト論文

 さらに、2021年12月に打ち上げられたNASAのジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡の観測データが翌年7月に初公開されると、播金助教は睡眠時間を削り解析に没頭、ドイツ出張中も深夜にデータ解析を続け、3週間足らずで最初の論文を投稿しました。今年3月にAstrophysical Journal Supplement Seriesに出版されたその論文は、ジェイムズ・ウェッブ望遠鏡の初期観測データからz〜9-16(133億-136億年前)の遠方銀河候補23個を選び出し、従来のモデル予想よりもたくさん銀河が見つかっており、この時代の星形成率密度が高いことを指摘するものでした。「世界中から一日数本という驚くべきペースで、論文がアーカイブサイトに投稿される “論文ラッシュ”でした。その中で私たちの論文は幸いなことにすでに129回も引用され、ありがたいことに講演の招待も数多くいただきました。去年の7月に寝る間を惜しんで研究を進めてよかった、と思いました」。

 播金助教は最後に「私はこのように宇宙線研究所で、すばる望遠鏡、ALMA望遠鏡、そしてジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡等の非常に素晴らしい観測データを使って研究を楽しませてもらいました。こうして楽しむことができたのは宇宙線研究所のスタッフの皆さんのおかげです。特に指導教員の大内先生がいなかったら、今の私はいないだろうと大変感謝しています」と感謝の言葉を述べ、「宇宙線研究所は日本で一番研究に集中しやすい研究機関だと思っています。今後ともどうぞよろしくお願い致します」と結びました。

学部4年生から研究をスタート、修士課程で早くも論文を執筆したと語る播金助教