手嶋政廣前教授(東京大学Global Fellow)、播金優一助教が、2023年度文部科学大臣表彰の科学技術賞(研究部門)、若手科学者賞をそれぞれ受賞

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 科学技術分野の2023年度文部科学大臣表彰が7日に発表され、チェレンコフ宇宙ガンマ線グループの手嶋政廣前教授(マックスプランク物理学研究所、東京大学Global Fellow)が科学技術賞(研究部門)、観測的宇宙論グループの播金優一助教が若手科学者賞を、それぞれ受賞したことがわかりました。

 この表彰は、科学技術に関する研究開発、理解増進等において顕著な成果をおさめた研究者に贈られるもので、科学技術賞は、宇宙線研究所では手嶋前教授が初めての受賞となります。若手科学者賞は40歳未満で顕著な成果を挙げた研究者を対象としており、宇宙線研究所からは播金助教を含めてこれまでに4人が受賞しています。播金助教は今年度の受賞者の中では最年少の31歳でした。

 手嶋前教授の文部科学大臣表彰・科学技術賞(研究部門)の受賞理由は、「大口径チェレンコフ望遠鏡の開発とガンマ線天文学の研究」です。手嶋前教授は、2003年1月から所長を務めるマックスプランク物理学研究所(独ミュンヘン)の人脈をフル活用し、チェレンコフ・テレスコープ・アレイ(CTA)における大口径望遠鏡(LST)の研究代表者として、LSTやMAGIC望遠鏡の軽量鏡、高性能カメラ、望遠鏡構造の技術開発および製作を主導してきました。また、ステレオ観測法による高精度なガンマ線シャワーの再構成や、バックグランド排除の重要性を強く主張し、MAGICのステレオ化、MAGICと隣接するLSTアレイの建設へと研究事業を拡大。さらに、MAGICの観測プログラムの策定も主導し、ガンマ線バースト観測をMAGIC のKey Science Programと定義づけ、MAGICの最優先の観測としました。こうした長年の努力が実り、MAGICは2019年1月14日、地上の望遠鏡としては史上初めてガンマ線バーストGRB190114Cの信号を捉える快挙を成し遂げ、英科学誌Natureに発表しました。この歴史的な観測は、チェレンコフ望遠鏡によるガンマ線天文学を、マルチメッセンジャー天文学の一つの重要な柱として確立させたと高く評価されています。手嶋前教授は、高エネルギーニュートリノ、重力波からのアラートによるファーストフォローアップ観測の導入・実施についても先頭に立って進めています。

 今回の受賞について手嶋前教授は「われわれが建設してきた大口径チェレンコフ望遠鏡が、設計性能、またはそれ予想以上の性能を出してくれたおかげで、史上初となるTeVガンマ線バーストの観測、高エネルギーニュートリノとの相関、重力レンズ効果がTeVガンマ線領域において確認できたことなど、多くの科学成果を挙げることができました。また、数十GeVから数百GeV領域のガンマ線の高感度な観測を可能とし、より遠い宇宙をガンマ線で見る新しい窓を開拓してきたことは、たいへん素晴らしく、うれしいことです。個人というより、これまでMAGICやLSTの建設や運用に貢献してくれた若手研究者を含めたグループ全員でいただいた賞です」と喜びの言葉を述べ、「まだ、ダークマターの謎、その素性を明らかにするという大きな仕事が残っています。超対称性理論が予測するWIMPがダークマターだとすれば、その探索で私たちはトップを走っています。あと3年間で4台のLSTが完成すれば、天の川銀河の中心を北半球から大天頂角で測定する方法で、ダークマターを捉えられる可能性があります。ぜひ、この10年以内にダークマター観測を達成したいですね」と抱負を語りました。

文部科学大臣表彰・科学技術賞(研究部門)を受賞した手嶋政廣前教授

 播金助教の文部科学大臣表彰・若手科学者賞の受賞理由は、「すばる望遠鏡等の大規模観測データを使った遠方銀河の研究」です。播金助教は2014年4月から理学系研究科物理学専攻の大学院生として宇宙線研究所の観測的宇宙論グループに所属し、2019年3月に博士号を取得。日本学術振興会の特別研究員PD(国立天文台、ロンドン大学)及びロンドン大学Honorary Research Associateを経て、2020年6月に宇宙線研究所助教に就任しました。その間現在まで一貫して遠方銀河の観測的研究に専念し、すばる望遠鏡の大規模観測データの解析を主導しながら、これまで詳しく調べられていなかった100億-130億年前の宇宙において400万個からなる世界最大の遠方銀河サンプルを構築しました。また20年来の謎であった宇宙星形成史の物理的な起源について解答を提示し、当時の最遠方記録である130 億年前の原始銀河団を分光同定してプレスリリースを行うなど複数の重要な発見をしながら、遠方銀河観測の分野をリードしてきました。さらに国内外の研究者からなるチームを率い、NASAのジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡の貴重な初年度運用プログラムやアルマ望遠鏡などの非常に国際競争率の高い望遠鏡の観測時間を複数獲得するなど、国際的にも高く評価されています。

 今回の受賞について播金助教は「今回このような栄誉ある賞をいただけることになり非常に光栄です。受賞対象の研究は、どれも周りの方々の協力がなければ実現し得ないものでした。推薦いただいた先生方、共同研究者の皆様と、我々の研究を常にサポートしてくださる宇宙線研究所の皆様に感謝申し上げます」と喜びと感謝の言葉を述べ、「一昨年打ち上げられたジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡によって、宇宙初期の銀河やブラックホールについて新たな事実や謎が次々と見つかってきており、非常にエキサイティングな時代に突入しています。また今後稼働するすばる望遠鏡の超広視野多天体分光器 PFSやNancy Grace Roman宇宙望遠鏡等により、我々の研究をさらに発展させられると期待しています。皆様と楽しみながら、引き続き世界最先端の研究をリードしていけるよう、努力したいと思います。」と今後の抱負を語りました。

文部科学大臣表彰・若手科学者賞を受賞した播金助教

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