瀧田教授が高エネルギー加速器科学研究奨励会の奨励賞(小柴賞)を受賞

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 高エネルギー加速器科学研究奨励会が、加速器ならびに加速器利用に関る研究で特に優れた業績をおさめた研究者・技術者を顕彰する2022年度奨励賞の授与式が2023年3月1日、千代田区の私学会館・アルカディア市ヶ谷で開かれ、瀧田正人教授(宇宙線研究所副所長)が、奨励賞(小柴賞)を受賞しました。

小柴賞を受賞した瀧田教授(左)と高エネルギー加速器科学研究奨励会の幅淳二代表理事(右)

 授与式では幅淳二代表理事が「本日はおめでとうございます。加速器科学は日本のお家芸であり、日頃の開発研究をコツコツと積み上げ、将来の大型プロジェクトに活かしていきたいと考えています。そのためにも研究の評価をしっかり行うことが大事で、私たちの奨励賞は重要な位置を占めていると自負しています」と挨拶したのに続き、奨励賞の選考委員長である小関忠・高エネルギー加速器研究機構・加速器研究施設長が今回、小柴賞と諏訪賞を受賞した計4人の受賞理由を一人ずつ読み上げました。続いて、幅代表理事が瀧田教授ら4人に、記念の盾と副賞賞金を授与しました。

冒頭の挨拶をする高エネルギー加速器科学研究奨励会の幅淳二・代表理事
幅代表理事から受賞記念の盾を授与される瀧田教授

 この後、瀧田教授は受賞記念講演の中で、「このたびは小柴賞にご選出いただき、どうもありがとうございます。小柴研究室の末席を汚した私にとって身に余る光栄です。私が所属するチベットASγ実験グループの観測技術が評価されたと受け止めています」とお礼の言葉を述べ、自らの研究成果について解説しました。宇宙から飛来する高エネルギー粒子(宇宙線)の発見から100年来の謎だった宇宙線の起源について、自ら改良したチベットASγ実験で、宇宙線をペタ電子ボルトまで加速する宇宙加速器「ぺバトロン」が、銀河系内に存在したという初めての証拠を見つけるまでの経緯を述べました。

受賞記念講演を行う瀧田教授

 最後に、小柴昌俊・特別栄誉教授が1987年3月、東京大学を定年退官するにあたり、理学部広報誌「廣報」に寄稿した「老いのくりごと」を紹介。その中に夢を追う研究計画の例として、カミオカンデの経験を活かし、水チェレンコフ検出器を使ったガンマ線天文学をやること、その実験の候補地として天然の湖がある中国のチベット高原などを挙げていた部分に触れ、「小柴先生の書いたものを見返して初めて気づきました。もしかすると、私は小柴先生の手のひらの上の孫悟空だったのかも知れません」と、笑顔で講演を締め括りました。

高エネルギー加速器科学研究奨励会が公表した瀧田教授の選考理由は以下の通りです。

研究題目:「水チェレンコフミューオン検出器を応用した空気シャワー観測装置によるサブPeVガンマ線天文学の開拓」
選考理由:
宇宙線の起源の解明は現代物理学の重要な課題の一つである。その起源解明の手段として、加速された宇宙線が星間物質と衝突した際に放出される高エネルギーガンマ線、特に未開拓のサブPeV (0.1〜1 PeV) ガンマ線が注目されていた。 瀧田氏は、大面積の水槽からなる水チェレンコフの技術を用いた地下ミ ューオン検出器を空気シャワー観測装置「Tibet ASγ実験」に導入することで、宇宙線雑音を大幅に削減し、サブPeVガンマ線の世界初の検出に成功した。
 サブPeVガンマ線の観測には、ガンマ線信号の何桁も上の宇宙線雑音を落とす必要がある。瀧田氏は、50 cm径の光電子増倍管を用いた低雑音かつ安価で大面積の地下ミューオン検出器を「Tibet ASγ実験」へ導入することで、極めて効率的に宇宙線雑音を排除できることを示した。この地下ミューオン検出器の提案には、瀧田氏のカミオカンデ実験、スーパーカミオカンデ実験で培った水チェレンコフ型検出器の経験が生きていた。さらに、この装置を使ったガンマ線エネルギー決定において、空気シャワー観測装置のエネルギー分解能を100 TeVで30 %から16 %に改善した。これらの改善により、点源のガンマ線天体に対して、100 TeVでガンマ線の検出効率90 %で、宇宙線雑音を約1000分の1に削減することに成功した。そして、世界で初めて100TeV 以上のガンマ線がかに星雲の方向から飛来していることを突き止めた。さらに、超新星残骸G106.3+2.7 からの100TeV を超えるガンマ線の観測と、既知のTeVガンマ線源と離れた銀河面に沿った400TeV 以上のガンマ線の観測に成功し、PeV エネルギー領域以下の宇宙線の加速源が銀河系内に存在する決定的な観測的証拠を世界で初めてとらえた。
 以上の物理成果を出す鍵となったのが、瀧田氏が提案して「Tibet ASγ実験」に導入した水チェレンコフ型地下ミューオン検出器である。よって、瀧田氏の業績は小柴賞に相応しいと判断された。
(同奨励会ホームページから引用)

千代田区の私学会館アルカディア市ヶ谷の7階「琴平」で開催された授与式

関連リンクは以下の通り

高エネルギー加速器科学研究奨励会のWebサイト(2022年度の受賞者受賞理由など)

2023.2.3【トピックス】瀧田正人教授が高エネルギー加速器科学研究奨励会の奨励賞(小柴賞)を受賞 宇宙線研究所では初めて

2021.12.9【トピックス】第67回仁科記念賞の授賞式を開催 瀧田正人教授に表彰状と記念の賞牌
2021.11.9【トピックス】第67回仁科記念賞に瀧田正人教授
2021.4.2【プレスリリース】60年来の謎解明へ、宇宙線の起源「ペバトロン」の決定的証拠つかむ!〜天の川から史上最高エネルギーのガンマ線放射を観測〜
2021.3.2【プレスリリース】銀河系内で最強の宇宙線源の候補を発見!-超新星爆発の残骸(G106.3+2.7)から100TeV超のガンマ線を観測-