瀧田正人教授が高エネルギー加速器科学研究奨励会の奨励賞(小柴賞)を受賞 宇宙線研究所では初めて

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 高エネルギー宇宙線研究部門でチベット実験・ALPACA実験の両グループ代表の瀧田正人教授(宇宙線研究所副所長)が、2022年度の高エネルギー加速器科学奨励賞(小柴賞)を受賞したことがわかりました。受賞理由は「水チェレンコフミューオン検出器を応用した空気シャワー観測装置によるサブPeV ガンマ線天文学の開拓」 の業績です。宇宙線研究所に所属する研究者で、同賞を受賞するのは瀧田教授が初めてとなります。

小柴賞を受賞した瀧田正人教授(宇宙線研究所副所長)

 授与式は今年3月1日、東京・千代田区のアルカディア市ヶ谷(私学会館)で行われます。

 高エネルギー加速器科学奨励賞は、加速器科学関連の研究分野において偉大な業績をあげた西川哲治・東京大学名誉教授(西川賞: 加速器科学)、小柴昌俊・東京大学特別栄誉教授(小柴賞: 素粒子・宇宙物理学)、諏訪繁樹・高エネルギー物理学研究所名誉教授(諏訪賞: 原子核物理)、熊谷寛夫・東京大学名誉教授(熊谷賞: 粒子加速器・真空科学)の四氏の功績を讃えて設けられたもので、小柴賞は「素粒子分野などの基礎科学における測定器技術の開発研究において、独創性に優れ、国際的にも評価の高い業績を上げた単数または複数の研究者及び技術者」が対象者です。

 宇宙線は電荷を持っており銀河磁場で曲げられてしまうため、その起源を解明 する手段として、加速された宇宙線が星間物質と衝突した際に放出される高エネルギーガンマ線が注目されてきました。そんな中で瀧田教授は、中国チベット(標高 4,300m)に設置された宇宙線の空気シャワー観測装置を改良し、大面積の水槽からなる水チェレンコフ型のミューオン検出器を設置した「Tibet ASγ実験」をスタートさせ、宇宙線起源とガンマ線起源の事象を分離する手法を提案・適用しました。

 そして 2019 年、カニ星雲から史上初めて 100TeV を超えるガンマ線を 5.6 シグマの有意度で検出したことを皮切りに、他の天体からも 100TeV を超えるガンマ線を観測。更に 2021 年、銀河面に沿って、既知の TeV ガンマ線源と離れた場所から 400 TeV 以上のガンマ線が飛来していることを 5.9 シグマの有意度で発見しました。これは銀河系内の宇宙線源から放出された宇宙線が銀河面にある星間物質と衝突して生成されるガンマ線と考えられ、理論的な予言と矛盾もなく、1958 年頃から信じられてきた数 PeV 以下の宇宙線が銀河系内起源であることを世界で初めて実証したものでした。瀧田教授らは2021年4月、この成果を米国物理学会誌Physical Review Lettersに投稿。電子版の掲載とともにプレスリリースおよびリモート記者会見を実施し、広く一般のニュースにも取り上げられました。

 これらの研究成果は、日中国際共同の Tibet ASγ実験グループとしての成果でしたが、仁科記念財団は2021年12月、グループを指揮する瀧田教授はこれらの発見に本質的な役割を果たし、その貢献は十分に大きいとして、瀧田教授に第67回仁科記念賞を授与しました。

 瀧田教授は、今回の小柴賞受賞について、「かつて小柴研究室の末席を汚していた私にとって、身に余る光栄です。今回の受賞は、チベットASγ実験グループの測定器技術が評価された結果であり、チベットASγ実験に携わってきたメンバー全員が受賞したものであると受け止めております。また、高地に展開した広視野空気シャワー観測装置、20インチ口径光電子増倍管を用いた水チェレンコフ型検出器、ガンマ線エネルギー決定方法としてS(50)の採用と、正に宇宙線業界が持つ技術の結集・融合の結果生まれた新しい測定器技術が受賞したとも考えられます。次のステップとして、ボリビアのアンデス高原で、チベットASγ実験と良く似た観測装置を用いたALPACA実験が稼働予定です。北天でチベットASγ実験を継続観測するとともに、南天ではALPACA実験によってサブPeVガンマ線天文学を開拓し、1912年の宇宙線発見以来の謎である宇宙線起源の特定に向けて更なる一歩を踏み出したいと考えております。また、その先には1平方キロメートルのMega ALPACA計画も控えています。
最後になりましたが、チベットASγ実験グループのメンバー、チベットASγ実験をご支援していただいた方々に深く感謝申し上げます。今後ともご支援のほど、よろしくお願いいたします。」とコメントしました。

関連リンクは以下の通り

高エネルギー加速器科学研究奨励会のWebサイト(2022年度の受賞者受賞理由など)

2021.12.9【トピックス】第67回仁科記念賞の授賞式を開催 瀧田正人教授に表彰状と記念の賞牌
2021.11.9【トピックス】第67回仁科記念賞に瀧田正人教授
2021.4.2【プレスリリース】60年来の謎解明へ、宇宙線の起源「ペバトロン」の決定的証拠つかむ!〜天の川から史上最高エネルギーのガンマ線放射を観測〜
2021.3.2【プレスリリース】銀河系内で最強の宇宙線源の候補を発見!-超新星爆発の残骸(G106.3+2.7)から100TeV超のガンマ線を観測-