第67回仁科記念賞に瀧田正人教授

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 第67回仁科記念賞の受賞者が11月9日、仁科記念財団により発表され、宇宙線研究所の瀧田正人教授がその一人に選ばれたことがわかりました。瀧田教授は千葉県出身、1960年2月生まれの61歳。受賞理由は「サブPeVガンマ線天文学の創始と銀河宇宙線の起源の解明」です。

 仁科記念賞は、故仁科芳雄博士の功績を記念して、わが国で原子物理学とその応用に関して優れた研究業績をあげた研究者を表彰するために、1955年に創設されました。毎年3件以内の研究業績が選ばれ、受賞者には賞状と賞牌および副賞が贈呈されます。

 仁科記念財団のホームページでは、瀧田教授の受賞理由として、中国チベット(標高 4,300m)に設置された宇宙線の空気シャワー観測装置を改造し、高エネルギー宇宙ガンマ線観測を行い、世界で初めて sub-PeV (1014 eV = 100 TeV 以上)のガンマ線を検出するとともに、PeV 領域の宇宙線の起源が銀河系内にあることを解明したことなどが紹介されています。

 以下は仁科記念財団のホームページからの引用です。

「宇宙線は電荷を持っており銀河磁場で曲げられてしまうため、その起源解明の手段として加速された宇宙線が星間物質と衝突した際に放出される高エネルギーガンマ線が注目されてきた。瀧田氏が 65,700 平方メートルの空気シャワー観測装置である『Tibet ASγ実験』に大面積の水槽からなる水チェレンコフ型のミューオン検出器を設置し、宇宙線起源とガンマ線起源の事象を分離する手法を提案・適用した。そして 2019 年、カニ星雲から史上初めて 100TeV を超えるガンマ線を 5.6 シグマの有意度で検出したことを皮切りに、他の天体からも 100TeV を超えるガンマ線を観測した。更に 2021 年、銀河面に沿って、既知の TeV ガンマ線源と離れた場所から 400 TeV 以上のガンマ線が飛来していることを 5.9 シグマの有意度で発見した。これは銀河系内の宇宙線源から放出された宇宙線が銀河面にある星間物質と衝突して生成されるガンマ線と考えられ、また理論的な予言とも矛盾なく、1958 年頃から信じられてきた数 PeV 以下の宇宙線が銀河系内起源であることを世界で初めて実証したものである。これらの研究成果は、日中国際共同の Tibet ASγ実験グループとしての成果ではあるが、グループを指揮する瀧田氏はこれらの発見に本質的な役割をしており、その貢献は十分に大きいと判断される」

瀧田正人教授のコメント

 第67回仁科記念賞の受賞、身に余る光栄と感じております。今回の受賞は、チベットASγ実験グループの研究成果が評価された結果であり、チベットASγ実験に携わってきたメンバー全員が受賞したものであると受け止めております。次のステップとして、ボリビアのアンデス高原で、チベットASγ実験と良く似た観測装置を用いたALPACA実験が稼働予定です。北天でチベットASγ実験を継続観測するとともに南天ではALPACA実験によってサブPeVガンマ線天文学を開拓し、1912年の宇宙線発見以来の謎である宇宙線起源の特定に向けて更なる一歩を踏み出したいと考えております。また、その先には1平方キロメートルのMega ALPACA計画も控えています。
 進路をまだ決めかねている大学院進学希望者の方々、まさに機が熟したサブPeVガンマ線天文学の開拓と宇宙線起源の特定に向けていっしょに研究を楽しみませんか?
 最後になりましたが、チベットASγ実験グループのメンバー、チベットASγ実験をご支援していただいた方々に深く感謝申し上げます。今後ともご支援のほど、よろしくお願いいたします。