【柏キャンパス一般公開2022】10月21-28日にオンラインで開催 のべ約1500人が宇宙線研究所主催の企画を視聴

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 東京大学柏キャンパスのオンライン一般公開が、10月21日(金)から28日(金)にかけて開かれ、中畑雅行所長の講演会とうちゅうカフェのYouTube中継など宇宙線研究所主催の企画を、多くの方々にご視聴いただきました。今年の柏キャンパス一般公開は、COVID-19の感染拡大を防ぐ観点から、昨年に引き続いてオンライン開催となり、多くの企画がコア日程の21日から23日までに開催されましたが、宇宙線研究所が主催する企画の視聴者は、10月末までのアーカイブ公開期間中を含め、のべ約1500人に及びました。ご視聴いただき、誠にありがとうございました。

中畑所長の講演と「うちゅうカフェ」を約160人が視聴

 22日(土)の中畑所長の講演会と若手研究者によるうちゅうカフェでは、チベット実験グループの修士2年、川島輝能さん、テレスコープ・アレイ実験グループの修士2年、高橋薫さんが、司会及びアシスタントを務めました。

中畑所長の講演「超新星ニュートリノと私」
「超新星背景ニュートリノを捉え、元素合成の歴史を探りたい!」

 中畑所長は、宇宙線研究所からのオンライン中継で「超新星ニュートリノと私」と題して講演。神岡の地下でニュートリノを捉える実験に加わる中、1987年に初代カミオカンデで、大マゼラン星雲で起きた超新星爆発SN1987Aからのニュートリノを捉えることに成功したこと、さらにスーパーカミオカンデにおける2020年の改装にも触れ、新たな取り組みについて解説しました。

オンライン講演する中畑所長

 中畑所長はまず、見た目から入る”アハ体験”として、超新星爆発が起きる以前と起きた直後の天体写真(2セット)をスライドで比較。その上で、一定の期間、ひときわ明るく輝いて見える超新星爆発について、「太陽の10倍より大きな重さの恒星が、一生の最期にドカーンと爆発する現象です」と説明しました。続いて、自らの大学院生時代に観測に立ち会った1987年の超新星爆発SN1987Aからのニュートリノを、カミオカンデで観測した時のデータをイベントの散布図で示しながら、詳しく説明しました。

 「この時に観測されたニュートリノは13秒間に11個でした。他の物質と滅多に反応しないニュートリノが、これだけ観測されたということは、私たちの手のひらサイズに10兆個のニュートリノが13秒間で通り抜けていったことを意味します。この爆発のエネルギーを計算してみたところ、超新星爆発のシナリオによく一致したことから、(当時、指導教官だった)小柴昌俊先生の2002年ノーベル物理学賞受賞につながりました」

 中畑所長はさらに、恒星の一生と、その最期に超新星爆発が起きる仕組みについて詳しく解説。恒星が核融合によって水素のエネルギーを消費しながら燃えていくうちに、中心部に鉄などの重い元素が蓄えられ、燃え尽きると中心部が重力に耐え切れずに崩壊して非常にコンパクトな天体(中性子星またはブラックホール)となり、その際に爆発が起きてバラバラに飛び散っていく道筋を示し、「実は宇宙の始まりであるビックバンの時には水素とヘリウムなど軽い元素しか生まれませんでした。重い元素は、ものすごく温度が高く、圧力が大きな超新星爆発、さらには中性子連星の合体などで作られたことがわかっています。こうした重い物質は私たちの体を構成しており、その意味で、超新星爆発を理解することは、私たちの源を理解するうえで、大変重要なことです」とコメント。

 宇宙の至るところで起きているという超新星爆発のエネルギーはものすごく大きく、太陽が一生の間に放出するエネルギーの300倍を、たった10秒間で放出するほど。その99%はニュートリノとして放出されるといい、これまでの超新星爆発で放出された「超新星背景ニュートリノ」を観測するため、2020年にスーパーカミオカンデに0.01%濃度のガドリニウムを加える改装を行なった経緯に触れました。中畑所長は「超新星爆発は私たちの身の周りの元素の合成に関わっています。これからも観測を続け、宇宙の始まりからの元素合成の歴史を探っていきたいと思います」と締め括りました。

うちゅうカフェ: 2人の若手研究者が自身の研究を紹介

 中畑所長の講演に引き続き、若手研究者たちが自身の研究を紹介する、うちゅうカフェ「わたしの研究」が開催され、特任研究員(ICRRフェロー)の浅井健人さん(理論グループ)と、野口陽平さん(スーパーカミオカンデグループ)が続けて講演しました。

理論グループの浅井健人さん <プロフィールはこちらへ>
ILCのメインビームダンプを利用して新粒子を探索

 千葉市出身の浅井さんは、中学生時代に英国サイエンス・ライターのサイモン・シンさんの著書「フェルマーの最終定理」「ビックバン宇宙論」「暗号解読」などに出会い、研究者に憧れました。さらに高校生時代に理科、とくに物理に興味を持ち、早稲田大学物理学科へ。その頃、ニュースでも話題となったヒッグス粒子の発見(2012年)、ニュートリノ振動の発見による梶田隆章教授のノーベル物理学賞受賞(2015年)などにも影響を受け、素粒子物理学を志しました。

オンライン講演する浅井さん

 素粒子標準理論について、浅井さんは「ほとんどの素粒子現象を説明できる理論。ただし、説明できない現象も存在するので、完全な理論ではありません」と説明し、土台の標準模型を拡張していくボトムアップ型のアプローチで、究極の理論に辿り着くことを目指す決意を語りました。その上で、宇宙線研究所について「宇宙ニュートリノ研究部門、高エネルギー宇宙線研究部門という『実験』と、宇宙基礎物理学研究部門という『理論』という、両部門のトップレベルが同じ研究所にあり、素粒子実験のプロジェクトと二人三脚で、究極の理論を追い求めるのには、うってつけの環境です」と浅井さん。

 研究上の興味・疑問の一つ「この世界は素粒子でできている。新粒子はあるのか?」への取り組みとして、素粒子物理実験の研究者たちが、日本国内への立地を計画中の国際リニアコライダー(ILC)を利用し、そのメインビームダンプを使った長寿命の新粒子探索のアイデアを披露しました。メインビームダンプとは、コンクリートに囲まれた水を満たした装置で、ILCで生成した電子、陽電子ビームが衝突せずに、衝突点を通過した後、ビームを導いて止める役割を担います。浅井さんは「線型の加速器では、生成した電子、陽電子ビームのほとんどが衝突せずに捨てられてしまいます。ビームダンプの先に厚さ70メートルほどのシールド、その先に全長50メートルの崩壊領域、さらにその先に検出器を置けば、ダンプ内のさまざまな反応により生成した長寿命で軽い新粒子を発見できる可能性があります」と力説しました。

 こうしたアイデアが生まれる背景として、普段から趣味としてたしなむ麻雀などのボードゲームが役立っているとし、「宇宙線研究所には学生、ポスドク、教員も関係なく、ざっくばらんに話し合える環境があり、そんな交流を通じて何気ない会話、そして議論から研究のネタが生まれます」と浅井さん。もう一つの趣味である旅行、観光についても、「日本国内や世界各地で開かれる研究会・国際会議への出席という機会があり、まさに趣味と実益の両取りです。興味の赴くままにやりたいことができるのが理論グループの良いところで、とても楽しく研究生活を送ることができています」と語りました。

スーパーカミオカンデグループの野口さん <プロフィールはこちらへ>
スーパーカミオカンデで陽子崩壊のあらゆるモードを探索!

 野口さんは、素粒子標準模型が17種類の素粒子からなることを説明し、京都大学大学院生のときに参加した欧州原子核研究機構(CERN)の大型ハドロン衝突型加速器(LHC)におけるATLAS実験を振り返りました。「LHCは世界最大エネルギーの加速器で、ヒッグス粒子を含むすべての素粒子を作り出し、未知の新粒子の発見も狙っています。ATLASはその衝突点に設置された巨大な検出器で、陽子同士の衝突によって作り出された粒子の種類やエネルギーを調べています」

神岡からオンライン講演する野口さん

 CERNにおける野口さんの研究は、2012年に発見されたヒッグス粒子がボトムクォークに崩壊するモードの測定でしたが、簡単ではありませんでした。「標準模型によると、ヒッグス粒子はボトムクォークへ崩壊する確率が58%と最も高いのですが、ヒッグス粒子とは無関係な反応も同じエネルギー領域でたくさん起きるため、ATLAS実験では最難関とされていました」。野口さんはさまざまな国から来た研究者の解析チームと協力し、雑音となっているデータの影響を取り除くため、データの量を増やし、機械学習や質量計算の正確性も改善。解析方法を工夫し、ボトムクォークへの崩壊を精度よく測定することに成功。「標準模型の予測を裏付ける結果が得られました」と野口さん。

 2022年4月からは宇宙線研究所の所属となり、スーパーカミオカンデグループの一員として研究をスタート。「LHCで標準模型の正しさはわかりましたが、クォークの電荷の謎などわからないことはまだまだあります。クォークとレプトンは本来一つのものだったというアイデアや、電磁気力・弱い力・強い力はもともと一つの種類の力だったというアイデアがあり、その可能性を調べていくことを、ここでの研究テーマとしました」

 電磁気力・弱い力・強い力を統一する「大統一理論」では、三つの力が、1015GeV付近のエネルギーでおよそ同じくらいの強さになり、統一されるのではないかと期待されていますが、「これだけの大きなエネルギーは加速器実験では実現困難なので、大統一理論が予言する陽子の崩壊を観測することで確かめようとしています」と野口さん。陽子崩壊は、初代カミオカンデ(1983年に完成)の時代から探索が続けられていますが、いまだに見つかっていません。野口さんは「陽子の寿命は当初想定されたよりも長いかも知れませんし、探しているモードが間違っているのかも知れません。陽子もいろいろな崩壊が可能なので、多くの可能性を考慮し、何とかして見つけたいです」と意気込みます。 スーパーカミオカンデの8倍の容量を持ち、2027年に実験開始を計画するハイパーカミオカンデのデータ取得に力を発揮する電子回路の改良にも取り組む野口さん。「今後もスーパーカミオカンデ、ハイパーカミオカンデでの新発見にぜひ期待してください」と締め括りました。


 それぞれの講演が終わった後、浅井さんには「加速器で小さな粒子同士をぶつけるのは難しそうに思うのですが、どのように工夫しているのでしょうか?」「実験グループと理論のグループ間では頻繁に議論する機会があるのでしょうか?」、野口さんには「ニュートリノは質量もほとんどないし、電荷もないということですが、どのようにして観測できるのですか?」「大統一理論によれば、もともと1つだった力が電磁気力と弱い力、強い力に分岐したとのことですが、分岐したきっかけは何だと考えられていますか?」などの質問がWebサイトを通じて寄せられ、二人は一つずつ口頭またはWebサイトへの書き込みにより、丁寧に回答していました。

 中畑所長の講演に対しても多くの質問が寄せられ、Webサイトへの書き込みで回答を行いました。詳しくはこちらのページへ。

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