【柏キャンパス一般公開2022】柏キャンパス特別講演会 重力波グループの田越秀行教授「重力波検出器KAGRAと重力波観測の最前線」

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 特別講演会は、柏キャンパス一般公開のメインイベントとして、各部局の持ち回りで開催しているもので、今年度は情報基盤センター、カブリ数物連携宇宙研究機構、宇宙線研究所の三つの部局が担当となりました。宇宙線研究所からは宇宙基礎物理学研究部門の田越秀行教授(重力波グループ)が登壇し、オンラインで講演を行いました。

オンライン講演する田越教授

 田越教授は現在、宇宙線研究所が、国立天文台、高エネルギー加速器研究機構とともにホストとして、岐阜県飛騨市神岡町の山中に建設、運用する大型低温重力波望遠鏡KAGRAのデータ解析を担当しています。

最初の重力波GW150914の観測・・・「重力波が本当にあり、地球まで伝搬。30倍質量のブラックホールが存在し、連星を形成していることなどが判明した」

 講演の中で田越教授は、重力波について「物体が運動することで、重力によって生じた時空の歪みがバタバタと振動し、波動となって空間を伝搬していく現象」と説明。重力波には、物体と物体との距離を変化させたり、広い物体の場合は変形させるなどの効果があり、検出には巨大なレーザー干渉計で、重力波によって生じた長さの変化を観測すれば良いと述べました。ただし、重力波はとても小さく、現在の観測装置で捉えられるのは、「強い重力をもち、高速で運動している天体。ブラックホールや中性子星などが発生源として考えられ、関係する天体現象としてガンマ線バーストや超新星爆発があります」と解説しました。

 重力波はアインシュタインが一般相対性理論を発表した直後の1916年に予言しましたが、人類が重力波を直接観測できたのは、それからおよそ100年後の2015年9月のことでした。田越教授は、それが米国の重力波望遠鏡LIGOが観測した太陽質量の30倍ほどもあるブラックホール連星の合体による重力波(GW150914)だったことに触れ、「アインシュタインが予測した重力波が本当にあり、それが地球まで伝搬した。太陽の30倍質量のブラックホールがあり、それらが連星を形成していた、など多くのことがわかりました。同時にこのような天体の起源について、天文学的な問題が投げかけられました」と振り返りました。

 さらに、ヨーロッパの重力波望遠鏡Virgoが参加し、2017年8月に観測に成功した中性子連星の合体による重力波(GW170817)は、米国Fermi衛星がほぼ同時刻に観測したショートガンマ線バーストと方向が一致。重力波で決めた方向に多くの光学望遠鏡が向けられ、新しい天体が発見されるとともに、あらゆる波長での観測が実現しました。「短いガンマ線バーストとの関係や、可視光赤外線(キロノバ)の観測で重元素合成の現場が見られた、宇宙の膨張則(ハッブル定数)の制限、中性子星を構成する超高密度物質の性質など、本当に多くの成果が得られた発見でした」と田越教授。

中性子連星の合体からの重力波(GW170817)の観測・・・「短いガンマ線バーストとの関係、重元素合成の現場が見られた、ハッブル定数の制限、中性子星を構成する超高密度物質の性質などが判明」

 重力波の検出には複数のレーザー干渉計が必要な理由について、田越教授は「レーザー干渉計は、2本の腕に対して垂直方向には感度は良いのですが、水平方向の感度はよくありません。テレビのアンテナなら方向を変えれば済みますが、レーザー干渉計は地面にへばりつくように設置されていて動かせないので、重力波の到来方向を決定するためには地球上の離れた場所に3台以上の重力波望遠鏡が必要です」とし、ヨーロッパのVirgo、日本のKAGRAが国際共同観測の体制を組む根拠を述べました。

 KAGRAについては、建設が2010年から始まり、2020年4月に共同観測を実現するまでの歩みを振り返ったうえで、「KAGRAでは現在、来年3月から重力波共同観測(O4)に参加するため、感度を向上させる作業を行なっています。銀河系内かそれに近いところで超新星爆発が起きれば、KAGRAが重力波を観測し、隣のスーパーカミオカンデではニュートリノを同時に観測することが実現するかも知れません」と期待を寄せました。

KAGRAが国際共同観測(O4)に参加へ・・・「超新星爆発が近くで起きれば、重力波とスーパーカミオカンデにおけるニュートリノとの同時観測が実現するかも」「一般相対性理論からのズレにも期待」

 田越教授は最後に「2015年以来、90個の重力波イベントが観測され、人類は宇宙を観測する新たな目(耳)を手に入れました。一つの天体現象を重力波とともに様々な電磁波やニュートリノなども同時観測する、マルチメッセンジャー天文学がますます盛んになると思われます。将来まだ発見されていない一般相対性理論からのズレが見つかるかもしれません」と期待を述べ、講演を締め括りました。

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