柏キャンパス一般公開、10月下旬にオンラインで開催
宇宙線研究所の企画に述べ約2000人の視聴者

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 東京大学柏キャンパスのオンライン一般公開が、10月17日(土)から25日(日)にかけて開かれ、梶田隆章所長の講演会とうちゅうカフェのYouTube中継などを行なった宇宙線研究所の企画を多くの方々が視聴しました。COVID-19の感染拡大を防ぐ観点から、今年の一般公開はオンラインのみとなり、多くの企画が10月後半の2週間ほどに分散されて開催されましたが、宇宙線研究所の企画の視聴者は10月末のアーカイブ公開期間中も含めて延べ約2000人に及びました。ご視聴いただき、誠にありがとうございました。

梶田所長の講演と「うちゅうカフェ」を約280人が視聴

梶田所長「宇宙線研究所とわたし」
研究第一の姿勢があったおかげで、楽しく研究できた

 梶田隆章所長は24日午後、宇宙線研究所からの中継で「宇宙線研究所とわたし」と題してオンライン講演。理学系研究科の大学院生時代に関わったカミオカンデから、ニュートリノ振動を発見し、自身のノーベル物理学賞の受賞につながったスーパーカミオカンデ、そしてプロジェクト代表を務めるKAGRAによる重力波の研究までを概観しました。

所長室からオンラインで講演する梶田所長

 この中で、梶田所長は、小柴昌俊・特別栄誉教授が提案し、1987年の宇宙線研究所将来計画検討委員会の報告書でも最優先課題と掲げられたスーパーカミオカンデの建設及び研究に従事するため、1988年4月、戸塚洋二・特別栄誉教授、中村健蔵・高エネルギー加速器研究機構名誉教授、中畑雅行・ICRR副所長とともに宇宙線研究所に来たこと。1995年3月からは神岡に移り住み、スーパーカミオカンデの建設に従事し、1996年4月に完成したこと。カミオカンデの時代からおかしいと感じていた大気ニュートリノの研究を集中して行なった結果、ニュートリノ振動を発見し、1998年に発表したこと。1999年4月に当時、西東京市(旧田無市)にあった宇宙線研究所に発足した宇宙ニュートリノ観測情報融合センターの所属となり、2000年4月からは柏キャンパスに移って来たことなどを、当時の豊富な写真を示しながら振り返りました。

 また、重力波の研究については、将来計画検討委員会が1993年、スーパーカミオカンデの建設を提言してからすぐに検討を再開し、活動銀河核の中心にある巨大ブラックホールや中性子星同士の合体、原始重力波の研究などに不可欠との理由で、「重力波を研究するべき」と結論づけたこと。2010年から大型低温重力波望遠鏡KAGRAの建設がスタート、2019年に完成したこと。2020年3月から観測を開始したものの、COVID-19によるパンデミックの影響で2週間で運転を停止せざるを得なかったことにも触れ、「日米欧と話し合い、2022年に次期観測をスタートさせることを予定しています」と話しました。  さらに、スーパーカミオカンデの建設を始めた1987年当時、宇宙線研究所が、存在意義が乏しく、組織の大幅な改変を要するとして、政府による国立大研究所のスクラップ化計画の第一候補だったことにも言及し、「幸い良い成果を出せたこと、良いプロジェクトを始めることができたこともあり、現在は多角的に様々な観測を進め、ブラックホールなど宇宙の高エネルギー現象や宇宙の基本法則を研究する研究所となることができました。研究第一の姿勢があったおかげで、研究を楽しむことができたと思っています」と締め括りました。

うちゅうカフェ: 3人の若手研究者が自身の研究を紹介

 梶田所長の講演に引き続き、若手研究者たちが自身の研究を紹介する、うちゅうカフェ「わたしの研究」が、橋山和明さん(修士1年)と宮崎一慶さん(同)の進行によって行われ、特任研究員の川島朋尚さん(高エネルギー天体)、藤田智弘さん(理論)、中村輝石さん(スーパーカミオカンデ)の3人が続けて講演しました。

川島さん「光で探るブラックホール」
イベント・ホライズン・テレスコープで開かれた新しい時代

オンライン講演する川島さん

 栃木県出身の川島さんは、横浜市立大理学部に進学した時、本屋でたまたま手に取った教科書「宇宙物理」(佐藤文隆著、岩波書店)を読み、「ブラックホールは本当に存在しそう。必死に努力すればサイエンスの進展に貢献できるかも」と感じたことをきっかけに、物性物理から宇宙物理理論(ブラックホール)に進路変更。大阪大学と千葉大学の大学院で宇宙物理理論を学んだ後、カリフォルニア大学サンタバーバラ校、国立天文台などでポスドクを経験し、国立天文台時代の2019年4月には、イベント・ホライズン・テレスコープによる楕円銀河M87の巨大ブラックホールの撮影成功を発表する記者会見で説明を担当したことも紹介しました。

 ブラックホールについて、川島さんは「重力で物も光も吸い込む天体で、光が抜け出せないので真っ黒です。しかし、強い重力で引き寄せられた高温のガスが、降着円盤で渦を巻いてブラックホールに落ちる際に膨大なエネルギーを生み出し、それが相対論的ジェットを形成します」と、ブラックホールの周囲に光子リングが撮影できた理由を説明。

 また、相対論的ジェットの駆動源ともされるブラックホールのスピン(角運動量)が測定できる可能性についても言及し、「事象の地平面スケールの物理が探れる新しい時代が来ました。ブラックホールのスピン測定やジェットの噴出機構を今後の最重要テーマとしたいです」と抱負を語りました。

藤田さん「宇宙の始まり〜我々はどこから来たか〜」
神話だった宇宙の始まりを科学的に解き明かす「宇宙論」

オンライン講演する藤田さん

 福岡市出身の藤田さんは、小学校の頃、プラネタリウムや「星世界たんけん」(加賀谷穣作・画、星の手帖社)で興味を覚え、さらに高校2年生の時に参加した「君が天文学者になる3日間」(国立天文台主催)に感動したのをきっかけに、天文学を目指したことを明かしました。その後、東京大学理学部物理学科、大学院理学系研究科へと進学し、村山斉・カブリ数物連携宇宙研究機構(IPMU)前機構長のもとで素粒子・宇宙論を学んだことを紹介。

 スタンフォード大学、京都大学、ジュネープ大学などでポスドクとしてのキャリアを積みながら、研究してきた宇宙論について、「星はかつて、神話の世界、神々と結びつけて考えられてきました。しかし、アインシュタイなどの物理学者による理論研究、さらに観測技術も発展し、宇宙創生を科学的に解明する時代となり、発展してきました」と解説しました。そのうえで、「宇宙の始まり=138億年前のインフレーション」と現代宇宙論の仮説を紹介し、「ビッグバンの証拠であるマイクロ波背景放射(CMB)の衛星画像から見つかった場所による温度の微小な違いを、量子力学で説明するのがインフレーション理論です」と説明。

 さらに、重力波を使えば、インフレーションの証拠が得られる可能性があることに触れ、原始重力波の痕跡を探索する日本発のプロジェクトLiteBIRDに言及。原始重力波が観測できれば、「物質の種類によって重力波の性質が異なることを利用し、ビックバン前にどのような物質が存在していたを知りたいと考えています」と抱負を語りました。

中村さん「SK: 2020から始める神岡生活」
光電子増倍管の固定用ゴム材料探しに地元の図書館へ

神岡からオンライン講演する中村さん

 つくば市出身の中村さんは、小中学校時代、地元の図書館に通い、講談社ブルーパックスシリーズや「ホーキング、宇宙を語る〜ビッグバンからブラックホールまで」(スティーブン・W・ホーキング著、早川書房)などを読み、宇宙の研究に興味を持ったこと。さらに、京都大学に進学し、同大学院では宇宙線研究室に所属し、暗黒物質を探索するNEWAGE実験や、マヨラナニュートリノを探索するAXEL実験などに関わった後、2020年4月から宇宙線研究所附属神岡宇宙素粒子研究施設の特任助教に着任。

 スーパーカミオカンデやハイパーカミオカンデを使った実験に加わることになった経緯を説明し、「中学くらいの時、雑誌『子供の科学』に小柴昌俊先生がノーベル賞を受賞した記事があり、カミオカンデの写真を見て大きなインパクトを受けました。今この実験に携わることができて感慨深く、とても嬉しいです」と語りました。

 中村さんは、スーパーカミオカンデにガドリニウムを溶かすSK-Gdプロジェクトにも加わっていますが、最も興味をそそられるのが陽子崩壊の探索で、陽子がπ中間子とニュートリノに壊れる理論モデルを紹介。また、建設中のハイパーカミオカンデで、光電子増倍管を水中でしっかり固定するゴム材料にも触れ、「光電子増倍管は浮力が60キロもあり、しかも運転を始めたら20年は継続します。この条件に耐えられるゴム材料を探すため、地元の富山市立図書館で本を探すのも、とても楽しいです」と近況を語りました。


 それぞれの講演が終わった後、視聴者からは「ブラックホールの電荷を外から知る方法は?」「スピンとはブラックホールの自転か。また、どうして自転するのか?」「宇宙は一つしかないのか?」「どうやって過去の写真を撮ることができるのか?」「スーパーカミオカンデでダークマターが探索できるとは、どのようなメカニズムなのか?」「ガドリニウムを加える時に濃度を一定にする方法は?」などの質問が質問サイトに届き、3人は一つずつ丁寧に回答していました。


その他のイベントレポートは以下のリンクをどうぞ。

<うちゅうラボ①>大型霧箱で宇宙線を探す!

<うちゅうラボ②>重力波望遠鏡KAGRAの仕組みを知ろう!

研究グルーブによる紹介・学生のための相談会