<柏キャンパス一般公開2021>10月22-29日にオンラインで開催
のべ約2300人が宇宙線研究所の企画を視聴

トピックス

 東京大学柏キャンパスのオンライン一般公開が、10月22日(金)から29日(金)にかけて開かれ、梶田隆章所長の講演会とうちゅうカフェのYouTube中継などを行なった宇宙線研究所の企画を多くの方々が視聴しました。今年の柏キャンパス一般公開は、COVID-19の感染拡大を防ぐ観点から、昨年に引き続いてオンライン開催のみとなり、多くの企画がコア日程の22日から3日間に開催されましたが、宇宙線研究所が主催する企画の視聴者はアーカイブ公開期間中(10月末まで)を含めて、のべ約2300人に及びました。ご視聴いただき、誠にありがとうございました。ご視聴いただき、誠にありがとうございました。

梶田所長の講演と「うちゅうカフェ」を約390人が視聴

梶田所長「宇宙線研究所とニュートリノ研究」
宇宙線研究所 ニュートリノ研究で長年にわたり大きな成果

 梶田隆章所長は23日午後、宇宙線研究所からのオンライン中継で「宇宙線研究所とニュートリノ研究」と題して講演。物理学におけるニュートリノ研究の歴史を概観し、宇宙線研究所が関わってきたカミオカンデ実験、スーパーカミオカンデ実験、そして将来のハイパーカミオカンデ実験について解説しました。

所長室からオンラインで講演する梶田所長

 梶田所長はまず、ニュートリノについて、宇宙線が大気分子の原子核にぶつかって素粒子が生まれ、それが崩壊する過程でニュートリノが出てくることが、1960年ごろから物理学の理論で予測され、1965年にインドと南アフリカの二つの実験で大気ニュートリノが見つかったことに言及。この時に大阪市立大に在籍し、インドの実験に参加していた三宅三郎氏が後に宇宙線研究所長となったことに触れ、「三宅所長は1965年、『宇宙線ミュー中間子及びニュートリノの研究』で仁科記念賞を受賞しています。宇宙線研究所におけるニュートリノ研究の草分け的な存在です」と語りました。

 1970年代になると、素粒子の新しい統一理論「大統一理論」が生まれ、水素の原子核である陽子の寿命が1030年と予言されます。これを受けて、陽子の崩壊を探す実験が世界中で行われるようになり、初代カミオカンデが岐阜県飛騨市の神岡鉱山に建設され、1983年7月から実験が開始されます。「このときニュートリノは陽子崩壊のノイズでしかありませんでしたが、1983年の秋、小柴先生が『もうちょっと頑張れば太陽ニュートリノ(太陽中心の核融合により生じるニュートリノ)の観測もできるのでは』と提案し、カミオカンデを改造することになりました。これが、カミオカンデでニュートリノ研究がクローズアップされることになったきっかけです」

 当時、太陽ニュートリノが注目された理由として、太陽のエネルギー源である核融合の様子がわかることに加え、さらに当時は太陽ニュートリノが理論予言の3分の1しか観測されないという謎がありました(太陽ニュートリノ問題)。梶田所長自身も大学院生として参加したカミオカンデの改良工事を終え、1987年1月から観測を開始した翌月、銀河系のとなりにある大マゼラン星雲で超新星爆発が起き、カミオカンデで13秒間に11個という超新星ニュートリノの信号を捉えることに成功します。(この成果により、小柴昌俊・特別栄誉教授が2002年ノーベル物理学賞を受賞しました)

 さらに1988年には大気ミューニュートリノの観測結果が理論の予想より少ないこと、1989年には太陽ニュートリノの観測にも成功し、やはり理論の予想よりも少ないことを発見します。「80年代はニュートリノ研究で画期的なデータが出て、予想されないことが見えてきました。もっと研究して明らかにすべきということになり、スーパーカミオカンデの建設が認められることになりました」

 スーパーカミオカンデの時代からは宇宙線研究所が実験の推進主体となり、1996年4月から観測が始められました。ここでは、陽子崩壊に加え、太陽ニュートリノを含む天体ニュートリノ観測をテーマに研究が進められ、1998年には大気ニュートリノの観測によりニュートリノ振動を発見します(この成果により、梶田所長が2015年ノーベル物理学賞を受賞しました)。太陽ニュートリノの観測でも、カナダのSNO実験とともに、ニュートリノ振動が起きていることを確認しました。さらに、K2KやT2Kなど加速器で人工的に作ったニュートリノによる長基線実験も行われ、ここでもニュートリノ振動が起きていることを確認しました。

 「ニュートリノの質量の問題で、非常に多くのことがわかってきたのに加え、新しい謎にアタックする機会を与えてくれました。宇宙の最初に物質、反物質が同じ量だけ生まれたとされていますが、現在はどこを探しても物質しか見当たりません。その謎にニュートリノが関係しているのではないか、と理論的な解釈から言われており、よく調べてみようということで、ハイパーカミオカンデを建設することになりました」

 ハイパーカミオカンデは、スーパーカミオカンデの8倍の質量を持つ次世代の実験装置で、2027年の観測開始を目指しています。梶田所長は建設が着々と進められるようすを何枚かの写真で紹介し、「宇宙線研究所は宇宙線に関連した様々な研究が行われていますが、その中でもニュートリノ研究で長年にわたり大きな成果をあげてきました。これからもハイパーカミオカンデで世界の研究に貢献していきたいと考えています」と締め括りました。

うちゅうカフェ: 2人の若手研究者が自身の研究を紹介

 梶田所長の講演に引き続き、若手研究者たちが自身の研究を紹介する、うちゅうカフェ「わたしの研究」が、菊地原正太郎さん(博士課程3年)と小林伸さん(同)の進行によって行われ、特任研究員(ICRRフェロー)のYuhang ZHAOさん(重力波グループ)、Marcel STRZYSさん(チェレンコフ宇宙ガンマ線グループ)が続けて講演しました。

うちゅうカフェで司会を務める菊地原さん

Yuhangさん「量子光工学を使ったKAGRAの重力波観測で探る宇宙」
レーザーの量子ノイズを減らし、KAGRAの感度向上に貢献

うちゅうカフェで自身の研究について紹介するYuhangさん

 中国東北部の瀋陽市出身のYuhangさんは、北京師範大学に進学した時、重力波の研究に魅せられ、2017年から文部科学省の奨学金で総合研究大学院大学に留学。周波数を一部絞り込んだレーザーを使ったKAGRAのノイズ低減について研究して博士号を取得し、国立天文台の研究員を経て、2021年4月にICRRフェローに就任しました。

 宇宙の謎を解明するためには、特定エリアにある遠い星の弱い光を「すばる望遠鏡」など大口径の天体望遠鏡で集めて観測する方法がありますが、重力波望遠鏡のLIGO、Virgoによる重力波観測がきっかけとなり、2017年8月に実現した連星中性子星の合体の同時観測は特別なものでした。Yuhangさんは「これまでにない歴史的な観測と言え、とてもワクワクしました。その理由は、世界中の70の望遠鏡が同じ天体をほぼ同時に観測することに成功し、宇宙の彼方で起きた連星中性子合体の様子を伝えてくれたからです」と語り、二つの重く高密度な星が合体した様子について解説しました。

 Yuhangさんは重力波が、質量のある物体が動くことによって生じた時空の歪みが空間を伝わっていく現象であることを説明したうえで、岐阜県飛騨市にある大型低温重力波望遠鏡KAGRAの特徴について説明し、「地面振動の少ない地下に設置され、極低温までサファイヤ鏡を冷やして熱雑音を取り除き、レーザー干渉計で陽子の1万分の1ほどしかない距離の変化を測定します」と語りました。

 自身の研究については、「レーザーの量子状態を光共振器を使って操作することで、レーザーが生む量子ノイズの低減に取り組んでいます」とし、三鷹市の国立天文台にある実験施設の写真を示しました。

Marcelさん「チェレンコフ宇宙ガンマ線グループでの私の研究について」
天体からのガンマ線により作られるチェレンコフ光の画像を解析

オンライン講演するMarcelさん

 

 ドイツ西部の小さな都市イゼルローン出身のMarcelさんは、ドルトムント工科大学に在学中の2011年10月から半年間、柏キャンパスの宇宙線研究所に留学する機会があり、日本がとても好きになったといいます。その後、ルートヴィヒ・マクシミリアン大学とマックス・プランク物理学研究所で2020年に博士号を取得し、チェレンコフ宇宙ガンマ線グループの研究員としてICRRで研究する道を選びました。

 宇宙に存在する天体は、電波からガンマ線まであらゆる波長の光(電磁波)を出しており、天体の仕組みの理解には全ての情報を解析する必要があります。Marcelさんは「この中で私が最も興味を持っているのは高エネルギーのガンマ線ですが、これらは天体で加速された宇宙線(陽子や電子など)と光子やガスとの相互作用により発せられるため、天体の仕組みを知る大きな手かがかりとなります」と、興味の理由を述べました。

 ガンマ線は大気に衝突し、多くの粒子に枝分かれする空気シャワーとなって消えてしまいますが、空気シャワーが大気中で作るチェレンコフ光を捉える望遠鏡(チェレンコフ望遠鏡)を使うことで捉えることが可能です。「機械学習と統計的な手法を駆使して、観測されたチェレンコフ光の画像を解析する技術が主な研究テーマで、スペイン・カナリア諸島ラパルマ島にあるチェレンコフ望遠鏡が観測した、銀河系内の宇宙線の起源と推測されている超新星残骸のデータを解析しています」。

 さらに、普段は宇宙線研究所の自室で、スペインから最新の観測データを入手して解析する慌ただしい毎日を送っている一方、休日にはドライブ、サイクリング、ハイキングなどを楽しみ、鄙びた温泉旅館と日本食を探索していることにも触れ、「ドイツではアーチェリーをやっていたので、2020年4月から弓道を始めました。弓道場で矢を射ることに完全に集中する感覚が楽しいです。慌ただしい研究生活の中で良いバランスになっています」と語りました。


 それぞれの講演が終わった後、Yuhangさんには「LIGOなどの重力波望遠鏡になくてKAGRAだけにある特徴はなにかありますか?」「重力波の研究者になるためには、高校や大学でどんなことを勉強すればいいですか?」「量子的な限界とは何ですか?」、Marcelさんには「チェレンコフ天文学のどこに魅力を感じて研究対象にしましたか?」「なぜラパルマに望遠鏡を作ったのでしょうか?」「日本の温泉はどこが一番の好みですか?」などの質問がWebサイトを通じて寄せられ、二人は一つずつ丁寧に回答していました。


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研究グルーブによる紹介・学生のための相談会