宇宙・素粒子スプリングスクール2023|プロジェクト研究の紹介

最高エネルギー宇宙線

Supervisor:荻尾彰一 Supporter:高橋薫(M2)、藤末紘三(D2)

参加人数 : 6人 (受け入れ可能な上限)
事前の準備  : 2月中旬の1日:オンライン(可能なら柏で)事前講習


 ◼︎目的と達成目標
 宇宙からは、地上の加速器では実現できないような非常に高いエネルギーを持った粒子が到来しており、1020eVにも到達する粒子を最高エネルギー宇宙線と呼びます。その起源は不明ですが、ブラックホールや極超新星などの極限的な環境の天体・物理現象が関係していると思われます。到来頻度の低い最高エネルギー宇宙線を観測するには、宇宙線と地球大気が反応してできる空気シャワーを観測します。本プロジェクトでは、空気シャワーの生成と観測の原理を学び、実際に実験室で空気シャワーの観測を行います。観測データを解析し、宇宙線の到来方向を測定します。
 ◼︎手法と指導内容
 実験室に設置した4組のシンチレーション検出器で、同時計測法によって空気シャワーを観測します。取得したデータを解析し、天球図上に到来方向分布として表示します。議論を通してデータ較正や結果の解釈を進めます。2月中に1日、オンラインで(全参加者が可能であれば柏で対面で)実験装置の基礎的な扱い方の習熟と練習用データ取得を行い、期間までにデータ解析手法を学んでもらいます。期間中(3/6-10)は、取得したデータの解析と追加データの取得を行い、結果をまとめて発表資料を作成します。

2023年のプロジェクト研究のメンバーたち (下段の写真は、北棟1階の望遠鏡組立実験室で、実験装置を配置して機器を調整するようす)
2023年のプロジェクト研究のメンバーたち (下段の写真は、北棟1階の望遠鏡組立実験室で、実験装置を配置して機器を調整するようす)

宇宙ニュートリノ研究

Supervisor:竹田敦 Supporter : 河内弘輝(M1)、神長香乃(M1)

参加人数 : 5人
事前の準備 : 2月中旬の1日:スーパーカミオカンデ見学。小型検出器でデータを取得する。


 ◼︎目的と達成目標
 ニュートリノは電荷をもたず物質とほとんど相互作用をしないため、観測が非常に難しい素粒子です。このニュートリノを観測し、その性質を理解することは宇宙の起源や進化の解明に深いかかわりをもちます。岐阜県飛騨市にあるスーパーカミオカンデは、世界最大のガドリニウム水溶液を用いた宇宙素粒子観測装置であり、太陽ニュートリノ、大気ニュートリノ、人工ニュートリノ、超新星爆発由来ニュートリノなどの観測を通じてニュートリノの性質を明らかにすることで、宇宙初期に物質がどのように作られたかという根源的な謎の解明を行っています。2022年度初頭にガドリニウム濃度が0.03%まで高められ、ニュートリノ反応が起きた際に発生する中性子を効率よく検出することで、超新星背景ニュートリノの世界初観測を目指しています。
 本プロジェクト研究では、神岡鉱山の地下にあるスーパーカミオカンデの見学と、テーブルトップの小型水槽を用いた実験により、ニュートリノ研究をより身近なものとして体験します。
 ◼︎手法と指導内容
 2月中旬頃に神岡にてスーパーカミオカンデの見学および小型検出器でのデータ取得を行います。前泊をして早朝に富山駅前に集合し、研究者の運転する車に乗って富山駅から神岡へ移動します。神岡到着後、スーパーカミオカンデの見学を行い、その後に小型の水槽と光電子増倍管からなるテーブルトップの実験装置を使って、ガドリニウム水溶液による中性子捕獲の実験を行います。実験終了後、研究者の運転する車に乗って富山駅前で解散します。
 期間中(3/6~10)は、神岡にて取得したデータの解析を行い、結果をまとめて発表資料を作成します。

2023年のプロジェクト研究のメンバーたち (下段は、柏キャンパスでの議論のようす)
2023年のプロジェクト研究のメンバーたち (下段は、柏キャンパスでの議論のようす)

高エネルギーガンマ線天文学

Supervisor:大石理子、齋藤隆之、Daniela Hadasch、Marcel Strzys Supporter : 阿部正太郎(D1)、橋山和明(D1)

参加人数 : 5人
事前の準備 : 検討中


 ■目的と達成目標
 本プロジェクトでは、高エネルギーガンマ線観測で用いられる解像型大気チェレンコフ望遠鏡で取得されたデータの中から、特徴的な事象である「ミューオンリング」の探索を行います。CTA-LST1で取得された観測データを用いて円環・円弧パターンの同定を行い、解析で得られた円環の半径・光量分布がラ・パルマ観測サイトの大気屈折率・反射鏡の口径・μのエネルギースペクトルから推定されるものと合致しているかを検証します。これらの過程で空気シャワーを構成する粒子の特性(崩壊寿命、相互作用、エネルギー損失過程)の違いとチェレンコフ光放射について学び、チェレンコフ望遠鏡がガンマ線望遠鏡として使用できる理由、円環パターンがほぼミュー粒子由来であると言える理由、μ粒子のイメージが望遠鏡の較正光源として使用される理由について理解します。
 また、本手法で検出したμ粒子の頻度と文献の流量値から計算される頻度が異なる場合、それがどのような理由によるものか、またより正確にミュー粒子を計数するためには実験・解析上でどのような改善を行えばよいかについて考察を行います。
 さらに、本研究を理解する上で必要な光センサーやデータ収集回路の動作についても実体験で学び、宇宙線研究所でのLST1観測リモートシフトを見学することも予定しています。
 ■手法と指導内容
 最初に空気シャワー現象と解像型大気チェレンコフ望遠鏡での観測原理についての講義を行い、プロジェクトの概要の理解と遂行のために必要な基礎知識の習得を図ります。
 次に、既に取得済のCTA-LST1 の観測データ、及びCTAの装置応答を組み入れたMCシミュレーションデータ(孤立μ、及びサブ電磁成分とμ成分が混在したハドロンシャワーのサンプル)を併用し、リング同定ソフトウェアを用いて円環パターンの同定によるμ粒子事象の探索を行い、観測された円環の特性(円環半径・光量分布、到来頻度)に対する議論・考察を行ってもらいます。
 観測データ・MCデータ・解析ソフトウェアは共通のサーバー上に置き、ネットワークを介してこのサーバー上で解析作業を行う。既に保有するラップトップPCは作業端末として貸し出します。
 フルオンラインになった場合は、ハードウェアや観測シフトの体験学習が省かれることを除いて指導内容に大きな変更はありません。しかし、ネットワーク環境が個々人で異なることが想定されるため、共通サーバー上だけでなく個別の端末上で解析作業が行えるようなバックアップ案(各端末にソフトウェアのインストールとデータのダウンロードを行った上で貸し出す)を準備します。

2023年のプロジェクト研究のメンバーたち (下段は、SiPMの回路を組み立てる実験に取り組む学生たち)
2023年のプロジェクト研究のメンバーたち (下段は、SiPMの回路を組み立てる実験に取り組む学生たち)

超高エネルギー宇宙線

Supervisor:瀧田正人、川田和正 Supporter:横江誼衡(D2)、加藤勢(D3)、川島輝能(M2)

参加人数 : 5人
事前の準備 : 2月中旬に1日 : オンライン(zoom)で実験説明、ROOTのインストール、使い方の説明


 ◼︎目的と達成目標
 「銀河系内のどの様な天体が超高エネルギー宇宙線をどのように加速しているのか?」 宇宙線の発見以来100年以上続くこの謎を解明するため、宇宙線および宇宙ガンマ線を中国・チベット(標高4300m)に数万平米のシンチレーション検出器のアレイを設置し観測を続けています。また、南米ボリビア・チャカルタヤ山(標高4740m)にも同型の装置の建設が進行中で、将来的に宇宙線の発生源の有力候補である銀河中心方向の観測も計画されています。本プロジェクト研究では、素粒子の一つであるミュー粒子を、チベットで稼働しているものと同型の粒子検出器を組み合わせて測定します。複数の複数検出器からの信号を論理回路モジュールで制御し、ミュー粒子を効率良く検出する装置を実際に組み上げ、粒子のライフタイム等の正確な測定を目指す。空から絶え間なく降り注ぐ目に見えない素粒子の性質をどのように調べるのか?宇宙線観測装置を通して体験します。
 ◼︎手法と指導内容
 宇宙線研究所の実験室で、シンチレーション検出器を複数組み合わせ、宇宙線ミューオンのライフタイムの測定を行います。事前にオンライン(zoom)にて実験の概要を説明し、ソフトウェアのインストール・動かし方を学びます。開催期間初日に実験装置のセットアップを実際に組んでデータ収集の開始を目指します。その後、ROOTをベースとした解析ツールを用いて、データを解析し、ミューオンのライフタイム等の物理量を推定します。データ解析、考察、研究発表準はすべて対面形式を想定していますが、希望があればハイブリッドで行うことも可能です。必要であれば解析用ノートPCは貸し出す予定です。

2023年のプロジェクト研究のメンバーたち (下段は、実験装置のセットアップを行うメンバーたち)
2023年のプロジェクト研究のメンバーたち (下段は、実験装置のセットアップを行うメンバーたち)

観測的宇宙論

Supervisor:大内正己 Supporter:ZHANG Yechi(D3)、松本明訓(M2)

参加人数 : 6人(受け入れ可能な上限)
事前の準備 : 1日目(2/15頃実施):ガイダンス、課題発表会、研究指導 (対面+zoomのハイブリッド)


 ◼︎目的と達成目標
 現在の宇宙を満たす星や銀河が、どのように形成されたのかについては、理解されていない物理プロセスが多く、宇宙進化さらには観測的宇宙論研究の最重要課題の一つとして残されています。本プログラムでは、NASAが計画を主導し、稼働を始めてまもないジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(JWST)によって得られた分光観測データを解析し、宇宙初期にある形成まもない銀河の星や星間ガス、ブラックホール、暗黒物質に関わる物理現象を調べます。観測データによって、ビッグバン元素合成で作られた元素の組成比との違いやガスの温度・密度、電離状態、力学構造など様々な物理状態を測定し、理論モデルと比較することで、未知の物理プロセスの発見を目指します。
 ◼︎手法と指導内容
 JWSTの分光観測により得られた最新のデータを用います。研究室のMac Book Airを学生に貸し出し、対面とオンライン(zoom)を用いた指導と議論を通じて、データ解析および理論モデルとの比較、考察、研究発表準備を行ってもらいます。具体的には、2月中旬に柏キャンパスに1日だけ学生に来てもらい、Mac Book Airを貸出し、解析ソフトウェアの使い方を教員とTAで対面指導をします。柏で対面指導を受ける学生は首都圏在住の参加者を想定していますが、それ以外の地域の参加者に対しても、Mac Book Airを郵送しておき、同日にzoomを用いて指導します。その後、スプリングスクール実施の前週までの約半月の間に3回程度zoomで指導を行う。スプリングスクール 実施期間は、通常通りの指導を対面で行います。
 参加する学生の経験や知識は問わないので心配の必要はありません。ただし、しっかりとした指導のもとで、参加者には十分な準備と研究活動が期待される。スプリングスクール期間中に、研究に没頭してみたい人向けのプロジェクトです。

2023年のプロジェクト研究のメンバーたち (下段は、柏キャンパスでデータ解析を行うメンバーたち)
2023年のプロジェクト研究のメンバーたち (下段は、柏キャンパスでデータ解析を行うメンバーたち)

重力波天文学

神岡 / Supervisor:内山隆
柏/ Supervisor:田越秀行 Supporter:玉木諒秀(M2)、岩谷 昌樹(D1)

参加人数 : 5人
事前の準備 : 2月中旬:干渉計に関する講義(zoom)
      2月28日か3月1日(個々の学生が選択可):KAGRA見学および体験学習


 ◼︎目的と達成目標
 Einsteinの一般相対性理論で予言された時空のさざ波、重力波は、2015年の初検出以来、ブラックホールや中性子星の連星合体から放たれた重力波が数多く検出されるようになり、新発見が相次いで報告されています。従来の電磁波観測とは異なる情報をもたらす重力波は、宇宙を見る新たな窓となり、さらなる天文学の発展に貢献することが期待されています。
 現在の重力波検出の主流は、マイケルソン干渉計を基本とした、大型レーザー干渉計です。本プロジェクト研究では、神岡鉱山の地下空間に設置された片腕3kmのレーザー干渉計型重力波検出器KAGRAの見学と、テーブルトップのマイケルソン干渉計を用いた体験学習を行います。また、公開されている重力波の観測データを用いたデータ解析の演習も行います。これらにより重力波研究への興味を更に深めてもらいます。
 ◼︎手法と指導内容
 2月中旬ごろに神岡にて、KAGRAの見学およびテーブルトップのマイケルソン干渉計を用いた体験学習を行います。体験学習の前には、レーザー干渉計に関する基本的な講義を、参加者全員に対してZoomにより行います。
 KAGRA見学の前日に、参加者は必要な場合は富山駅周辺のホテルに宿泊します。当日朝に研究者の運転する車に乗り、富山駅から神岡へ移動。神岡到着後、午前中の時間を使ってKAGRAの見学を行います。午後からは、神岡にある研究棟にてテーブルトップのマイケルソン干渉計を用いた体験学習を行います。学習終了後、研究者の運転する車に乗り富山駅で解散。必要な場合、参加者は富山駅周辺のホテルに宿泊し、翌日帰郷する。なお、KAGRA見学はコロナ感染症対策のために、5名の参加者を1チーム3名と2名に分けて、各チーム別々の日に開催します。データ解析については,柏にて指導と議論を行います。

2023年のプロジェクト研究のメンバーたち (下段は、柏キャンパスでデータ解析に取り組むメンバーたち)
2023年のプロジェクト研究のメンバーたち (下段は、柏キャンパスでデータ解析に取り組むメンバーたち)