広報室
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【記者会見】「宇宙の最高エネルギー粒子生成源へ手がかり」
 ―最高エネルギー宇宙線のホットスポットの兆候―

出席者
 

川田 和正(東京大学 宇宙線研究所 特任助教)
佐川 宏行(東京大学 宇宙線研究所 准教授)
福島 正己(東京大学 宇宙線研究所 教授)
荻尾 彰一(大阪市立大学 大学院理学研究科 准教授)
陪席:梶田 隆章(東京大学 宇宙線研究所長)

発表のポイント

 ◆米国ユタ州のTelescope Array宇宙線観測装置によって、5.7×1019電子ボルト以上の最高エネルギー宇宙線が過剰に飛来する「ホットスポット」の兆候を初めて北半球の空でとらえた。
 ◆ホットスポットは北半球の空の特定の方向(直径約40度の範囲)にあり、最高エネルギー宇宙線が等方分布の予想より約4倍多くこの領域から到来していることを観測した。
 ◆今後は、最高エネルギー宇宙線の観測例をさらに増やし、これら宇宙線の発生源となるような宇宙の極高エネルギー現象(注1)との関連を明らかにしていく予定である。

発表概要

地球には広いエネルギー領域にわたって宇宙線があらゆる方向から等しく(等方的に)到来しています。つまり、これまでに観測されていた宇宙線の到来方向分布においては、宇宙の「特別な方向」は見いだされていませんでした。東京大学宇宙線研究所を含むTelescope Array(TA)国際研究グループ(注2)は、米国ユタ州に建設したTA宇宙線観測装置(注3)の地表粒子検出器で2008年から5年間で取得したデータを用いて、最高エネルギー宇宙線(エネルギーが5.7×1019電子ボルト以上の宇宙線、注4)が過剰に飛来するホットスポットの兆候をとらえました。
 このホットスポットは、北半球の空の特定の方向(直径約40度の範囲)にあり、その領域の大きさは北半球の空の6%に相当します。5年間で観測した最高エネルギー宇宙線72事象のうち、最高エネルギー宇宙線が等方的に到来すると仮定した場合、直径40度の円内に最高エネルギー宇宙線の期待される観測数は4.5事象です。しかし実際には、72事象の26%にあたる19事象が、北半球の空の特定の方向(直径約40度の範囲)から到来していました。この偏り(異方性)が等方的に到来する分布から偶然に現れる確率は、わずか10万分の37です。
 TA宇宙線観測装置が対象とする最高エネルギー領域の宇宙線は、100平方キロメートルの地表(山手線の面積程度)に一年に一例観測される程度の極めて稀な現象です。しかし、今回、これまで北半球で稼働していた最高エネルギー宇宙線観測装置(注5)より7倍大きな面積(東京23区の面積程度)に展開した地表粒子検出器を用いて、数倍の統計量の最高エネルギー宇宙線事象を取得して、ホットスポットの兆候をとらえるに至りました。
宇宙線がどのようにして1020電子ボルトに至るエネルギーを獲得しているかは、いまだに大きな謎です。今後最高エネルギー宇宙線の観測例をさらに増やして、これら宇宙線の発生源となるような宇宙極高現象との関連を探ります。

発表内容

① 研究の背景・先行研究における問題点
宇宙線は、宇宙を飛び交う高エネルギーの放射線で、主に陽子や原子核などの電荷をもった粒子です。広いエネルギー領域にわたって極めて等方的に到来しているのが観測されています。TA宇宙線観測装置(図1)が対象とする最高エネルギー領域の宇宙線は、100平方キロメートルの地表(山手線内の面積程度)に一年に一例観測される程度の極めて稀な現象です。このエネルギーは地球上の最大の人工粒子加速器(注6)が生み出すビームエネルギーの1000万倍に相当します。最高エネルギーの宇宙線は、銀河系外の遠い宇宙で発生したガンマ線バースト(注7)などの天体爆発、あるいは回転する巨大なブラックホールをもつ活動的な銀河核(注8)から吹き出すジェットなどで生じると考えられていますが、発生源は未だに特定されていません。比較的低エネルギーの宇宙線の進路は銀河系内の磁場に曲げられるのに対し、最高エネルギー宇宙線の進路は曲げられにくく、宇宙空間をほぼまっすぐ進むため、その到来方向から起源天体が同定できると期待されています。

② 研究内容
宇宙から地球に到来した最高エネルギーの宇宙線は、大気中の窒素原子核などと衝突して多数の二次粒子を生み、それがさらに衝突を繰り返して、最後には1000億個をこえる低いエネルギーの粒子群となって地上に降り注ぎます。これを空気シャワーと呼びます。TA実験では、このような空気シャワーをとらえて、宇宙線のエネルギーと到来方向を測定し、大気中での空気シャワーの発達の仕方から粒子種を同定し、元の宇宙線が宇宙のどこでどのように発生し、宇宙空間をどのように伝播して地球に至ったのかを探っています(図2)。
 宇宙空間には、138億年前のビッグバンの名残である宇宙背景放射の光子が満ちており、陽子宇宙線のエネルギーが1020電子ボルト程度になると、宇宙背景放射との相互作用によるエネルギー損失が急激に増え、1020電子ボルト付近を超えると宇宙線の到来数が急速に減少することが、理論的に予測されました。これを三人の提唱者K. Greisen, G. T. Zatsepin, V. A. Kuz'minの頭文字をとって、GZK効果と呼びます。これまでにTA実験を含む他のふたつの実験(注9)で、この予測と矛盾しない1020電子ボルト付近以上での到来数の急激な減少を観測してきました。またTA実験では、空気シャワーの縦方向発達の測定から1018.2電子ボルト以上のエネルギーをもつ宇宙線が、水素原子核である陽子として説明できるという予備的な結果も得ています。
 今回、TA国際研究グループが2008年からの5年間の地表粒子検出器のデータを解析して得た、5.7×1019電子ボルト以上のエネルギーをもつ宇宙線72事象の到来方向の分布を赤道座標で図3(a)に青い点で示しました。天球上の各方向で半径20度の円内の観測数の等方的な到来分布の場合に期待される数からのずれの有意度の分布をとったものを図3(b)に示します。北斗七星を含むおおぐま座の足元(赤経146.7度、赤緯43.2度;赤で塗られた領域の中心付近)の方向に最大の有意度(観測数が19で、等方的な到来分布の場合に期待される数が4.49)を観測しました。このホットスポットの領域は北半球の空の6パーセントに相当しますが、観測された最高エネルギー宇宙線の約4分の1(19事象/72事象)がこの範囲から到来していました。ホットスポットの有意度は3.4σ(シグマ)と見積もられます。すなわち、ホットスポットが一様等方の到来方向分布から偶然に起きる確率は10万分の37回と見積もられました。

③ 今回の研究の意義・今後の予定 など
このホットスポットの中心の方向には、特に知られた高エネルギー天体はありません。またホットスポットの中心は、複数の銀河団(注10)が集中している超銀河面(図3中のSGPと書かれた線;注11)の近くにあり、もっとも近い超銀河面から約19度離れています。また、GZK効果が働いているとし、最高エネルギー宇宙線の発生源が活動的な高エネルギー天体であるとした場合に、1.5億光年程度以上離れた天体から飛来する最高エネルギー宇宙線は地球に到達することができないため、最高エネルギー宇宙線の異方性は、近傍の宇宙の物質構造(光や電波などの電磁波の観測によって、宇宙に存在する銀河は一様に分布していないことが知られています。)に起因することが期待されます。また最近接の銀河団や銀河フィラメント(注12)の磁場の影響を受けてホットスポットが生じている可能性もあります。
 北半球でこれまで稼働していた最高エネルギー宇宙線観測装置より7倍大きな面積に展開された地表粒子検出器群を用いて、数倍多い事象数の最高エネルギー宇宙線を取得して、今回の異方性の兆候をとらえました。宇宙線がどのようにして1020電子ボルト付近のエネルギーを獲得しているかはいまだに大きな謎です。今後最高エネルギー宇宙線の観測例をさらに増やして、これら宇宙線の発生源となるような宇宙の極高エネルギー現象との関連を探ります。

本研究は、科学研究費補助金(文部科学省)特定領域研究「最高エネルギー宇宙線の起源」(研究代表者:福島正己)、科学研究費補助金(日本学術振興会)特別推進研究「最高エネルギー宇宙線で探る宇宙極高現象」(研究代表者:福島正己)の他、米国科学財団(NSF)、韓国研究財団、ロシア科学アカデミー、ブリュッセル自由大学などの援助を受けて行われました。

添付資料

★画像はこちらからダウンロードいただけます。


図1 (左) Telescope Array宇宙線観測装置の配置図。縦軸が南北方向を示し、横軸が東西方向を示す。507台のプラスチックシンチレータ地表粒子検出器 (□) が、東京23区より広い領域に1.2キロメートル間隔で碁盤目状に設置されている。地表検出器群を見渡すように三か所に大気蛍光望遠鏡 (■) が建設されている。破線は各望遠鏡ステーションの視野を表す。三か所の望遠鏡ステーションから等距離の所(★)に中央レーザ装置(CLF)が設置された。(右上) フィールドに設置された地表粒子検出器。青い四角のパネルが電源供給用のソーラーパネル。通信用の無線ランアンテナがポールに取付けられている。(右下) 東南のBR(右下)サイトに建設された大気蛍光望遠鏡ステーション。反射望遠鏡が上下二段、方位角方向に6列、合計12組設置されている。


図2 TA宇宙線観測装置の地表粒子検出器(Surface Detector: SD)は最高エネルギー宇宙線が大気中に入射した際に生成される空気シャワーからの二次粒子を地表で検出する。また空気シャワーから発生する大気蛍光を大気蛍光望遠鏡(Fluorescence Detector: FD)で検出する。


図 3(a)赤道座標での5.7 1019電子ボルト以上のエネルギーをもつ最高エネルギー宇宙線72事象(青い点)の到来方向の分布。実線は銀河面(Galactic Plane:GP)と超銀河面(SuperGalactic Plane:SGP)を示す。また銀河中心(Galactic Center:GC)を★印で示し、反銀河中心(Anti-Galactic Center:Anit-GC)を☆印で示す。(b) 最高エネルギー宇宙線の到来方向の有意度の分布。赤色の有意度が高く、青色の有意度が低い。赤経(Right Acension:R.A.)146.7度、赤緯(Declination:Dec.)43.2度に最大の有意度(20度の半径の円内の観測数が19で、等方的な到来分布の場合の期待数が4.49)、すなわちホットスポットが見られる。白い破線より上の領域がTA実験で観測できる範囲を示す。


宇宙線が作る空気シャワー(動画)[クレジット:早稲田大学 笠原克昌]


地表粒子検出器サイト (動画)[クレジット:東京大学宇宙線研究所TAグループ]

用語解説

(注1)宇宙の極高エネルギー現象
最高エネルギー宇宙線の発生源の候補としては、ガンマ線バースト(注7)、活動的な銀河核(注8)からのジェット、超強磁場をもった中性子星などが挙げられる。

(注2)Telescope Array グループ:
Telescope Arrayグループとは、Telescope Array実験に参加している研究者グループのことである。著者は、次の29の研究機関に所属している、あるいは所属していた126名の研究者からなる:東京大学宇宙線研究所、東京工業大学、東京理科大学、近畿大学、東京大学カブリ数物連携宇宙研究機構、大阪市立大学、神奈川大学、山梨大学、埼玉大学、理化学研究所、東京都市大学、早稲田大学、千葉大学、KEK、高知大学、立命館大学、東京大学地震研究所、広島市立大学、放射線医学総合研究所、愛媛大学 (以上日本)、University of Utah、Rutgers University (以上米国)、Ewha Womans University、Hanyang University,、Yonsei University、Sungkyunkwan University、UNIST (以上韓国) 、Institute for Nuclear Research (ロシア)、Universite Libre de Bruxelles (ベルギー)

(注3)Telescope Array宇宙線観測装置:
Telescope Array宇宙線観測装置は、米国ユタ州の北緯39.30度、西経112.91度、海抜約1400メートルのところにある。北半球で最大の宇宙線検出器である。3平方メートルサイズのプラスチックシンチレータ地表粒子検出器507台を1.2 キロメートル間隔に設置して約700平方キロメートルの面積で宇宙線を検出し、それを見込むように三か所に大気蛍光望遠鏡ステーションを建設した(図1)。宇宙から超高エネルギー宇宙線が大気中に飛来した際に発生した広域空気シャワー(図2)の横方向発達を地表粒子検出器で検出し、縦方向発達を大気蛍光望遠鏡で検出し、宇宙線のエネルギー、質量組成、到来方向を測定する。2008年5月に地表粒子検出器と大気蛍光望遠鏡が全稼働した。

(注4)電子ボルト
1電子ボルトは1個の電子または陽子が1ボルトの電位差で加速されるときのエネルギー。1020電子ボルトのエネルギーは1キログラムの物体を1.6メートルの高さから落とした時のエネルギー(16ジュール)に相当する。

(注5)北半球でこれまで稼働した最高エネルギー宇宙線観測装置
たとえば、1990年から2004年まで山梨県明野村で稼働した明野広域空気シャワー観測装置(the Akeno Giant Air Shower Array: AGASA)がある。2.2平方メートルサイズのプラスチックシンチレータ111台を配置し約100平方キロメートル(TA地表粒子検出器の約7分の1)の面積で観測を行った。

(注6)人工粒子加速器
2009年より運用を開始した大型の陽子・陽子衝突装置として欧州合同研究機関(CERN)の大型ハドロン衝突型加速器(LHC:Large Hadron Collider)がある。これまでの衝突エネルギーは世界最高で8テラ(1012)電子ボルトであり、ヒッグス粒子や超対称性粒子などを直接研究できる唯一の施設である。2015年から衝突エネルギーを14テラ電子ボルトに上げる予定である。

(注7)ガンマ線バースト
宇宙で最も光度の高い物理現象。ガンマ線が数秒から数時間にわたって閃光のように放出されることから名づけられた。

(注8)活動的銀河核
通常の星からは説明できないほどの高エネルギーの電磁波を放出する銀河中心核。

(注9)他のふたつの実験
ひとつは1997年から2006年まで米国ユタ州で稼働していたHigh Resolution Fly's Eye (HiRes)実験で、大気蛍光望遠鏡による超高エネルギー宇宙線観測を行っていた。もうひとつは2004年から南米アルゼンチンで稼働しているピエールオージェ観測所で、大気蛍光望遠鏡と水タンク地表粒子検出器による超高エネルギー宇宙線観測を行っている。

(注10)銀河団
多数の銀河が互いの重力の影響によって形成された銀河の集団。銀河系近傍の銀河団としておとめ座銀河団などがある。

(注11)超銀河面
天の川銀河系の近傍の銀河団が集まって作る面で、近傍宇宙の大規模構造を示す。

(注12)銀河フィラメント
重力的に拘束された銀河からなり、長さが数億から数十億キロメートルからなる巨大な紐状の構造の集まりである。


発表雑誌:

雑誌名:「Astrophysical Journal Letters」
論文タイトル:Indication of Intermediate-Scale Anisotropy of Cosmic Rays with Energy Greater Than 57 EeV in the Northern Sky Measured with the Surface Detector of the Telescope Array Experiment
著者:R.U. Abbasi 他Telescope Array Collaboration

Publication reference: R. U. Abbasi et al. 2014 ApJ 790 L21 doi:10.1088/2041-8205/790/2/L21
ArXiv URL:http://arxiv.org/abs/1404.5890

会見日時・場所

平成26年7月8日(火) 14:00 ~ 15:00  
東京大学本郷キャンパス 山上会館 203号室

問い合わせ先

・テレスコープ・アレイ実験について
東京大学宇宙線研究所 特任助教 川田 和正

東京大学宇宙線研究所 准教授 佐川 宏行

・宇宙線研究所について
東京大学宇宙線研究所 広報担当 林田 美里
TEL:04-7136-5148
E-mail:misato@icrr.u-tokyo.ac.jp

リンク

The University of Utah Press Release: "A Hotspot for Powerful Cosmic Rays
Physicists a Step Closer to Finding Mysterious Sources"

宇宙線研究所 高エネルギー宇宙線研究部門 テレスコープアレイグループ