【プレスリリース】誕生直後の銀河は予想以上に粒々だった〜「宇宙ぶどう」が破った銀河誕生の常識〜

プレスリリース

東京大学

研究のポイント

◆ ビッグバンから約9億年後の暗く若い回転銀河が、少なくとも15個以上のコンパクトな星団で支配された「ぶどうの房」のような粒々な構造を持つことが、ジェイムズ・ウェップ宇宙望遠鏡(JWST)やアルマ望遠鏡などの高解像度の観測で判明しました。 
◆ こうした内部の詳細な空間構造は、これまでのハッブル宇宙望遠鏡による観測や数値シミュレーションでは予測されておらず、新しい知見を与えています。 
◆ 銀河の大きさや重さなどの性質は、この時代に存在する多くの他の銀河と一致しており、宇宙初期における普遍的な描像として、銀河形成の理解を大きく見直す契機となる可能性があります。 

JWSTによって撮像された、強い重力レンズ効果を引き起こしている銀河団「RXCJ0600-2007」の近赤外線画像。かつてない高解像度の観測により、15個以上のコンパクトな星団が集まり、「ぶどうの房」のような粒状の構造をなす、宇宙初期の銀河の姿が初めて明らかになりました。(左上拡大図)。(Image credit: NASA/ESA/CSA/Fujimoto et al.)

研究成果の概要

 トロント大学、東京大学、国立天文台などの研究グループは、ビッグバンから約9億年後に存在した暗く若い銀河が、少なくとも15個以上のコンパクトな星団で構成された「ぶどうの房」のような分裂構造を持ちながら、全体としては滑らかなガスの回転運動を示していることを明らかにしました。この成果は、ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(JWST; 注1)とアルマ望遠鏡(ALMA; 注2)に加え、重力レンズ効果を利用したかつてない高感度・高解像度を同時に実現した高精度な観測によって得られたものです。このような構造は、これまでのハッブル宇宙望遠鏡(HST; 注3)や従来のJWSTによる観測、更には数値シミュレーションの予測とは異なる、予期せぬものでした。対象となった銀河は、大きさや重さなどあらゆる観点で、特異的ではなく、この時代の一般的な銀河であることが観測されており、同様の構造が他の多くの銀河にも隠されていることを示唆しています。今回の結果は宇宙初期における銀河形成の理解を大きく見直す契機となる可能性があります。 

 本成果をまとめた論文は8月7日午前10時(英国夏時間)、Nature Astronomy 電子版に掲載されました。 

発表内容

 トロント大学や東京大学宇宙線研究所、同大学大学院理学系研究科、国立天文台などの研究グループは、ビックバンからわずか約9億年後の宇宙初期に見つかっていた、若い銀河に対して重点的に観測を行いました。その結果、銀河は滑らかなガスの回転運動を伴った、少なくとも15個以上のコンパクトの星団の分裂構造を持つことがわかりました。現在の宇宙論に基づく銀河形成・進化理論モデルでは、宇宙初期の回転銀河がこのような粒々とした構造を持つことは予測されていませんでした。こうした驚きとともに、今回の銀河は「宇宙ぶどう」と命名されました。 

 今回の発見は、ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(JWST)と南米アタカマ砂漠にあるアルマ望遠鏡を用いた計画的な観測 (注4)、さらに、手前に存在する大質量銀河団が引き起こす自然の重力レンズ効果によって、かつてない高感度と高解像度を異なる波長で相補的に実現することで、初めて可能となりました。観測時間はこの一つの銀河だけで100時間以上に達しており、宇宙初期の銀河に対する最も精密な観測の一つといえます。 

 これまでのハッブル望遠鏡やJWSTを用いた観測では、こうした宇宙初期の銀河の構造はあまり分解されておらず、滑らかな円盤状に見えていました。しかし今回の研究では、JWSTとアルマ望遠鏡の高い性能に加え、重力レンズ効果を組み合わせることで、かつてない高解像度の精密観測が実現し、まったく異なる構造が明らかになりました(図1)。一つの回転する銀河の中に、たくさんの星団がぶどうの房のように粒々に集まるようすです(図2)。この発見は、宇宙初期の時代に、回転運動する若い銀河と、無数に分裂した内部構造が共存することを示した初めてのケースで、解像度は、わずか10パーセク(およそ30光年)まで達しました。 

 この銀河は特異なものではなく、重さ、大きさ、化学組成、星形成活動量などの観点で見ると、この時代のごく一般的な銀河と言えるものです。つまり、たくさんある他の銀河の一つをたまたま捉えただけにしか過ぎない可能性があります。もしそうだとすると、現在観測されている数多の他の銀河の内部も同様に、星団に支配されたぶどうの房のような構造を持っている一方で、現在の望遠鏡の解像度では確認することができないだけかも知れません。 3 / 5 

 現存する宇宙初期のシミュレーションでは、一般的な回転銀河がこのような多数の星団構造を持つことを再現することができておらず、この発見は、銀河がどのように形成され、進化したのかという根本的な謎を、浮かび上がらせる結果となりました。このことは、初期の銀河における超新星爆発やブラックホールからのエネルギーが想定されているよりも弱く、私たちの構造形成の理解が、再考を迫られるかも知れないことを示唆しています。宇宙ぶどうはいまや、銀河の誕生と成長の謎を解明できるまたとない機会を提供しており、多くの研究が後に続くことが期待されます。このような星団構造が宇宙初期では一般的なものか否かの結論を得るには、更なる高感度・高解像度を実現する、将来の大型望遠鏡による観測がカギになるでしょう。 

図1: 重力レンズ効果を利用した、ジェイムス・ウェッブ宇宙望遠鏡(JWST:左画像)とアルマ望遠鏡(右画像)による深・高解像度のフォローアップ観測により、ゆっくり回転するガス状の銀河の中に、たくさんの小さな星団が存在することが明らかになりました。左の画像では重力レンズによる光の歪曲効果を補正した、元の銀河のようすを示しています。また右画像の赤色や青色は、回転する円盤を追うように動く赤方偏移または青方偏移するガスのようすを表しています。(Credit:S.Fujimoto)
.図2:今回の結果を元に描かれた、回転する銀河内で無数の星団が誕生している宇宙初期の銀河のようす。
(Credit:NSF/AUI/NSF NRAO/B.Saxton)

〇関連情報:

プレスリリース「地上のチェレンコフ望遠鏡がガンマ線バーストの信号を初観測 〜誕生直後のブラックホールから過去最高エネルギーのTeVガンマ線放射を確認〜」(2019/11/21)

発表者・研究者情報

トロント大学
 天文学・天体物理学科
  藤本 征史 助教授 

東京大学
 宇宙線研究所宇宙基礎物理学研究部門 
  大内 正己 教授
      兼:国立天文台 教授
  大学院理学系研究科附属天文学教育研究センター
   河野 孝太郎 教授・センター長 

論文

〈掲載学術誌〉 :Nature Astronomy 
〈題名〉 “Primordial Rotating Disk Composed of ≥15 Dense Star-Forming Clumps at Cosmic Dawn ” 
〈著者〉 :*S. Fujimoto, M. Ouchi, K. Kohno et al. 
〈DOI番号〉10.1038/s41550-025-02592-w
〈URL〉https://www.nature.com/articles/s41550-025-02592-w
    https://arxiv.org/pdf/2402.18543 (プレプリント:参考URL) 

研究助成

 この研究は、米国宇宙望遠鏡科学研究所を通じてNASAより付与されたNASA Hubble Fellowship(助成番号: HST-HF2-51505.001-A)、および日本学術振興会科学研究費補助金「宇宙における天体と構造の形成史の統一的理解(課題番号: JP22K21349)」、「広視野かつ高時間分解能天体イメージングによるダークマター探索(課題番号: JP20H05856)」、「多角的な強重力レンズ解析によるハッブル定数の精密測定(課題番号: JP22H01260)」、「ミリ波サブミリ波帯輝線銀河の無バイアス探査に基づく隠された宇宙星形成史の研究(課題番号: JP17H06130)」、「遠赤外線微細構造輝線で切り拓く前・宇宙再電離期の銀河形成(課題番号: JP22H04939)」、「超伝導工学・大規模数値計算・データ科学で解明する宇宙最初期の重元素生成過程(課題番号: JP23K20035)」、国立天文台ALMA共同科学研究事業(課題番号: 2017-06B)の支援を受けて行われました。 

脚注・用語解説など

(注1) ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(JWST)  :

 ハッブル宇宙望遠鏡の後継機として設計された、NASA・欧州宇宙機関(ESA)・カナダ宇宙庁(CSA)による共同開発の次世代宇宙望遠鏡。2022年に本格運用が開始された。直径6.5メートルの大型主鏡により、ハッブル宇宙望遠鏡よりも高い感度と解像度を実現しており、赤外線に特化した観測で宇宙最初期の銀河や星、惑星系の形成過程を捉えることができる。 

(注2) アルマ望遠鏡(ALMA) 

 チリ・アタカマ高地(標高約5,000m)に設置された66台のアンテナからなる電波干渉計で、欧州、北米、東アジアの国際協力により2011年から本格運用が始まった。ミリ波・サブミリ波の観測により、星や惑星が形成されるガスや塵、遠方銀河の冷たい星間物質からの放射を捉えることができる。 

(注3) ハッブル宇宙望遠鏡(HST) 

 1990年にNASAとESAによって打ち上げられた宇宙望遠鏡で、直径2.4メートルの主鏡を搭載している。可視光および紫外線での高精度な観測が可能で、遠方銀河の形状や分布、星形成領域の詳細構造などの研究に大きく貢献してきた。 

(注4) 今回の銀河はALMAを使って、重力レンズ効果によって拡大された宇宙初期の銀河を探索する大規模掃天観測プログラム(ALMA Lensing Cluster Survey: ALCS)で、強い重力レンズ効果を受けた天体であると明らかになっていました。強い重力レンズ効果による増光・拡大効果の恩恵を最大限活かし、100時間以上の更なるJWSTやALMA追観測が現在進行形で進んでいます。ALCSや今回の発見にもつながった望遠鏡時間獲得の経緯については2021年4月22日発表のプレスリリース「129億年前から銀河は回転していた-アルマ望遠鏡と天然のレンズが捉えた宇宙初期の小さな銀河とその内側-」(https://www.icrr.u-tokyo.ac.jp/news/10327/)や、2022年2月出版の天文月報記事「JWST×ALMA×重力レンズで迫る初代銀河形成~100 pcの現場」(https://www.asj.or.jp/jp/activities/geppou/item/115-2_76.pdf)をご覧ください。