【プレスリリース】史上最も明るいガンマ線バーストをチェレンコフ望遠鏡で検出〜粒子ジェットの構造に新たな知見〜

プレスリリース

東京大学
千葉大学
京都大学

研究のポイント

◆観測史上最も明るいガンマ線バーストからの高エネルギーガンマ線をチェレンコフ望遠鏡LST-1で検出することに成功しました。
◆同ガンマ線バーストの検出に成功したのは、チェレンコフ望遠鏡として唯一です。
◆加速粒子の流れ、ジェットが多層構造を持つことがわかり、この天体種の発生機構とそこでの高エネルギー粒子加速の研究に新たな知見をもたらしました。

研究成果の概要

 東京大学、千葉大学、京都大学などからなるCTAO観測所(注1)LST国際共同研究チーム(注2)は、観測史上最も明るいガンマ線バースト(以下、GRB)(図1)、GRB 221009Aからの高エネルギーガンマ線放射の検出に成功しました。観測は2022年10月にスペインのカナリア諸島ラパルマ島にあるチェレンコフ望遠鏡LST-1(以下、LST-1望遠鏡)(図2)を用いて行われました。検出の成功はチェレンコフ望遠鏡を用いたGRB 221009A の観測では唯一の成果であり、2019年の初検出以降の他のGRBを含めてもわずか5例目です(注3)。取得データを解析したところ、このGRBが多層からなるジェット構造を持つことがわかり、GRBの発生機構とそこでの高エネルギー粒子加速の研究に新たな知見をもたらしました。

図1:ガンマ線バーストの想像図
中心のエンジンであるブラックホールから超高速の粒子流「ジェット」が吹き出ている様子。(Credit:東京大学宇宙線研究所/若林菜穂)
図2:LST-1望遠鏡(Credit: Tomohiro Inada)

発表内容

 ガンマ線バースト(以下、GRB)は宇宙で最も強力な現象の1つで、太陽が一生のうちに放出するエネルギーをわずか数秒の間に放射することで知られています。その最初の短い放射は即時放射と呼ばれ、そのあと数時間から数ヶ月にわたって検出される放射は残光と呼ばれます。GRBは大きく分けて2種類が知られており、放射時間の長いものは極めて明るい超新星と関係がある一方、短いものは中性子星同士の合体によると予測されています。明るい時間の短さや、ガンマ線が宇宙から届く間に減衰する効果により、高エネルギーガンマ線でのGRBの検出は非常に困難です。

 2022年10月9日、NASAのFermiとSwiftの両衛星により、極めて明るいGRB 221009Aが検出されました。このGRBがしばしば「BOAT」 (Brightest Of All Time)とも呼ばれるように、その明るさは観測史上最高であり、いくつかの検出器を飽和させるほどでした。この報告を受けて、世界中の望遠鏡による追観測が行われました。CTAO観測所の北半球サイトであるスペインのカナリア諸島ラパルマ島で稼働中であるLST-1望遠鏡も、GRB発生のわずか1.33日後から20日間にわたる追観測を行いました。

 このGRBの発生が地球上での満月の時期に重なったため、取得された初期データには月光が強く影響していました。チェレンコフ望遠鏡では高感度の光検出器をカメラとして用いているため、月が明るいときの観測には大きな困難が伴います。LST-1望遠鏡も観測を休止している時期でしたが、このGRBの重要度を鑑みて緊急観測を行うこととなり、チェレンコフ望遠鏡として最も早い時期からの観測を行いました。GRB発生当時、ラパルマ島の同観測所に滞在しており緊急観測に関わった千葉大学国際高等研究基幹の野田浩司准教授は「普段からLST国際共同研究チーム がGRBなどの突発天体の観測に向けて準備していることが活きました。月光が明るいときでもチェレンコフ望遠鏡を使えることで、新しい観測可能性が開かれました。」と、この観測の意義について述べています。

 その後、取得されたデータの解析にも同様の理由による困難が伴いました。データ解析チームの一員として責任著者にもなった京都大学理学研究科の寺内健太大学院生は「これほど月光が明るい状態の観測データを扱うのは初めてだったため、通常の解析が通用せず、一から解析手法を確立する必要がありました。」と当時の苦労について語っています。このようなデータ解析の結果、GRB 221009Aからの高エネルギーガンマ線の検出を認めました。これは「新発見」として報告する有意度にはわずかに届かなかったものの、GRBの理論予測を制限し区別するのに十分なものでした(図3)。

図3:GRB 221009Aの光度曲線
右下の黒丸・白丸がLST-1による結果。その他の点は他の実験による観測結果。線はいくつかの理論予測モデルを示しており、理論によってはLST-1の結果と矛盾することがわかる。

 GRBはプラズマ粒子の超高速流「ジェット」によるものだと考えられており、その根元にある中心エンジンはブラックホールか中性子星の連星と予想されています。しかしジェットが根元でどのように作られているのかは大きな謎となっています。今回のLST-1望遠鏡による観測結果は、このGRBのジェットが複雑な構造をもつことを支持し、中心の細い「剣」の周りに、より太くより遅い粒子の「さや」をもつような構造を示唆します。この解釈において責任著者として貢献した千葉大学ハドロン宇宙国際研究センター研究員 / 東京大学宇宙線研究所 共同研究員の井上進研究員は、「この結果は過去の研究でよく仮定されてきた単純で一様なジェット構造に一石を投じるものです。これにより、中心エンジンの構造や性質に対しても新たな知見を与えました。」と今回の成果の意義を述べています。

 今回の成果は、CTAO観測所の次世代望遠鏡がもつ、高エネルギー宇宙を解き明かす強い力を示しています。今後GRBなどの高エネルギー加速天体の詳細がつまびらかにされていく上で、最初の道標となりました。CTAO観測所 では、突発天体の観測をさらに強力に進めるべく、速報システムや自動追観測の整備が日々行われています。東京大学宇宙線研究所の窪秀利教授は「CTAO観測所はまさに拡大中です。CTAO北サイトのラパルマ島ではあと3基のLST望遠鏡が目下設置中であり、南サイトがあるチリでも建設が進んでいます。出来た望遠鏡を順次用いて、過去最高の感度での観測を行い、GRBやその他の極限現象の理解に貢献していきます。」と今後の展望を述べています。

〇関連情報:

プレスリリース「地上のチェレンコフ望遠鏡がガンマ線バーストの信号を初観測 〜誕生直後のブラックホールから過去最高エネルギーのTeVガンマ線放射を確認〜」(2019/11/21)

発表者・研究者情報

東京大学
 宇宙線研究所
  窪 秀利 教授
     齋藤 隆之 准教授

千葉大学
 国際高等研究基幹/ハドロン宇宙国際研究センター
  野田 浩司 准教授
   兼:東京大学宇宙線研究所 客員准教授
       井上 進 研究員
   兼:東京大学宇宙線研究所 共同研究員

京都大学
 基礎物理学研究所
  井岡 邦仁 教授

論文

〈掲載学術誌〉 Astrophysical Journal Letters
〈題名〉 “GRB 221009A: Observations with LST-1 of CTAO and implications for structured jets in long gamma-ray bursts” 
〈著者〉 The CTAO-LST Collaboration: K. Abe, * A. Aguasca-Cabot, * S. Inoue, K. Ioka, H. Kubo, K. Noda, S. Nozaki, T. Saito, Y. Sato, * M. Seglar Arroyo, H. Tajima, * K. Terauchi, M. Teshima, T. Yamamoto, T. Yoshida, T. Yoshikoshi, et al.
〈DOI番号〉https://doi.org/10.3847/2041-8213/ade4cf
〈URL〉https://iopscience.iop.org/article/10.3847/2041-8213/ade4cf

研究助成

 本研究は、科研費「基盤研究(S) CTA 大口径ガンマ線望遠鏡で解き明かす高エネルギー激動宇宙と暗黒物質(課題番号:23H05430)」、「学術変革領域研究(A) 『マルチメッセンジャー宇宙物理学:静的な宇宙から躍動する宇宙へ』計画研究A05 ガンマ線が届けるブラックホールの産声(課題番号:23H04896)」の支援により実施されました。

脚注・用語解説など

(注1) CTAO :

 CTAO (Cherenkov Telescope Array Observatory) は世界最大・最高感度のガンマ線観測所計画。その高い感度と広いエネルギー帯域は宇宙物理の謎を解き明かすと期待されており、宇宙の素粒子の起源と役割の理解、ブラックホールや中性子星といった極限環境の調査、さらに暗黒物質や相対性理論からの逸脱などの基礎物理の探索を行う。CTAO は多波長・多粒子天文学において今後数十年にわたり重要な役割を果たす。広いエネルギー帯域をカバーするため、CTAOでは大・中・小口径の3 種の望遠鏡を使用し、南北の両観測地(サイト)に計60 以上の望遠鏡が設置される。CTAO 北サイトはスペインのラパルマ島にあるカナリア宇宙物理学研究所のRoque de los Muchachos 観測所であり、CTAO 南サイトはチリのアタカマ砂漠にあるヨーロッパ南天天文台(ESO)のパラナル観測所である。CTAO 本部はイタリア・ボローニャの国立天体物理学研究所にあり、データ管理センターはドイツ・ベルリン郊外のDESY 研究所にある。2025年1 月、CTAO はEuropean Research Infrastructure Consortium (ERIC) として欧州委員会に認められた。その設立メンバーはオーストリア、チェコ、ESO、フランス、ドイツ、イタリア、ポーランド、スロベニア、スペインである。日本は戦略的パートナーとして、またスイスとクロアチアは設立国として、加盟が進められている。CTAO ERIC は観測所の建設と運営に世界中のパートナーとともに携わる。パートナーとしては、CTAO コンソーシアム以外に、ハード・ソフトウェア開発チーム、科学成果のための国際共同研究者チームを含む。CTAO ウェブサイト https://www.ctao.org/

(注2) LST

 LST(大口径望遠鏡 Large-Sized Telescopes)はCTAO 観測所の3 種類のチェレンコフ望遠鏡の1 つ。宇宙からくるガンマ線は地球大気と衝突して空気シャワーと呼ばれる粒子の雪崩を作り、その粒子がチェレンコフ光を発する。この光は非常に弱いため、より低いエネルギーのガンマ線の検出には大きな鏡面積が必要となる。LST はCTAO の中では最も低エネルギー側、200億電子ボルトから1500 億電子ボルトの帯域をカバーする。LST は高さ45 メートル、重さ100トンであり、天空のあらゆる場所に20 秒以内に向けることができる。この高速回転と低いエネルギー閾値により、LST は銀河系内突発天体や遠方の活動銀河核、そしてガンマ線バーストの研究に欠かせないものとなっている。CTAO 観測所のLST 国際共同研究チームは11 カ国(ブラジル、ブルガリア、クロアチア、チェコ、フランス、ドイツ、イタリア、日本、ポーランド、スペイン、スイス)の67 の組織に所属する400 人以上の研究者と技術者で構成される。日本からは、青山学院大学、茨城大学、北里大学、岐阜大学、京都大学、高エネルギー加速器研究機構、甲南大学、埼玉大学、仙台高等専門学校、千葉大学、東海大学、東京大学、徳島大学、名古屋大学、広島大学、山形大学、理化学研究所が参加している。
 同チームはCTAO 北サイトであるスペイン・カナリア諸島・ラパルマ島で計4 基のLST の建設を進めている。最初のLST-1 は2018 年に竣工され、観測を続けている。現在、あと3 基のLST が建設中であり、2026 年春までの完成が見込まれている。

(注3) 過去のチェレンコフ望遠鏡によるGRB 検出4 例

180720B(2019 年発表), 190114C, 190829A, 201216C