【プレスリリース】最遠方宇宙で見つかった理論予測を超える活発な星の誕生―宇宙の夜明けは予想以上に明るかった―

プレスリリース

東京大学宇宙線研究所
国立天文台科学研究部

図1 : 研究チームにより正確な距離が測定された134億光年かなたの銀河の擬似カラー画像
 拡大図の中心にある赤い天体が、今回の研究により正確な距離が測定された134億光年かなたの銀河のうちの一つ、CEERS2_588です。ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡で取得された3色の観測データを合成することで、画像に色をつけています。(クレジット: NASA, ESA, CSA, Harikane et al.)

発表のポイント

◆ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡の観測データを使い、134億光年かなたの宇宙に明るく輝く2つの銀河の正確な距離を測定することに成功しました。
◆天体の観測史上最遠方である134億-135億光年かなたの宇宙では、これらの天体を含む合計5つの銀河が確認され、理論予測に比べて短い時間で次々と星が誕生していることがわかりました。
◆この結果は宇宙初期の銀河の形成過程が、従来考えられていた理論とは異なる可能性を示しており、初代銀河の性質を知る上で重要な手がかりとなります。

発表の概要

 播金優一さん(東京大学宇宙線研究所助教)を中心とする研究チームは、ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡の分光観測データを使い、134億光年かなたの宇宙に明るく輝く2つの銀河の正確な距離を測定することに成功しました(図1)。 天体の観測史上最遠方である134億-135億光年かなたの宇宙では、これまでに3個の銀河が確認されていましたが、その結果が理論予測と矛盾しているのかどうかはわかっていませんでした。今回新たに2個の銀河が確認されたことで、ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡打ち上げ前に出版されたどの理論予測と比べても予想以上に銀河の数が多く、初期の宇宙では短い時間で次々と星が誕生していることがわかりました。この結果は初代銀河を含む宇宙初期の銀河の形成過程が、従来考えられていた理論とは異なる可能性を示しています。

研究の内容

 宇宙は138億年前に生まれ、その後数億年が経過した頃に宇宙最初の星である初代星や、最初の銀河である初代銀河が誕生したと考えられています。この誕生直後の真っ暗な状態から、続々と天体が誕生し宇宙に光が灯される時代のことを「宇宙の夜明け」と呼びます。この宇宙の夜明けの時代は、138億年の宇宙の歴史の中でまだ探査されていない最後のフロンティアであり、天文学者の大きな関心を集めています。特に初代銀河がいつ頃形成し、どのような性質を持っていたのかはわかっておらず、現代の天文学の大きな謎となっています。そのような初代銀河を調べるために、天文学者たちはより昔、つまり遠方の宇宙に存在する銀河を探してきました。これまですばる望遠鏡やハッブル宇宙望遠鏡などの大型望遠鏡を使って遠方銀河の探査が精力的に行われてきましたが、134億年以前の宇宙初期に存在する銀河は数例しか見つかっておらず、正確な距離もわかっていませんでした。これは134億年前の銀河からの光は宇宙の膨張のために波長が伸び赤外線となってしまい、これまでの大型望遠鏡では感度の良い観測が行えなかったためです。

 一昨年のクリスマス (2021年12月25日) に打ち上げられ、去年の夏に本格的な観測を開始したジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡は、この状況を打破し、天文学研究に革命を起こしつつあります。ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡の最重要課題は、まさに宇宙初期の銀河の観測です。直径6.5メートルという宇宙望遠鏡としては最大の鏡を生かし、他の望遠鏡と比べ10倍から1000倍高い感度を赤外線の波長で実現することで、実際に134億年前から136億年前の最遠方宇宙に存在する銀河の候補を多数見つけています。しかしこれらの天体は画像から発見された遠方銀河の候補であり、正確に距離を決定するには光を波長ごとに分解して詳しく調べる分光観測が必要です。例えば去年の夏に136億年前の銀河の候補として報告されたCEERS-93316は、その後の分光観測によって136億年前ではなく、126億年前の銀河であることが判明しました。このような事例は、最遠方銀河の探査では分光観測による正確な距離の確定が不可欠であることを示しています。

 播金さんらはジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡によって取得された分光観測データを精査することで、134億年前の銀河の候補であった2天体から酸素の輝線と水素による吸収を高精度(99.9999%以上の有意度)で検出し(図2)、それぞれの正確な距離を134.0億光年・134.2億光年と決定することに成功しました(注1,2)。研究チームをリードした播金さんは当時の興奮を次のように語ります。「ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡の非常に感度の高い観測のおかげで、134億年前の銀河から、良く見られる水素による吸収だけでなく酸素の輝線も高い精度で検出し、銀河までの正確な距離を測定することに成功しました。今回の研究成果をまとめ上げた瞬間は、人類が未だ到達していない未踏の宇宙を初めて目撃したような感覚を覚え、とても興奮しました。」研究チームの中で分光データの処理を担当した中島王彦さん(国立天文台特任助教)は今回の研究の重要性を次のように説明します。「これまでの最遠方銀河の研究は、画像から見つかった銀河の候補をもとに行われたものがほとんどでしたが、これには銀河までの距離がしっかりと決まっていないという心配が常にありました。今回の研究は分光観測から正確な距離が測定されているため、これまでと比べて信頼度が高い議論が展開でき、科学的に非常に高い価値があります。」

 天体の観測史上最遠方である134億-135億光年かなたの宇宙では、これまでに3個の銀河が分光観測により存在を確認されていましたが、この結果が理論予測と矛盾しているのかどうかはわかっていませんでした。今回新たに2個の銀河が加わったことで、宇宙誕生後3億年から4億年という初期の宇宙に合計5つの銀河の存在が確認されたことになりました。この5つの銀河の発見は、ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡打ち上げ前に出版されたどの理論モデルでも予言されていませんでした(図3)。播金さんはその驚きを以下のように語ります。「ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡の打ち上げ前は、すばる望遠鏡やハッブル宇宙望遠鏡などの大型望遠鏡を使って銀河の探査が行われ、その結果は様々な理論モデルで良く説明できることが知られていました。しかし今回のジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡による最遠方宇宙における5つの銀河の発見は、どの理論モデルでも予言されていなかったのです!」

 さらに研究チームは銀河の明るさから星がどれくらいのペースで誕生しているか調べたところ、134億-135億光年かなたの宇宙ではモデルの予測に比べて星の誕生率が4倍以上であり、予想よりも短い時間で次々と星が誕生していることがわかりました(図4)。この結果は初代銀河を含む宇宙初期の銀河の形成過程が、従来考えられていた理論とは異なる可能性を示しています。研究チームの大内正己さん(東京大学宇宙線研究所教授・国立天文台教授)は次のように説明します。「今回の観測結果は、初期の宇宙で活発に星を誕生させる何らかのメカニズムがあったことを意味しており、私たちが長年持ち続けてきた星や銀河の誕生の通説に再考を迫るものです。一方で、これら5つの銀河が、星ではなく巨大ブラックホールの活動によって明るく輝いている可能性もあり、その場合は巨大ブラックホールが宇宙の非常に早い時代に出現していたことになります。これが正しければブラックホールの誕生と成長に対しても大きな問題提起となるでしょう。」大内さんは続けます「これらの可能性のうちどれが正しいのかは、これまでに得られた観測結果だけでは分かりません。しかし、今後のジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡による観測研究が明らかにすべき最重要課題の1つとなることは間違いないでしょう。」

 今回の研究によって、最遠方宇宙では理論モデルの予測以上に活発に星が誕生し、宇宙の夜明けの時代を明るく照らしていることがわかりました。宇宙で最初に生まれた初代銀河も、中で活発に星が誕生していたのかもしれません。ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡は今回の成果以外にも、宇宙初期における酸素の急増や窒素異常、大量の巨大ブラックホールの発見に成功しています(関連プレスリリース1−3)。播金さんは研究成果を以下のように締めくくります「ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡の素晴らしい性能によって、遠方の宇宙でこれまで予想されていなかった天体や現象が次々と発見されており、さらに人類は初代銀河の形成に後少しで手が届きそうなところまで迫っています。天文学の革命が、今まさに起きつつある状況です。このような革命を目撃できる時代に生まれた幸運に感謝しつつ、研究を通じて引き続き人類の知の地平線の拡大に貢献していきたいと思います。」

図2 : 134億光年かなたの2つの銀河の位置 (上パネル) と分光スペクトル (下パネル) 
研究チームは分光スペクトルから酸素の輝線 (黄色)と水素による吸収 (青色, 注3) を高精度 (99.9999%以上の有意度) で検出し、
この2つの銀河までの距離を正確に測定することに成功しました。(クレジット: NASA, ESA, CSA, Harikane et al.)
図3 : 134億-135億年前の銀河の個数
青色のヒストグラムは、ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡打ち上げ前に出版された理論モデルによる、今回の観測で発見されると予想された銀河の個数です。正確な距離を測定できた銀河の個数 (5個; 赤色) は、これらの理論予測を超えた値になっています。この時代の銀河の候補は他にも存在するため、実際の数は今後さらに増える可能性があり、その可能性を上向き矢印で示しています。(クレジット: Harikane et al.)
図4 : 各時代の宇宙全体の星の誕生率
青の線は複数のモデルの予想を表しており、これらのモデルは133億年前 (赤方偏移z=10) までの観測結果 (灰色) をうまく再現できることが知られていました。134億-135億年前の銀河から計算した一年当たりの星の誕生率 (赤色) は複数のモデルの予想よりも4倍以上高く、短い時間で次々と星が誕生していることがわかりました。縦軸は宇宙全体で平均をとった星の誕生率を、単位体積(メガパーセクの3乗)に、一年間でどれくらいの総量の星が生まれたのかという数値 (注4) で表しています。横軸は現在を基準にした宇宙の年齡、もしくは赤方偏移を表しています。(クレジット: Harikane et al.)

◯関連情報:
 関連プレスリリース1「初期の宇宙で急激に酸素が増加した痕跡を捉える」(2023/11/02) 国立天文台のサイトはこちら
 関連プレスリリース2「ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡、遠方宇宙に大量の巨大ブラックホールを発見」(2023年12月4日)
 関連プレスリリース3「予想以上の窒素ガスが初期の宇宙に存在 ―炭素、酸素に対する大幅な超過―」(2023年12月11日)


12月22日に東京大学本郷キャンパスで開かれた記者会見で説明する播金助教

多くの報道記者が出席した記者会見=22日午後2時過ぎ、本郷キャンパス内の伊藤国際学術研究センター特別会議室で

解説

(注 1) 今回酸素の輝線と水素による吸収を検出することで正確な距離が測定された2つの銀河の赤方偏移は、それぞれz=11.04, 11.40でした。赤方偏移は宇宙論的距離を表す際に使われる指標です。Planck 観測機チームが2015年に公表した宇宙論パラメータ(Planck Collaboration 2016, “Planck 2015 results. XIII. Cosmological parameters”, “TT,TE,EE+lowP+lensing+ext” in Table 4; H0 = 67.74 km/s/Mpc, Ωm=0.3089, ΩΛ=0.6911) を用いて赤方偏移から距離を計算するとそれぞれ134.0億光年・134.2億光年となり、これらの銀河は134億年前に存在していたことになります。一方で宇宙は膨張していますので、現在の宇宙では我々とこれらの銀河の距離は134億光年以上になります。

(注 2) これまで、アルマ望遠鏡やジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡などにより銀河の中から酸素が発見されてきました(例: 関連プレスリリース1,3)が、今回の結果(赤方偏移z=11.04, 11.40)は銀河中の酸素の発見記録としては、これまでの記録を塗り替える、観測史上最も遠方の発見になります。

(注 3)  今回観測された水素による吸収は、銀河と我々の間にある中性水素による吸収によって生じるもので、ライマンブレイクと呼ばれます。静止系で0.12マイクロメートルの波長より短い波長の光が中性水素により吸収されることで、銀河スペクトルに鋭い落ち込みが現れます。今回の天体の赤方偏移はz=11なので、ライマンブレイクは観測波長で1.5マイクロメートル付近に現れます。

(注 4) 専門的な言葉では、宇宙の星形成率密度と呼びます。

論文情報

〈雑誌〉       米国の天文学誌「アストロフィジカル・ジャーナル」
     12月22日米国東部時間16時(日本時間12月23日午前6時)に電子版公開
〈題名〉    “Pure Spectroscopic Constraints on UV Luminosity Functions and Cosmic Star Formation History From 25 Galaxies at zspec=8.61-13.20 Confirmed with JWST/NIRSpec”
〈著者〉 ✳Yuichi Harikane, Kimihiko Nakajima, Masami Ouchi, Hiroya Umeda, Yuki Isobe, Yoshiaki Ono, Yi Xu, and Yechi Zhang
〈DOI〉      10.3847/1538-4357/ad0b7e
〈URL〉      https://iopscience.iop.org/article/10.3847/1538-4357/ad0b7e

発表者

東京大学 宇宙線研究所 宇宙基礎物理学研究部門
  播金 優一 助教
  大内 正己 教授
    兼:国立天文台 教授
  梅田 滉也 博士後期課程
  磯部 優樹 博士後期課程
  小野 宜昭 助教
  Yi Xu(徐弈) 博士後期課程

国立天文台 科学研究部
  中島 王彦 特任助教
  Yechi Zhang(張也弛)日本学術振興会特別研究員

研究助成

 今回の研究は、科学研究費助成事業  (番号 20H00180, 21J20785, 21K13953, 21H04467) 、日本学術振興会・研究拠点形成事業JPJSCCA20210003、文部科学省の世界トップレベル研究拠点プログラムによるサポートを受けています。