宮川准教授が「飛騨市神岡町の地下で捉える重力波」と題して講演〜Kavli IPMU・ICRR 秋の合同一般講演会2023〜

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 宇宙線研究所とカブリ数物連携宇宙研究機構(Kavli IPMU)が主催する秋の合同一般講演会が2023年12月10日、東京大学本郷キャンパスの安田講堂でハイブリッド開催されました。会場には158人が集まったほか、事前に申し込んだ人だけが視聴可能なYouTubeチャンネル(日本語・英語)にも1週間のアーカイブ公開期間を含めて500人以上がアクセスし、多くの方々が二人の講演と対談(クロストーク)に耳を傾けました。

 一般講演会は、研究成果を地元の方々に知ってもらおうと、宇宙線研究所の本部が柏キャンパスに移転した2000年ごろから毎年開かれ、Kavli IPMUが設立された後の2009年度からは合同一般講演会と名前を変え、春と秋の年2回、開かれてきました。直近では2023年4月に春の合同一般講演会が、柏市の柏の葉カンファレスセンターにおよそ200人の観客を入れ、YouTube中継と合わせたハイブリッド形式で開催されています。

 今回の秋の合同一般講演会のテーマは「重力波×数値計算宇宙論」で、宇宙線研究所で重力波望遠鏡KAGRAの運営に携わる宮川治准教授が「飛騨市神岡町の地下で捉える重力波」、Kavli IPMUのジア・リウ特任准教授が「宇宙を使って測る ニュートリノの質量」と題し、それぞれ講演。日本語、英語の同時通訳も入り、視聴者たちは、会場では同時通訳音声のレシーバー、オンラインでは日本語・英語と2種類のYouTubeサイトで、講演とクロストークを楽しみました。

宮川准教授の講演「飛騨市神岡町の地下で捉える重力波

「重い物が動くと、時空の歪みが光の速さで伝わる。それが重力波です」

 最初に登場した宮川准教授はまず、重力について、アインシュタインの一般相対性理論がニュートン力学とは異なる解釈を提起したことに言及しました。ニュートン力学が、重力を物体の間に働く力で瞬時に伝わるとしていたのに対し、一般相対性理論では重力を時空の歪みで光の速度で伝わるものと捉え、太陽の方向に近い星団からの光の偏差の観測で、一般相対性理論に基づく予測直の方が実測値に近かったとし、「1919年の皆既日食の時に行なわれた実験をきっかけに一般相対性理論が人々に認知されることになったと言われています」と解説。また、人工衛星を使ったカーナビゲーションシステムでは、一般相対性理論に基づく補正を加えないと1日に11㌔もずれてしまうと明かし、「そんなカーナビは誰も使いたくないですよね。現在、一般相対性理論は私たちの生活のいたるところに取り入れられている時代です」。そのうえで、宮川准教授は重力波について「重い物体が動くと、物体の周りの時空の歪みが光の速さで伝わっていきます。これがまさに重力波です」と説明しました。

 さらに、アインシュタインが1916年に一般相対性理論についての複数の論文で重力波を提唱してから、2016年に米国の重力波干渉計LIGOが重力波を実際に検出するまで、100年かかったと紹介。「3000キロも離れたアメリカの二つの重力波望遠鏡(LIGO Hanford観測所, LIGO Livingston観測所)が、少しだけずれているけれどもほぼ重なるとピッタリ合う信号を観測しました。地球規模でこんなことはまずないので、重力波の信号だろうと推測されました。さらに詳しく分析したところ、13億光年から届いた重力波で、太陽の36倍質量のブラックホールと29倍質量のブラックホールが合体し、62倍質量のブラックホールが生まれたことがわかりました」と宮川准教授。差し引きで失われた3倍分の太陽質量は「E=Mc2という式で変換された分のエネルギーが、重力波となって放出されたと考えられました」と語りました。

本郷キャンパスの安田講堂で講演する宮川准教授

遠くの天体が合体時に出す「音」を重力波が伝える

 重力波の直接検出に成功のニュースは、世界中の新聞やテレビに取り上げられ、日本でも全国紙の一面トップを飾る大ニュースになり、翌2017年10月には重力波検出に貢献したLIGO関係者3人にノーベル物理学賞が贈られました。宮川准教授は2020年までに90個以上の重力波が検出されたという重力波の一つを「音」でも聴かせ、「宇宙の遠くの天体が、私たち地球の一生物が聴くことかできる音を出しています。不思議だと思いませんか。だから私たちは、重力波を『見る』のではなく、重力波を『聴く』と表現しています」と述べました。また、2017年8月、中性子連星の合体からの重力波の観測の観測では、アラートを受け、多くの望遠鏡がその方向を観測。発生源と見られる天体を発見して観測をした結果、金やプラチナなど多くの重元素が中性子連星の合体で生まれていることが裏付けられました。「高校生が化学の時間に習う元素の周期表はいま、重い金属のほとんどが超新星爆発ではなく、中性子連星の合体で生まれたと書き換えられています。皆さんはそんな時代に生きています」。

 さらに、重力波の観測方法について、空間が伸び縮みするほんのわずかな長さの変化を計測する方法としてレーザー干渉計を採用し、重力波による距離の変化を、光の明るさの変化に変換して計測していること。KAGRAは都会の喧騒を離れ、しかも地面振動の少ない地下に設置され、干渉計の鏡の熱雑音を下げるため、材質をサファイヤにしてマイナス253度まで冷やす設計となっていることに言及。さらに、鏡の振動を防ぐために、全長13.5メートルの9段の振り子の先に吊り下げられていること、宮川准教授らが中心となり、レーザー干渉計のデジタル制御システムや、ほぼ全ての操作をリモート管理できる制御室を設計・構築したことにも触れました。

KAGRAの今後「重力波の初観測に向け、やるべきことを確実に一歩ずつ」

 KAGRAの感度については、2020年2月からのO3参加にあたり、2019年8月から2020年3月までの半年間で、およそ5桁の向上が実現したことに言及。安定した制御、データ取得システムによって実現した結果、短期間のコミッショニングにもかかわらず実現できたとし、「これは結構すごいスピードで、LIGO、Virgoの初期と比べてもはるかに早く到達しています。それでも残念ながら重力波が検出できる感度までは1桁半くらい足りませんでした」と振り返りました。

 2022年5月からのO4観測までに様々なノイズを改善することにより、中性子連星合体の観測可能距離が1.5MPc程度まで到達したことを報告。「前回観測時に比べ低周波では一桁から一桁半、重力波に対しては1.5倍くらい良くなっています。O4後期についても引き続きノイズの改善を進めており、まだKAGRAの設計感度までは、だいぶ空いている状況ですが、運がよければ重力波が見つかるかもしれないという感度です。時間をかけただけで必ずしも感度が良くなるわけではありません。ちゃんと丁寧にノイズを無くしていくことが大事です」。

たくさんの視聴者が集まった東京大学本郷キャンパスの安田講堂

 宮川准教授はKAGRAのO5に向け、サファイヤ鏡を性能の良いものに交換することや、検出器側にもう一つ光を折り返す鏡を追加すること、更なる鏡の冷却、レーザーパワーの増加させることを挙げたうえで、「とくかく簡単ではないです。ありとあらゆるものが雑音になります。一つ悪いものがあるとそれに引きずられてしいます。私たちのやろうしている技術はそんなに最先端ではありません。レーザー、真空、回路、制御、これらのある意味”枯れた技術”をどれだけ丁寧にインストールできるかが重要、と実感しているところです。KAGRAは今後も感度を向上させる努力を続け、日本の検出器で重力波を観測したいです。そんなに遠くない未来に実現できると信じています」と結びました。

多くの質疑がホワイトボードやサイトに寄せられ、一件ずつ丁寧に回答

 講演者二人がお互いに質問し合うクロストークを挟み、ホワイトボードや専用サイトに視聴者から多くの質問が寄せられました。「宇宙誕生の時にできたニュートリノと太陽ニュートリノは区別できますか?」「重力波がどのくらい遠くから来たのかはどうやってわかったのですか?」「鏡の防振に9段の振り子を使う理由は?」「ブラックホールからは光は出てないと聞いたのですが、光の速度で重力波はブラックホールの地平線からは出てこられるのですか?」「45度で入ってきた重力波は縦横同じことになり干渉が起こらなくなりませんか?」「もう一つ鏡を追加するとなぜ、感度が上がるのでしょう?光の経路が長くなるからですか?」「ニュートリノ振動からニュートリノの質量は理論的に計算できませんか?」「重力波の検出器を宇宙空間に作った場合、どのような利点・難点が考えられますか?」などがあり、宮川准教授やリウ特任准教授は一件ずつ丁寧に回答していました。

関連リンク

秋の合同一般講演会2023のホームページ

<宇宙線研究所重力波グループのホームページは以下のリンクから>
 重力波グループ
 大型低温重力波望遠鏡KAGRA
 重力波観測研究施設