野田浩司准教授の第18回日本学術振興会賞 受賞伝達式・記念講演会を開催

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 宇宙線研究所の高エネルギー宇宙ガンマ線グループに所属する野田浩司准教授が第18回日本学術振興会賞を受賞したことを受け、宇宙線研究所が主催する受賞伝達式と記念講演会が3月30日、柏市の柏の葉カンファレンスセンターで開かれ、オンラインも合わせて関係者約50人が出席しました。

祝賀会にオンサイト及びオンラインで参加した宇宙線研究所の関係者

 今回の伝達式・記念講演会は、新型コロナウイルス感染症の拡大を受けた政府のまん延防止特別強化措置が首都圏などに発出され、2月に予定されていた授賞式が中止になったため、梶田隆章所長が呼びかけて実現しました。

野田准教授に対する祝辞を述べる梶田所長

梶田所長「多国籍チームを率い、観測に伴う様々な困難を克服して解析まとめた」

 中畑雅行副所長による受賞理由の説明を受け、梶田所長が野田准教授に表彰状を授与し、受賞を祝福する秋篠宮文仁親王のおことばを読み上げました。さらに梶田所長は、受賞に繋がった成果「ガンマ線バースト(GRB)からのテラ電子ボルト領域超高エネルギーガンマ線放射の研究」について、「野田先生は多国籍のチームを率い、月が出ている状況下でのデータの取り扱いなど、観測に伴う様々な困難を克服して解析をまとめ、論文として出版したと聞いています。もちろん研究というものは、長い時間の積み重ねの上に成果が出るものです。GRB190114Cからのガンマ線の観測自体は短時間でなされたものですが、野田先生は長く、GRBからのTeVガンマ線の観測を目指して研究を進められてきたことが、今回の観測と受賞に繋がったと理解しています。また、受賞理由にあるGRB160821BからのTeVガンマ線信号の観測も重要です。中性子連星合体によると考えられるショートGRBから、TeVガンマ線が放出されるというのは驚きの結果で、突発天体現象での粒子加速現象の理解への重要なデータを与えたと思います。中性子連星合体は重力波源として主要な天体現象であり、そこからの超高エネルギーガンマ線の観測は、マルチメッセンジャー天文学を切り開く新たな展開としても重要だと思います。今後もご活躍を期待しています」と祝辞を述べました。

手嶋教授「目標だったガンマ線バーストの観測を成し遂げたのは本当に素晴らしい」

 さらに、高エネルギー宇宙ガンマ線グループを率いる手嶋政廣教授は「野田先生、受賞おめでとうございます。GRBの観測も素晴らしいことですが、データ解析チームを率いた野田先生は非常に素晴らしい仕事をされました。1月15日の朝、大学に来てみると野田先生が部屋に来て、とても興奮して『来ましたよ、来ましたよ』と。部屋に連れていかれると、ものすごいガンマ線のピークが立っていました。将来、教科書に出るくらいの本当に素晴らしいGRBでした。GRBの観測は、MAGIC、そしてCTAの目標であり、それを成し遂げたのは本当に素晴らしいと思います」と語りました。

祝辞を述べる高エネルギー宇宙ガンマ線グループの手嶋教授

東海大学・西嶋教授「マルチメッセンジャー天文学で世界をリードする研究者になってほしい」

 来賓として招待された東海大学の西嶋恭司教授も「私が初めてラパルマでMAGICのシフトを担当した時、野田先生と一緒でした。当時は砂嵐の影響を補正する仕事をしており、それがMAGICのライブタイムの増加に貢献したと思います。その後、野田先生はGRBの観測に軸足を移され、MAGICとCTAの主要メンバーとして活躍しました。月光下でのデータ解析など、地味だけれど周到な準備をしたことが、チャンスを捉えることにつながったのだと思います。今回の受賞は、野田先生の卓越した研究業績が認められた証でもありますし、同時に最近はニュートリノ関係の物理にも興味を持たれているようですが、幅広い意味でのマルチメッセンジャー天文学の中で世界をリードする研究者になってくれることを期待しています。野田先生のますますのご活躍と宇宙線研究所の発展を期待しつつ、お祝いの言葉と致します」と述べました。

来賓として祝辞を述べる東海大学の西嶋教授

 この後、ガンマ線グルーブの秘書を務める菅原みどりさんから、野田准教授に花束が贈呈されました。

菅原さんから花束を受け取り笑顔を見せる野田准教授

野田准教授「今回が研究生活で初めて、個人で頂いた賞です」

 記念講演会で野田准教授は、東京大学の大学院生時代に宇宙線研究所に所属。梶田所長を主査に博士論文「ガンマ線バーストからのニュートリノ放射制限」で博士号を取得してから名古屋大学、イタリアの国立核物理研究所(INFN)、ドイツのマックスプランク研究所(MPI)、スペインの高エネルギー物理学研究所(IFAE)でのポスドクを経て、2018年に准教授としてICRRに復帰した経歴を紹介し、「今回が研究生活で初めて、個人で頂いた賞です」と語りました。GRBについては、宇宙で最も激しい爆発現象で、大きな星の死(超新星爆発)や中性子星同士の合体に関係していると考えられるとしつつ、いつどこで起きるかわからず、すぐに暗くなってしまうため、人工衛星によるアラートと、地上の望遠鏡からの追尾観測が1990年代後半に実現するまでは、十分な観測さえも困難だったことを述べました。さらに、地上のチェレンコフ望遠鏡が、ガンマ線が作る空気シャワーを捉える仕組み、GRB観測に成功したスペイン・ラパルマ島にあるMAGIC望遠鏡を詳しく紹介。「秒速7度で方向を変えることができ、全方向に30秒以内に向けられます。ここまで高速で回転できる大気チェレンコフ望遠鏡は世界でMAGICとCTAのLSTだけです」と説明しました。

受賞記念講演会でプレゼンする野田准教授

 2005年から15年間で105のGRBを捉えたというMAGICについて、「2016年の観測では99.7%以上の確率でガンマ線という結論を得ましたが、まだ低すぎて発見とは見なされませんでした。シンクロトロン放射以外のメカニズムの存在もはっきりしなかったです」。それが一変したのは2019年1月14日のGRB190114Cの観測で、日本でヘルプシフトに入っていた野田准教授と、現地で観測シフトに入っていた高橋光成さん(名古屋大学ISEE特任助教、当時はICRR研究員)の二人で交わした緊迫したチャットメールのやり取りを披露。

 「4時間後に『GRBからの数百GeVガンマ線を高い信頼度で初めて観測』という速報を送ってからしばらくは祝福メールが飛び交い、返信はほぼ不可能となりました。しかし、実はこれはさらに大変な日々の始まりでした」

未曾有の観測に世界各国から10人が解析に名乗り。解析チームまとめ、半年近くかけて結果出す

 この後、野田准教授を待っていたのは、解析に意欲を見せたイタリア、スペイン、ドイツ、日本の約10人からなるデータ解析チームを主導するタフな仕事でした。解析チームは普段は多くても3人ということですが、史上空前の成果を解析したいと考えた研究者は多く、さらにカメラ振動、月光下での観測、短時間の解析だったことなど課題もあったため、解析の取りまとめには半年近くを要しました。同じ年の9月に富山市で開かれた国際会議TAUPで、野田准教授が初めて公表したのは、この観測でTeVを超えるガンマ線8.3個を検出したという成果で、シンクロトロン放射の予想上限を大きく超えるエネルギーのガンマ線が捉えられており、11月には英科学誌Natureに論文を掲載することができました。さらに世界中から23の望遠鏡チームが参加し、多波長による観測を合わせて解析した結果、シンクロトロン放射とは別の第2の成分(逆コンプトン散乱の可能性)がきれいに見え、Natureに2本目の論文を掲載することができたといいます。

ショートGRBからも0.5Tev以上のガンマ線を捉えた可能性「高感度のCTA、LSTの出番」

 また、MAGICで観測した数少ない、ショートGRBの一つ、GRB160821Bについて解析したところ、月・天気ともに悪条件ながら0.5TeV以上のエネルギーのガンマ線が捉えられた可能性(兆候)が判明し、2021年2月に米学術誌Astrophysical Journalに発表。ショートGRBについて、「とにかく観測・検出数を増やし、KAGRAなど重力波実験との同時観測を目指したいです。そのためには高感度のチェレンコフ望遠鏡で長期間の観測が必須で、CTAの出番だと思います」とし、2018年に完成した大口径望遠鏡1号基( LST 1)と、2022年から始まるLST 2-4の3基の建設について期待を込めて説明しました。

ソーシャル・ディスタンスが取られ、参加人数が制限された記念講演会の会場

 野田准教授は最後に、MAGIC望遠鏡の高速回転と軽量化デザインの「父」であるEckart Lorenz博士に論文を捧げるという献辞を示したうえで、「梶田所長、手嶋先生を始め皆様のおかげで素晴らしい賞を頂きました。梶田所長在任の14年間、私も宇宙線研の内外でいろいろありましたが、この受賞を経て、ようやく研究者になれたような気がします。今後も精進しますので、ご指導ご鞭撻お願い致します。この度は本当にありがとうございました」と感謝の言葉を述べました。

関連リンク

東京大学宇宙線研究所 高エネルギー宇宙ガンマグループの公式ページ
第18回(令和3年度)日本学術振興会賞の受賞者決定について
第18回(令和3年度)日本学術振興会賞の受賞者一覧
第18回(令和3年度) 日本学術振興会賞の受賞理由
ICRR Webニュース「野田浩司准教授が第18回(令和3年度)日本学術振興会賞を受賞」