研究所紹介
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各研究グループ
Ashra (高エネルギー宇宙線研究部門) [研究所HP]
研究目的と装置
図1: ガンバ線バーストと粒子放射
夜空の一瞬の煌きに新しい物理が潜んでいます。その煌きの源は、突発的に極めて高いエネルギーを放出する天体現象であると考えられます。Ashraはその突発的高エネルギー天体から放射される紫外光および高エネルギーガンマ線、ニュートリノ、核子の全天高精度監視を行い、突発的高エネルギー天体の発見とその高エネルギー放射機構の解明を目指します。

突発的高エネルギー天体の候補としては、ガンマ線バースト(GRB)、軟ガンマ線リピータ(SGR)、超新星(SN)、様々な高エネルギー天体におけるフレア現象などが挙げられます。これらの興味深い天体からは、巨大なエネルギーが光や素粒子として一瞬の間に宇宙に放射されます。したがってその発見と解明には、全天を隈なく監視し、正確に位置を同定できる高精度の検出装置が要求されます。しかも光だけでなく、高エネルギーガンマ線やニュートリノを複合的に観測することによって、それらの発生機構の物理を統合的に議論できると考えられます。それを可能にするユニークな検出器が全天高精度素粒子望遠鏡Ashraです。

いよいよ2005年度にはハワイ島マウナロア山において検出器が設置され、光学系とデータ取得系の調整の後に本観測が開始されます。
 
Ashra計画では、最終的にハワイ島に3箇所の観測ステーションを建設する予定です。1個の観測ステーションは、人間で言うところのひとつの「目」に当たります。その角度分解能は人間の視力1.0と同等の1分角程度ですが、目とは視野がまるで異なり、Ashraでは1個の観測ステーションで全天の約80%をカバーします。ひとつの観測ステーションは12個の検出器ユニットから構成され、それらは昆虫の複眼のように各々が直径42度の視野ごとに分担しながら監視しています。ひとつの検出器ユニットはコスト効率を上げるために、同じ視野を向いている複数台の小型の望遠鏡によって構成されます。ひとつの望遠鏡には、独自に開発した修正ベーカー・ナン光学系とトリガー・読み出し系が装着されています。

修正ベーカー・ナン光学系では、3枚の補正レンズと2.2m径の球面鏡によって光が集光されます。さらに0.5m径光電レンズ撮像管によって光電変換されて、電子レンズによって固体撮像素子と同等の画角サイズまで画像収縮されます。この独自の光学系によって直径42度の立体角という1望遠鏡しては巨大な視野を持ちながらも、分角の分解能を維持することに成功しています。その後段にはハーフミラーとリレーレンズ、近接型光電撮像管および固体撮像センサーを組み合わせたイメージパイプラインと呼ばれる装置があります。

このイメージパイプラインの設計は従来の光電子増倍管を用いたトリガー・撮像装置に比べ、ピクセル毎のコスト効率を圧倒的に高めた上で感度と分解能を最大化するものとなっています。その最大の特徴は輝度増幅とバランスした光分配機構にあります。これにより、望遠鏡によって焦点化された星や素粒子放射による空気シャワーの光像は、トリガー無し撮像、チェレンコフ光用トリガー有り撮像、蛍光用トリガー有り撮像の3種類の互いに独立な光像として検出できます。全天監視、高精度、高感度かつ多重同時トリガーという画期的な性能を持つ新たな宇宙観測の「目」を、これら新技術がしっかりと支えているのです。

図2: 観測ステーション概念図(左上)、平成17年7月時点での土地整備中の観測予定地(左下)、Ashra望遠鏡実機(右図)。

柏における設計、要素開発、および三鷹の国立天文台における撮像試験を経て、平成16年度9月からハワイ州ハレアカラ山頂にて光学系とトリガー・読み出し系の試験観測を行い以下のような成果を得ました。
研究の実況
光学系
2/3スケールモデルによる星像観測。月のない夜の約50%の稼働率にて2〜3分角度の解像度を維持しています(図3、図4)。GRB観測衛星であるHETE-2、INTEGRAL、Swiftのアラートを受けて3例のGRBの同時もしくは直後の光学閃光観測を行い、11等級から12等級の限界等級で到達光量に制限を与えました。いずれも追尾型の望遠鏡では成しえない最速の観測結果を提供できました。GRB発生以前からの観測は世界で我々のみです。
図3: 2/3スケール試作機 図4: 試作機による広視野高精度の実証。おうし座全体とすばるの星が見える。
トリガー・読み出し系
3m径反射型経緯台望遠鏡に0.4m径光電レンズ撮像管とトリガー読み出し系を搭載して、かに星雲からのTeVガンマ線の追尾観測を行いました。新たに開発されたAshraにおける自己トリガー法によって、5シグマ以上の有意度でかに星雲からTeVガンマ線が来ていることを確認できました。光電子増倍管以外の撮像方法を用いて空気シャワーによる大気チェレンコフ光の有意な撮像に成功したのは世界で我々のみです。
図5: イメージパイプライン概念図 図6: イメージパイプライン試作機
これらによって、Ashra光学系のコンセプトである「大面積・超広角・分角度解像度」、Ashraトリガー・読み出し系によるAS大気チェレンコフ光撮像性能の実証ができたといえます。