横澤特任助教が「重力波天文学の開幕」をテーマに講演
西東京市・多摩六都科学館と共催のオンライン・サイエンスカフェで

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 重力波の観測と研究に従事する横澤孝章特任助教が2月7日、多摩六都科学館と宇宙線研究所が共催するオンライン・サイエンスカフェで、「重力波天文学の開幕」をテーマに講演し、事前に応募した29人(うち4人は科学学習室で参加)が視聴しました。

ZOOM利用が難しい視聴者のために設置された多摩六都科学館・科学学習室の特設会場。4人がPC画面を投影したスクリーンを使って視聴し、質問は付箋に記入、司会者が代読した。(写真は多摩六都科学館提供)

 多摩六都科学館との共催イベントは、同館と宇宙線研究所が2015年に締結した広報・啓発活動に関する相互協定に基づくもので、研究現場で得た知見を広く市民に提供し、科学文化の発展に寄与することなどを目的とし、1年に2回ほど開催されています。今回はCOVID-19の感染拡大を受けた緊急事態宣言(11都府県)の最中に行われることとなり、ZOOMによるオンラインで実施されました。

重力波とは何か?

重力波観測研究施設(岐阜県飛騨市神岡町)から中継した横澤特任助教

 横澤特任助教はまず、私たちにも身近な重力が、実は磁石にも負けてしまうほど弱い力で、アインシュタインが一般相対性理論で、”時空”の歪みで説明したこと(アインシュタイン方程式)を紹介。質量を持った物体の周りの空間が歪み、レンズのように光を曲げる「重力レンズ効果」や、カーナビのGPS補正などで、理論が実証されていると説明しました。その上で、重力波は「この時空の歪みの時間変化が波動として空間を光速で伝搬する現象」とし、トランポリンの上で子供が跳ねると、トランポリンの布表面に波が生じて周囲に広がっていく様子を参考に示しました。

 重力波は、手を振っただけでも発生するものですが、大きさがとても小さいので観測が難しく、現在、地球上で観測できるレベルの重力波は宇宙現象しかないことがわかっています。横澤特任助教は、最初に直接観測された重力波が2015年、アメリカのLIGOが観測した連星ブラックホールの合体であり、その発見に貢献した物理学者3人に2017年のノーベル物理学賞が贈られたこと。さらに、イタリアのVirgoも観測に参加したことで重力波の到来方向を決定する精度が向上し、2017年に連星中性子星の合体を地球上の様々な望遠鏡で同時観測が実現したことに触れ、「星の内部の情報がわかる様々な光の観測に成功し、金などの重金属ができた可能性など、これまでとは比べものにならないほど多くの情報を私たちに与えてくました」と語りました。

LIGO、Virgoの共同観測から

 これまでに観測された重力波の候補は70個近くありますが、ブラックホール連星の合体と見られるものが圧倒的に多く、太陽質量の160倍もあるブラックホールへの合体や、20倍もの質量差があるブラックホール連星の合体も見つかり、「なぜこんなことが起きるのか、という活発な議論が起きています」。また、今後の重力波観測の候補として、超新星爆発、高速回転する中性子星(パルサー)、宇宙初期のインフレーション起源の原始重力波などの背景重力波を挙げました。

ドイツGEOとの共同観測

 質疑応答を挟んだ後半は、重力波の検出の仕組みと、世界の重力波検出器、日本のKAGRAの役割、そして、初めての共同観測についてレポートしました。

 横澤特任助教は、重力波が到来すると時空が歪み、二つの地点の距離がわずかに変わることから、光路をビームスプリッターで二つに分け、鏡で反射させて再び集光するレーザー干渉計を使い、集まってきた二つの光の干渉の具合を確認することで、重力波の検出を試みる仕組みについて紹介。その上で、同じ仕組みのレーザー干渉計が、アメリカ、イタリア、ドイツにあり、日本のKAGRAは地下サイトという静寂な環境に設置し、鏡をマイナス250度まで冷やして熱雑音を減らす工夫をしていることを説明しました。

レーザー干渉計の仕組みを使った重力波検出器KAGRAの見取り図
机上サイズのミニレーザー干渉計。光の干渉を利用して音の信号を伝える実験が体験できる。宇宙線研のキットを多摩六都科学館の成田さんらが組み立てた。(写真は多摩六都科学館の提供)

 KAGRAは2010年にプロジェクトが開始されてから9年かけ、トンネル掘削や真空ダクトやレーザー、鏡など機器の設置を行ない、2020年3月に本格運用を開始しました。

 COVID-19の影響でLIGO、Virgoが相次いで運転を停止する中、KAGRAは翌4月に、ドイツのGEOとの国際共同観測(O3GK)を行い、2週間の期間に6日間のデータを得ましたが、横澤特任助教は「地球のどこかで起きた大地震の後や、海岸の波浪の強い日は、干渉計をロックできず、観測できない日がありました。こうしたことを次に向けての課題とし、悪い条件でも観測できるように努力していきたいです」と語りました。

KAGRA構内の写真を示しながら現在の様子を紹介する横澤特任助教

視聴者からの質疑に回答

 視聴者からは「時空が歪むとはどうゆうことでしょうか? トランポリンは媒体がありますが、空間の媒体とはどうなっているのですか?」「重力波の振幅とは何でしょうか?エネルギーでしょうか?」「ブラックホールと中性子星の重力波は、どっちの方が多いですか?」「観測に使うレーザーで鏡やプリズムがだめになることはないのですか?」「今の重力波検出器で重力波の偏極はどの程度観測できますか?」「KAGRAは現在、アップデート中とありましたが内容は何でしょうか?」など多くの質問がチャットで寄せられ、司会者が読み上げると、横澤特任助教は一つ一つ丁寧に回答していました。

多摩六都科学館でサイエンスカフェの司会を務める成田孝光さん

 横澤特任助教は、スーパーカミオカンデを使った太陽ニュートリノの観測から、KAGRAの感度を上げるためのノイズ解明などに研究の軸足を移してきましたが、最後に、重力波研究の魅力について問われ、「これだけたくさん観測されると、統計的な議論ができます。さらに、この世界に入るきっかけになったのが超新星爆発です。そこから出てくる重力波にもっとも興味があり、ここで頑張っている理由の一つです」と語りました。

 超新星爆発は、カミオカンデがニュートリノを観測した1987年以来、観測できていませんが、地球から観測可能な銀河系とその周辺で50年に一度の頻度で起きるとされています。もし、超新星爆発が観測可能な距離で起きれば、KAGRA(重力波)とスーパーカミオカンデ(ニュートリノ)、さらに世界中の望遠鏡(電磁波)で同時に捉えるマルチメッセンジャー観測が実現する可能性があり、これまで未知だった超新星爆発の詳細なメカニズムの解明に役立つと期待されています。