【プレスリリース】すばる望遠鏡、130億光年かなたの宇宙に銀河団を発見。世界記録を更新

プレスリリース

播金優一特別研究員(国立天文台、3月まで宇宙線研究所博士課程に在学)を中心とする国際研究チームは、すばる望遠鏡、ケック望遠鏡、およびジェミニ望遠鏡による国際共同観測により、地球から130億光年かなたの宇宙に12個の銀河からなる「原始銀河団」を発見しました。これは以前すばる望遠鏡が見つけた最遠方の原始銀河団の記録を塗りかえて、現在知られている中で最も遠い原始銀河団の発見です。さらにこの原始銀河団の中には、過去にすばる望遠鏡が発見した巨大ガス雲天体ヒミコが存在していました。この発見は、宇宙年齢が8億年の時代(現在の宇宙年齢の6%以下の時代)の初期宇宙に原始銀河団のような大きな構造が存在したことを示しています。

この研究成果は、米国の天文学誌『アストロフィジカル・ジャーナル』に9月30日に掲載の予定です。

自然科学研究機構で開催された記者説明会で説明する播金研究員、大内教授、小野助教(右から)

【発表者】

播金 優一(国立天文台 アルマプロジェクト 日本学術振興会特別研究員)
大内 正己(東京大学 宇宙線研究所 教授/国立天文台 科学研究部 教授)
小野 宜昭 (東京大学宇宙線研究所 助教)

【発表のポイント】

◆地球から130億光年かなたの宇宙に12個の銀河からなる「原始銀河団」を発見しました。
◆これは以前すばる望遠鏡が見つけた最遠方の原始銀河団の記録を塗りかえ、現在知られている中で最も遠い原始銀河団の発見です。
◆宇宙年齢が8億年の時代(現在の宇宙年齢の6%以下の時代)の初期宇宙に、原始銀河団のような大きな構造が存在したことを示しています。

【発表の概要】

 播金優一特別研究員(国立天文台、3月まで宇宙線研究所博士課程に在学)を中心とする国際研究チームは、すばる望遠鏡、ケック望遠鏡、およびジェミニ望遠鏡による国際共同観測により、地球から130億光年かなたの宇宙に12個の銀河からなる「原始銀河団」を発見しました。これは以前すばる望遠鏡が見つけた最遠方の原始銀河団の記録を塗りかえて、現在知られている中で最も遠い原始銀河団の発見です。さらにこの原始銀河団の中には、過去にすばる望遠鏡が発見した巨大ガス雲天体ヒミコが存在していました。この発見は、宇宙年齢が8億年の時代(現在の宇宙年齢の6%以下の時代)の初期宇宙に原始銀河団のような大きな構造が存在したことを示しています。
 この研究成果は、米国の天文学誌『アストロフィジカル・ジャーナル』に9月30日に掲載の予定です。

【発表内容】

 播金優一特別研究員(国立天文台、3月まで東京大学宇宙線研究所博士課程に在学)を中心とする国際研究チームは、すばる望遠鏡、ケック望遠鏡、およびジェミニ望遠鏡による国際共同観測により、地球から130億光年かなたの宇宙に12個の銀河からなる「原始銀河団」を発見しました 図1。これは以前すばる望遠鏡が見つけた最遠方の原始銀河団の記録を塗りかえて、現在知られている中で最も遠い原始銀河団の発見です。さらにこの原始銀河団の中には、過去にすばる望遠鏡が発見した巨大ガス雲天体ヒミコが存在していました。この発見は、宇宙年齢が8億年の時代(現在の宇宙年齢の6%以下の時代)の初期宇宙に原始銀河団のような大きな構造が存在したことを示しています。

 現在の宇宙には、10個程度の巨大な銀河を含む1000個程度の銀河の集まった、銀河団が存在しています。この銀河団は宇宙で最も質量の大きな天体であり、銀河団同士はお互いに結びつき合って大きな構造 (宇宙の大規模構造) を作っています。そのため銀河団は宇宙の構造の要であり、138億年の長い宇宙の歴史の中でどのように銀河団ができていったのかは天文学における重要な問題でした。銀河団の形成起源に迫るために、天文学者たちは銀河団の祖先だと考えられている「原始銀河団」を探してきました。原始銀河団は昔の宇宙にある形成途中の銀河団で、10個程度の銀河が密集している天体のことです。これまでの観測によりたくさんの原始銀河団が見つかってきましたが、その中で最も昔のものは、以前すばる望遠鏡がかみのけ座の方向のすばる深宇宙探査領域 (Subaru deep field; SDF) で発見したSDF原始銀河団でした。

 「このような原始銀河団はいつの時代からあったのだろうか、という疑問を持って、私たちは研究を始めました。」そう語るのは、この発見をした国際研究チームをリードした播金優一特別研究員です。「いつの時代からあったのかを調べるには、なるべく昔、つまり遠くの宇宙を調べる必要があります。しかし、原始銀河団は周辺に比べて格段に密度が高い特別な領域ですので、稀な天体であり簡単には見つかりません。そこで私たちは広い視野を持つすばる望遠鏡の最新撮像装置、ハイパー・シュプリーム・カム(Hyper Suprime-Cam)を使い広範囲を探査することで、稀な天体である原始銀河団を含む広大な領域の宇宙の地図を作りました」

 研究グループはすばる望遠鏡を用いた探査の結果、宇宙地図の中のくじら座の方角に、銀河が周辺に比べて15倍密集している原始銀河団の候補、z66ODを発見しました。さらにケック望遠鏡およびジェミニ望遠鏡による追加分光観測により、12個の銀河が地球から129.7億光年先の位置に存在していることを突き止めました。分光観測を行なった小野宜昭助教(東京大学宇宙線研究所)は次のように話します。「図2のように12個の銀河は3次元図の中でも密集しており、この観測結果からz66ODは、129.7億光年かなたの宇宙に存在する原始銀河団であることがわかりました。これはSDF原始銀河団の記録を約1億光年も塗りかえる、現在知られている中で最も遠い原始銀河団の発見です」

 興味深いことに、z66ODの12個の銀河の中には、2009年にすばる望遠鏡によって発見された、巨大ガス雲天体ヒミコがいました。「ヒミコのような巨大天体は質量が大きいので、同じく質量が大きいと考えられる原始銀河団の中にいること自体は不思議ではありません。しかしヒミコが原始銀河団の中心ではなく、中心から5000万光年も離れた位置にいたことに私たちは驚きました」 こう話すのはヒミコの発見者であり、研究グループのメンバーでもある、大内正己教授(国立天文台/東京大学宇宙線研究所)です。大内正己教授は続けます。「どうしてヒミコが中心にいないのかはまだわかっていませんが、これは銀河団と巨大銀河の関係を理解する上で重要な手がかりになると考えています」

図2 : 今回の研究によって得られた銀河の分布の3次元図。黒い点が銀河の位置を示していて、青色が濃いほど密度が高いことを示しています。赤色の矢印の先が今回発見された観測史上最も遠方にある原始銀河団です。図の上方向に伸びる軸が奥行きを、手前と右方向に伸びる軸がそれぞれ赤経・赤緯を表しています。

 さらに研究チームはすばる望遠鏡、イギリス赤外望遠鏡、スピッツァー宇宙望遠鏡の観測結果をもとに、z66ODの中では驚くほど激しく星が生まれていたことを見つけました。「z66ODの中の銀河では、同じ時代、同じ重さの他の銀河に比べて5倍もの星が生まれていることがわかりました。z66ODは質量が大きいために、周りから星の材料であるガスが大量に供給され、星の生まれる効率が高いのかもしれません。」こう語るのは研究グループのメンバーである、ダルコ・ドネフスキー研究員(先端研究国際大学院大学・イタリア)です。

 今回の発見により、活発に星を作りながら銀河団へと成長する原始銀河団が、宇宙年齢が8億年の時代(現在の宇宙年齢の6%以下の時代)の初期宇宙に既に存在していたことがわかりました。研究グループメンバーの藤本征史特任研究員(国立天文台、早稲田大学研究院講師)は次のように話します。「近年の観測により原始銀河団には、塵に覆われた巨大な銀河も存在していることがわかってきています。今回見つかったz66ODにはまだそのような銀河は見つかっていませんが、今後アルマ望遠鏡などの観測が進むと、そのような巨大銀河も見つかり、z66ODの全貌が明らかになるかもしれません」

【発表雑誌】

雑誌名:Astrophysical Journal(30日に電子版掲載の予定)
論文タイト:“SILVERRUSH. VIII. Spectroscopic Identifications of Early Large Scale Structures with Protoclusters Over 200 Mpc at z~6-7: Strong Associations of Dusty Star-Forming Galaxies”
著者:Yuichi Harikane, Masami Ouchi, Yoshiaki Ono, Seiji Fujimoto, Darko Donevski, Takatoshi Shibuya, Andreas L. Faisst, Tomotsugu Goto, Bunyo Hatsukade, Nobunari Kashikawa, Kotaro Kohno, Takuya Hashimoto, Ryo Higuchi, Akio K. Inoue, Yen-Ting Lin, Crystal L. Martin, Roderik Overzier, Ian Smail, Jun Toshikawa, Hideki Umehata, Yiping Ao, Scott Chapman, David L. Clements, Myungshin Im, Yipeng Jing, Toshihiro Kawaguchi, Chien-Hsiu Lee, Minju M. Lee, Lihwai Lin, Yoshiki Matsuoka, Murilo Marinello, Tohru Nagao, Masato Onodera, Sune Toft, Wei-Hao Wang,
DOI番号:10.3847/1538-4357/ab2cd5
アブストラクトURL:こちらです

【注意事項】

 尚、本プレスリリースは、自然科学研究機構 国立天文台、東京大学宇宙線研究所、早稲田大学、イタリア・SISSA、北見工業大学、米国・カリフォルニア工科大学、台湾・国立清華大学、ブラジル・国立天文台、英国・インペリアル・カレッジ・ロンドン、米国・国立光学天文台、デンマーク・ニールス・ボーア研究所、米国・W.M.ケック天文台、米国・ジェミニ天文台により、それぞれ同時期に配信されています。