【プレス見学会・記者会見】大型低温重力波望遠鏡・KAGRA 第一期実験施設完成

プレスリリース

国立大学法人東京大学 宇宙線研究所
大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構
大学共同利用機関法人自然科学研究機構 国立天文台

日時

 平成27年11月6日(金)

 見学会  第1便 10時50分~11時20分(9時50分受付,10時10分出発)
      第2便 11時45分~12時15分(10時50分受付,11時05分出発)
 記者会見 15時30分~16時10分(15時00分受付)

記者説明同席者

東京大学総長五神  真
東京大学宇宙線研究所長梶田 隆章
高エネルギー加速器研究機構長山内 正則
自然科学研究機構・国立天文台長林  正彦
東京大学宇宙線研究所・重力波推進室長大橋 正健

発表のポイント

・大型低温重力波望遠鏡KAGRA(かぐら)は、重力波の直接観測と重力波天文学の創成を目指しています。

・KAGRAは1辺3kmのL字型のレーザー干渉計(注1)で、重力波に対して超高感度を達成するために、地面振動の小さい地下に設置され、また極低温の鏡を使用する世界的にユニークな装置です。

・KAGRAを設置する地下空洞の工事は2014年3月に完成し(注2)、その後、基盤的な施設整備を完了させ、現在、クリーン環境系、真空系、レーザー光学系、鏡の冷却系、鏡の防振系、制御系、データ収集系を含む望遠鏡本体の構築を進めておりますが、このたび、常温鏡を用いた重力波望遠鏡の運転に必要な第一期実験施設がほぼ完成いたしました。2015年度中に試験観測を実行できる見通しです。

・2015年度中に試験観測を試み、引き続き、極低温鏡など、さらなる構成要素の導入により、いっそうの高感度化を行い、極低温鏡を用いた重力波望遠鏡の運転が可能な第二期実験施設の完成を目指し、2017年度中には本格観測に入る予定です。

概要

 東京大学宇宙線研究所がホスト研究機関となり、高エネルギー加速器研究機構と自然科学研究機構・国立天文台を共同ホスト機関として密接な協力体制を整え、さらに国内外から合計69機関、247人の研究協力者(注3)を得て、アインシュタインの一般相対性理論により存在が予測されている重力波の世界で初めての直接的検出を目指した大型低温重力波望遠鏡・KAGRA(かぐら)(以下KAGRA)の建設を、2010年より岐阜県飛騨市神岡町池ノ山の地下において進めてまいりました。2014年3月には望遠鏡を格納するトンネルが完成されました。重力波望遠鏡の設置場所として地下環境が選定されたのは、世界でKAGRAが初めてです。地下が好環境である理由は、極めて微弱な重力波の信号をとらえるKAGRAにとって、信号を掻き消す雑音となりうる地面の振動が、地表に比べて100分の1程度と小さいためです。KAGRA本体を格納する地下部は、地表より200メートル以深の地下に掘削され、一辺3kmのL字のトンネル構造と、そのL字の3端点に集中的実験空間を有しています。2015年9月までに、その地下空間の広範囲で必要とされる基盤的な施設の整備と、クリーン環境系、真空系のという基盤的実験装置の構築を行ってきました。それと並行して、多数の協力研究機関の参画の元、レーザー光学系、鏡の冷却系、鏡の防振系、制御系、データ収集系を含む望遠鏡構成要素の構築も進めてきました。このたびは、常温の鏡を用いた重力波望遠鏡の運転に必要な構成要素からなる第一期実験施設がほぼ完成いたしましたので、本日はこのようなKAGRAの様子を報道関係者の皆様に公開いたしました。2015年度中に試験観測を試み、引き続き、極低温鏡など、さらなる構成要素の導入により、いっそうの高感度化を行い、極低温鏡を用いた重力波望遠鏡の運転が可能な第二期実験施設の完成を目指し、2017年度中には本格観測に入る予定です。

内容

背景

 1916年にアインシュタインが一般相対性理論を提唱して今年で100年目を迎えますが、重力波はこの一般相対性理論からその存在が予言される”時空のゆがみ”が波のように伝搬する現象です。重い物体が激しく動く際に強い重力波が放出されると考えられています。たとえば、超新星爆発(注4)や、中性子星連星の合体(注5)などの天体現象に伴って強い重力波が放出されると考えられています。このような重力波が到来すると、我々のまわりの空間は伸び縮みするはずです。

 重力波の観測は、もし成功すれば、一般相対性理論の予言した物質の動きと時空という我々が住む世界の入れ物の間の動的な関係が確かめられ、また、ブラックホール形成の様子など、光では観測できない宇宙の姿を観測する「重力波天文学」という新たな分野の創成につながると期待されています。

 しかし、重力波の観測は簡単ではありません。それは重力波による空間の伸び縮みの予想値が3kmに対して10のマイナス17乗cm(10-17cm)程度と極めて小さいためです。このため、重力波の予言から100年程度たった現在に至るまで、重力波の直接観測には誰も成功していません(注6)。KAGRAはこのような重力波を直接観測することを目指しています。

KAGRA第一期完成に向けて

 日本の重力波グループは1970年代から重力波の直接検出を目指した研究を始めました。これまでに国立天文台に設置したTAMA300干渉計で当時の世界最高感度を達成し、また神岡に設置されたCLIO干渉計では,長年の加速器科学の研究で培った低温技術や超電導技術を持つ高エネルギー加速器研究機構の協力を得て、世界初となる低温干渉計型重力波検出器の動作に成功するなど、本格的な大型重力波望遠鏡建設へ向けた実績を積み上げてきました。それと平行して、東京大学宇宙線研究所においては、1993年の研究所の将来計画検討委員会によって、スーパーカミオカンデの次に実現すべき重要な研究課題として推薦されて以来、KAGRA(当時はLCGT)計画実現に努力してきました。2010年に文部科学省の「最先端研究基盤事業」によって一部が予算化され、プロジェクトが開始され、その後も文部科学省の大規模学術フロンティア促進事業、概算要求(施設整備補助金)、日本学術振興会の特別推進研究などから支援をいただきながら推進してまいりました。

 重力波の観測には極めて微弱な信号をとらえる必要があり、観測に適した場所を選ぶことが重要です。そこでKAGRAでは200メートル以深の地下深くに装置を設置することにしました。この程度深くなると、信号を掻き消す雑音となりうる地面の振動が、地表に比べて100分の1程度と小さいためです。2012年5月からKAGRAを設置するための地下空洞の掘削は、鹿島建設株式会社様によって行われ、2014年3月に完成しました。KAGRAの地下実験空間は、一辺3kmのL字のトンネル構造と、そのL字の3端点にある集中的実験空間から構成されていますが(図1)、このKAGRA本体用トンネルのみならず、そこに到達するための誘導トンネルも掘削する必要があり、そのため掘削の総延長は約7.7kmになりました(図2)。

 これと並行して、各協力研究機関において、KAGRAを構成する重要な構成要素の開発が行われました。このKAGRAの構成要素の大部分を格納し、一辺3kmのL字のトンネル全面に渡って展開される巨大な真空系の製造は、高エネルギー加速器研究機構及び東京大学宇宙線研究所が中心となり、株式会社ミラプロ様の協力を得て行われました。長さ12メートル・直径80センチメートルの真空ダクトを500本超、直径1.5メートル、高さ3.4メートルから4.5メートルまでの真空槽15基などが製造されました(図3)。これらの大量の真空ダクトは、トンネル完成までの間、岐阜県飛騨市様のご厚意により、今は廃線となっている旧神岡鉄道のトンネルの東茂住駅から漆山駅の間を利用させていただき保管されていました。KAGRAの最大の特徴の一つでもある鏡をマイナス253度まで冷却するクライオスタット呼ばれる装置は、高エネルギー加速器研究機構のグループが中心となり、株式会社東芝様、株式会社ジェック東理社様の協力を得て、その設計、製造、工場等での試験が行われてきました(図4)。一方、KAGRAで使用する鏡を地面振動から防振する装置の開発は、国立天文台のメンバーが中心となり、イタリアの重力波グループのメンバーの協力も得ながら、設計、製造、性能試験が行われてきました(図5)。その他にも、レーザー光学系の設計と開発(図6)、KAGRAを望遠鏡として機能させるための制御系の開発(図7)、データを取得・蓄積・転送・そして解析するシステムの構築も、東京大学宇宙線研究所、東京工業大学、富山大学、大阪市立大学、新潟大学、大阪大学等を中心に現在も進行中です。

 その後の2014年4月から、2015年9月までの間は、KAGRAに必要な基盤的な実験環境の整備とクリーンブースの建築を、東京大学宇宙線研究所が中心となり、鹿島建設株式会社様、株式会社三井金属エンジニアリング様、株式会社SPエンジニアリング様、株式会社興研様等のご協力を得ながら行ってまいりました。それと並行して、真空系を構築するための真空ダクト・真空タンク・クライオスタットの搬入と設置、構築、および締結作業を、主に三井金属エンジニアリング様とミラプロ様の協力を得てほぼ完成させました。さらに、KAGRAのサイトに最も近い国立大学である富山大学との間で協定を締結し、富山大学におけるレーザー光源部の性能改善開発がさらに加速されることとなりました。2015年初頭から現在に至っては、レーザー光学系の組み込みが開始されると同時に、KAGRAで必要とされる様々な鏡を地面振動から防振するための防振装置と鏡の真空タンク内への組み込み作業などが進行中です。

(図1) KAGRA地下空洞の全体像。その中に、長さ3 kmの2本の腕を持つL字型構造をした重力波望遠鏡KAGRAが設置される。
(図2) KAGRAで新たに掘削され、コンクリート吹き付け塗装、および、床コンクリート舗装がなされた、長さ約3kmのトンネル。写真はYアーム(東茂住側に伸びるトンネル)。
(図3) 3kmの腕トンネルに設置された真空ダクト。長さ12 m、直径80 cmのダクトを約250本程度締結し、約3 kmの高真空空間を構築。写真はXアーム(佐古西側に伸びるトンネル)。
(図4) サファイア鏡をマイナス253度程度に冷却するためのクライオスタット装置。計4基が製造され、すべてKAGRA施設内に設置された。冷却装置としては、第二期完成時に稼働予定。

(図5)左: KAGRAを構築する鏡の一つを地面振動から防振する装置。この写真では、最終端には、本物の鏡を模したアルミの円筒が装着されている。国立天文台内での作業風景。右:実際に格納される鏡とその周辺部品取り付け作業風景。

(図6) KAGRAで利用されるレーザー装置の調整風景。ISO Class 1 のクリーンブースの中にレーザー光学系が設置されており、中央右の真空ダクトから、レーザー干渉計へとレーザー光線が導入される。
(図7) KAGRAを坑外からリモートで監視・制御する制御室。岐阜県飛騨市神岡町東茂住にある東京大学宇宙線研究所重力波推進室のデータ収集解析棟内に構築。

今後の予定

今後は、L字の角にあたる部分の中央実験室において、レーザー光線を3kmの両腕に分配するビームスプリッターとその防振装置等の組み込み、中央実験室から3km離れたエンド実験室に設置された真空タンク内への鏡とその防振装置の組み込等を行い、重力波望遠鏡として最も単純な構成であるマイケルソンレーザー干渉計を構築した後、2015年度中に重力波望遠鏡の試験運転を行う見込みです。試験運転後は、引き続き、極低温鏡、高性能鏡防振装置、ハイパワーレーザー、高感度化光検出系などさらなる構成要素の追加を行い、いっそうの高感度化を目指し、2017年度中には本格観測に入る予定です。そして、一刻も早く世界初の重力波の直接観測を成し遂げ、重力波天文学の創出を目指したいと考えています(注7)。

資料

・ 【プレス見学会・記者会見】プレスリリース「大型低温重力波望遠鏡・KAGRA 第一期実験施設完成」
・ KAGRAプレス見学会資料
・ KAGRAパンフレット
・ 報道目的でご使用いただける画像のダウンロード

問い合わせ

・KAGRAのことについて
 東京大学宇宙線研究所 准教授
 担当 三代木 伸二(みよき しんじ)

・見学会及び記者会見のことについて
 東京大学宇宙線研究所
 担当:林田 美里
 TEL:04-7136-5148
 E-mail:misato◎icrr.u-tokyo.ac.jp(◎を@にご変換ください)

注釈

(注1)
レーザー干渉計の原理は、振幅と位相が揃った(コヒーレントな)光であるレーザーを用いた干渉計です。レーザー光源の光をビームスプリッターで2つに分割し、それぞれの光を鏡で反射させてビームスプリッターに戻します。すると2つの光の微小な光路差により干渉縞が生じるので、それを測定します。重力波観測に用いられる干渉計は、高感度を達成するために、レーザー光を腕の中で1,000回程度折り返しさせ、重力波信号の増幅を行うなど様々な工夫が施されています。

(注2)
2014年3月31日プレスリリース
「世界初の重力波直接観測を目指す大型低温重力波望遠鏡 KAGRAのトンネル掘削が完了」

(注3)
2015年10月27日 現在。69機関数中に、東京大学、高エネルギー加速器研究機構、国立天文台の3機関を含む。

(注4) 
太陽より約8倍以上重い星は、核融合で星が燃えつきた後、星自らの重みに耐えられなくなって、あるとき一気に星の中心部に向かって物質が落ち込む(爆縮)と考えられています。中心部に落ち込んだ物質は、非常に密度が高くコンパクトな原始中性子星となります。このため、爆縮は一気に止まり、その反動で衝撃波が形成され、これが星の外側を吹き飛ばします。このような爆発現象を超新星爆発といい、1987年の超新星SN1987Aからのニュートリノをカミオカンデがとらえたことで、この機構が確認されました。このような激しい現象では、重力波の放出が予想されています。

(注5)
注4で述べた超新星爆発の後に残るのが中性子星です。この宇宙には2個の恒星がお互いの周りをまわる連星がたくさんあるように、中性子星が連星になった中性子星連星もあることが知られています。中性子星は半径10km程度で、重さは太陽の1.4倍程度であるため、お互いの距離が近ければ、お互いの周りを高速度で回ります。そのため強い重力波を放出すると考えられています。また重力波を放出することで、だんだん回転エネルギーが失われてお互いの軌道が近くなり、最終的には2つの中性子星が合体してブラックホールが形成されると考えられています。

(注6)
重力波の存在の間接的な証拠は、ラッセル・ハルス博士とジョゼフ・テイラー博士により初めて得られました。1974年に両博士により発見された連星中性子星の公転周期の観測減少値が、連星系からの重力波の放出を仮定した場合の公転周期の計算減少値と高い精度で一致したことにより、中性子星の加速運動による重力波放射が裏付けられました。両博士はこの業績によって1993年度のノーベル物理学賞を受賞しています。

(注7)
 現在重力波の直接観測を目指したプロジェクトが日米欧で進行しています。アメリカのプロジェクトはAdvanced LIGO, ヨーロッパのプロジェクトはAdvanced Virgoと呼ばれ、今まで運転してきたレーザー干渉計を抜本的に改造する計画です。これらはすべて一辺3から4kmの長さのレーザー干渉計で、いずれも2017年頃に高感度での観測の開始を予定しています。ただし、現在、Advanced-LIGOは目標感度の3~4分の1の感度に達し、2015年9月より一時的に重力波観測を行っており、現在も進行中です。

リンク

・ 大型低温重力波望遠鏡KAGRAの運転開始迫る!
・ 東京大学宇宙線研究所 KAGRA ホームページ