60年来の謎解明へ、宇宙線の起源「ペバトロン」の決定的証拠つかむ!〜天の川から史上最高エネルギーのガンマ線放射を観測〜

プレスリリース

 東京大学宇宙線研究所、中国科学院高能物理研究所など日本と中国の研究機関から成る国際共同研究グループは、中国のチベット自治区の羊八井高原 (ヤンパーチン、標高4,300 m) に建設された空気シャワー観測装置による観測で、最高で1ペタ電子ボルトを含む多数のガンマ線が、天の川方向に沿って分布していることを発見しました。これは史上最高エネルギーを持つ光子(または電磁波)の検出であり、そのエネルギーは可視光線の1000兆倍に相当します。また、驚くべきことに、これらのガンマ線は既知のガンマ線放射天体の方向からではなく、銀河系のディスク方向(天の川)全体に広がって分布していました。これらの事実から、宇宙線をペタ電子ボルト以上に加速している銀河系最強の天体「ペバトロン」が、過去または現在に存在するという初めての決定的な証拠を得ました。

 本成果は4月5日深夜に米国科学誌Physical Review Lettersの電子版に掲載されます。

チベット空気シャワー観測装置と天の川(合成イメージ)。ひときわ輝くのは史上最高エネルギーガンマ線が放射している様子を表しています。〔クレジット:東京大学宇宙線研究所/若林菜穂〕

【発表者】

梶田 隆章(東京大学宇宙線研究所 所長)
瀧田  正人(東京大学宇宙線研究所 高エネルギー宇宙線研究部門 教授)
川田  和正(東京大学宇宙線研究所 高エネルギー宇宙線研究部門 助教)
大西  宗博(東京大学宇宙線研究所 高エネルギー宇宙線研究部門 助教)
片寄  祐作(横浜国立大学 大学院工学研究院 准教授)
塩見  昌司(日本大学 生産工学部教養・基礎科学系 准教授)
日比野 欣也(神奈川大学 工学部物理学教室 教授)

【発表のポイント】

◆ 史上最高エネルギーのガンマ線放射が、既知のガンマ線放射天体の方向ではなく、天の川に沿って広がって分布する様子を発見しました。
◆ この観測結果は、60年来の謎である高エネルギー宇宙線の起源「ペバトロン」が、過去または現在の銀河系内に存在することを示す決定的な証拠です。
◆ さらに「ペバトロン」で生成された宇宙線が、数百万年以上の間銀河系内に閉じ込められ、宇宙線のプールを形成しているという理論モデルを初めて実験的に検証しました。

Zoomを使ったリモート記者会見で説明する研究者。上段の左から横浜国大・片寄准教授、宇宙線研・梶田所長、日本大学・塩見准教授、中段の左から宇宙線研・川田助教、宇宙線研・大西助教、神奈川大学・日比野教授、下段は宇宙線研・瀧田教授。

【発表の概要】

 宇宙から降り注ぐ陽子を主成分とする高エネルギー放射線「宇宙線」は、1912年の発見以来、10桁以上のエネルギー範囲で観測されてきました。そして約60年前の1958年、エネルギーが数ペタ電子ボルト(注1)を超える宇宙線量が急激に減少している様子が発見されました。この事実と理論的考察から、数ペタ電子ボルト以下の宇宙線は、我々の住む銀河系内で生成されていると考えられてきました。しかし、その後の精力的な探索にも関わらず、1ペタ電子ボルトを超える宇宙線を生成できるような強力な天体「ペバトロン」(注2)の決定的な証拠は見つかりませんでした。

 チベットASγ(エー・エス・ガンマ)実験は、中国のチベット自治区の羊八井高原 (ヤンパーチン、標高4,300 m) に建設された空気シャワー観測装置により、高エネルギー宇宙線を観測する実験で、東京大学宇宙線研究所、中国科学院高能物理研究所など日本と中国の研究機関から成る国際共同研究グループ(注3)により運営されています。

 チベットASγ実験グループは、2014年から2017年の間に収集された約2年間分の観測データを解析したところ、最高で1ペタ電子ボルトを含む多数のガンマ線が、天の川方向に沿って分布していることを発見しました。これは史上最高エネルギーを持つ光子(または電磁波)の検出であり、そのエネルギーは可視光線の1000兆倍に相当します。また、驚くべきことに、これらのガンマ線は既知のガンマ線放射天体の方向からではなく、銀河系のディスク方向(天の川)全体に広がって分布していました。これらの事実から、宇宙線をペタ電子ボルト以上に加速している銀河系最強の天体「ペバトロン」が、過去または現在に存在するという初めての決定的な証拠を得ました。さらに、「ペバトロン」で生成された高エネルギー宇宙線が、数百万年以上の間銀河系内の磁場に閉じ込められ宇宙線のプールを形成し、地球まで伝搬しているという宇宙線の起源についての理論モデルを初めて実験的に検証しました。

  本成果を記した論文は、日本時間の4月5日深夜に米国科学誌Physical Review Letters電子版に掲載される予定です。また、日本・中国での記者会見の直後、欧米ジャーナリスト向けにアメリカ物理学会主催による記者会見も行われる予定です。

【発表内容】

① 研究の背景・先行研究における問題点

 宇宙線は宇宙からほぼ等方的にやって来る高エネルギーの放射線で,陽子(水素原子核)を主成分とする原子核です。1912年の宇宙線発見以来、そのエネルギー分布は10桁以上にわたり観測されてきましたが、その起源,加速機構(エネルギー獲得方法)や伝搬方法など多くの謎が残されています。そして約60年前の1958年に、エネルギーが数ペタ電子ボルトを超える宇宙線量が急激に減少している様子が観測されました。この事実と理論的考察から、数ペタ電子ボルト以下の宇宙線は銀河系内の天体、例えば超新星爆発の後に残る天体(超新星残骸)などで生成されていると考えられてきました。その後、低エネルギー(0.001ペタ電子ボルト)の宇宙線については超新星残骸で生成されている証拠も得られましたが、最近20年の精力的な探索にも関わらず、1ペタ電子ボルトを超える宇宙線を生成できるような強力な天体「ペバトロン」の決定的な証拠は得られませんでした。高エネルギー宇宙線は銀河系内に分布する星間物質と衝突し、宇宙線の約10%のエネルギーを持つガンマ線を放射することが知られており、したがって「ペバトロン」の証拠を得るには少なくとも0.1ペタ電子ボルト以上のガンマ線観測が必要不可欠となります。しかし、ガンマ線信号は宇宙線量に比べて極端に少なく、ガンマ線信号の10万倍以上ある宇宙線雑音を極限まで少なくする必要がありました。

② 研究内容

 チベットASγ実験は、中国チベット自治区の標高4,300mの高原に597台の粒子検出器を65,000m2の領域に配置し、宇宙空間から降り注ぐ高エネルギー宇宙線の観測を1990年から行っています(図1上)。高エネルギーのガンマ線(または宇宙線)は、大気上層の窒素原子核などと衝突して多数の粒子を生み、それがさらに衝突を繰り返してシャワー状に粒子が降り注ぐ「空気シャワー」と呼ばれる現象を引き起こします(図2)。この空気シャワー中の粒子を、多数の粒子検出器を碁盤の目状に配置したチベット空気シャワーアレイと呼ばれる装置で観測し、元のガンマ線の持つエネルギーと到来方向を決定することができます。

 次に、ガンマ線信号に対する雑音を極限まで減らすために、空気シャワーに含まれるミュー粒子という素粒子を利用します。ガンマ線起源の空気シャワー中のミュー粒子の数は、宇宙線起源の空気シャワーと比べて50分の1程度なので、ミュー粒子の数を計測することでガンマ線と雑音である宇宙線を高精度で選別することが可能となりました。純度の高いミュー粒子数を測定するために、空気シャワー中のミュー粒子以外のほとんどの粒子が遮断される地下に水チェレンコフ型ミューオン検出器を設置しました(図1下・図2下)。本研究の鍵となるこの検出器は世界最大の面積3400m2を誇り、水深1.5mのプール中に直径50cmの光電子増倍管(注4)を取り付けた構造になっています。これは、ニュートリノ観測で有名なスーパーカミオカンデ(注5)の技術を応用したもので、安価で低雑音なミュー粒子観測装置を実現しました。

 本研究では、ミュー粒子検出器を用いて、宇宙線雑音を100万分の1に減らすことに世界で初めて成功しました。これにより、宇宙線雑音の少ない状態で、天の川方向に沿ってガンマ線が集中する様子を観測しました(図3)。ガンマ線のエネルギーは最大で約1ペタ電子ボルトに達し、人類史上最も高いエネルギーのガンマ線の観測に成功しました。また驚くべきことに、観測されたガンマ線は既知のガンマ線放射天体の方向からは到来しておらず、天の川の方向に空間的に広がって分布していました。このような空間的に広がったガンマ線は、宇宙線「陽子」が天の川の星間物質と衝突して生成されると考えられます。高エネルギーの「電子」も、銀河系内に充満する低エネルギーの電磁波と衝突して高エネルギーガンマ線を生成しますが、電子はすぐにエネルギーを失ってしまうため、放射天体付近に留まるとされているからです。したがって、図3の結果は「電子」ではなく宇宙線「陽子」が銀河系内で高エネルギー領域まで加速されている証拠で、その存在が数十年にわたる論争の的となってきた宇宙線「陽子」の起源「ペバトロン」が過去または現在に存在することを示す決定的な証拠と言えます。さらに、宇宙線が十分に長い時間銀河系内に閉じ込められ平均化されていると、地球で観測される宇宙線量を元に観測されるガンマ線量を理論的に計算することがでます。今回、実際に観測されたガンマ線量はその理論予測と一致しました。これは、高エネルギー宇宙線が数百万年以上の間、銀河系内の磁場によって閉じ込められ宇宙線のプールを形成し、地球に伝搬しているという60年前から考えられてきた理論モデルを初めて実験的に検証したことを意味します。

③ 社会的意義・今後の予定

 本研究では、天の川方向から最高で約1ペタ電子ボルトに達するガンマ線の観測に成功しました。これは人類がこれまでに手にした最も高いエネルギーの「光」に相当します。そして、この観測結果は、地球に絶え間なく降り注ぐ高エネルギー宇宙線と、過去数百万年以内の銀河系内に存在する最強天体「ペバトロン」をつなぐ決定的な証拠と言えます。現在、南半球のボリビアにおいても、ALPACA(アルパカ)と呼ばれるチベットASγ実験と類似の観測装置の建設が進行しており、さらに強力な宇宙線放射天体が存在するかもしれない銀河系中心付近の観測を目指しています。今後、現存する強力な宇宙線放射天体「ペバトロン」を探し出し、そこで起きている天体物理現象の解明に挑みます。

図 1 チベット高原・標高4300mに設置されている空気シャワー観測装置(上)とその地下に設置されている注水前の水チェレンコフ型ミューオン検出器(下)。〔クレジット: チベットASγ実験グループ〕


図 2 大気中で発生した空気シャワーの粒子の軌跡の計算機シミュレーション(上)、とその地上付近での拡大図(下)。青い軌跡がミュー粒子。〔クレジット: チベットASγ実験グループ〕
図3 天の川銀河からの高エネルギーガンマ線(黄丸)と電波による水素原子の分布(バックグランドカラー)[クレジット:チベットASγ実験グループ/HEASARC/LAMBDA/NASA/GFSC〕。

【発表雑誌】

雑誌名:Physical Review Letters(日本時間の4月5日深夜に電子版掲載)
論文タイトル:”First Detection of sub-PeV Diffuse Gamma Rays from the Galactic Disk: Evidence for Ubiquitous Galactic Cosmic Rays beyond PeV Energies”
著者:M. Amenomori, Y. W. Bao, X. J. Bi, D. Chen, T. L. Chen, W. Y. Chen, Xu Chen, Y. Chen, Cirennima, S. W. Cui, Danzengluobu, L. K. Ding, J. H. Fang, K. Fang, C. F. Feng, Zhaoyang Feng, Z. Y. Feng, Qi Gao, Q. B. Gou, Y. Q. Guo, Y. Y. Guo, H. H. He, Z. T. He, K. Hibino, N. Hotta, Haibing Hu, H. B. Hu, J. Huang, H. Y. Jia, L. Jiang, H. B. Jin, K. Kasahara, Y. Katayose, C. Kato, S. Kato, K. Kawata, W. Kihara, Y. Ko, M. Kozai, Labaciren, G. M. Le, A. F. Li, H. J. Li, W. J. Li, Y. H. Lin, B. Liu, C. Liu, J. S. Liu, M. Y. Liu, W. Liu,
Y.- Q. Lou, H. Lu, X. R. Meng, K. Munakata, H. Nakada, Y. Nakamura, H. Nanjo, M. Nishizawa, M. Ohnishi, T. Ohura, S. Ozawa, X. L. Qian, X. B. Qu, T. Saito, M. Sakata, T. K. Sako, J. Shao, M. Shibata, A. Shiomi, H. Sugimoto, W. Takano, M. Takita, Y. H. Tan, N. Tateyama, S. Torii, H. Tsuchiya, S. Udo, H. Wang, H. R. Wu, L. Xue, Y. Yamamoto, Z. Yang, Y. Yokoe, A. F. Yuan, L. M. Zhai, H. M. Zhang, J. L. Zhang, X. Zhang, X. Y. Zhang, Y. Zhang, Yi Zhang, Ying Zhang, S. P. Zhao, Zhaxisangzhu, and X. X. Zhou
(Tibet ASγ Collaboration)
アブストラクトURL

本論文は Physical Review Letters (PRL) の ” Editors’ Suggestion” 及び”Viewpoint” に選ばれました。

【用語解説】

(注1) 電子ボルト(eV)

エネルギーの単位。1電子ボルトは1個の電子が1ボルトの電位差で加速されるときのエネルギー。電磁波のエネルギーでは、可視光〜数eV、X線〜keV、ガンマ線〜100 keV以上に相当する。1 GeV = 109 eV、1 TeV = 1012 eV、1 PeV = 1015 eV

(注2) ペバトロン(PeVatron)

ペタ電子ボルト(=1000兆電子ボルト)以上の宇宙線陽子を生成できる宇宙に存在するとされる宇宙粒子加速器。テラ電子ボルト(=1兆電子ボルト)の陽子を生成できるアメリカの人工粒子加速器「テバトロン(Tevatron)」に因んで名付けられた。

(注3) チベットASγ実験グループ

Tibet ASγ 実験に参加している共同研究者グループ。次の研究機関に所属している研究者からなる。1.弘前大学理工学部 2.南京大学 3.中国科学院高能物理研究所 4.中国科学院国家天文台 5.チベット大学 6.河北師範大学 7.中国科学院大学 8. 山東大学 9.西南交通大学 10.神奈川大学工学部 11.宇都宮大学教育学部 12.芝浦工業大学システム理工学部 13.横浜国立大学大学院工学研究院 14.信州大学理学部 15.東京大学宇宙線研究所 16.宇宙航空研究開発機構宇宙科学研究所 17.国家衛星気象センター 18.山東農業大学 19.中国科学技術大学 20.清華大学天体物理センター 21.清華大学-国家天文台共同研究センター 22.清華大学天文学部 23.国立情報学研究所 24.情報通信研究機構 25.山東管理学院 26.中国石油大学 27.東京都立産業技術高等専門学校 28.甲南大学理工学部 29.日本大学生産工学部 30.湘南工科大学 31.早稲田大学理工学術院 32.日本原子力研究開発機構 33.紫金山天文台

(注4) 光電子増倍管

超高感度の光センサー。光電効果を利用して微弱な光を電子に変換し、増幅させ電気信号に変換する。光子1個から検出可能。

(注5) スーパーカミオカンデ

ニュートリノ観測や陽子崩壊観測を主目的とした世界最大の水チェレンコフ素粒子観測装置。ニュートリノに質量があることを世界で初めて証明した。

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