【プレスリリース】銀河系内で最強の宇宙線源の候補を発見!-超新星爆発の残骸(G106.3+2.7)から100TeV超のガンマ線を観測-

プレスリリース

東京大学宇宙線研究所
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ペバトロンの候補となった超新星残骸G106.3+2.7の想像図。黄色い点は、宇宙線が分子雲のガスと衝突し、ガンマ線が放射されている様子を表している。©️東京大学宇宙線研究所 / 若林菜穂

1. 発表のポイント

◆ チベット空気シャワー観測装置が、地球から2600光年彼方にある超新星残骸G106.3+2.7 から100 TeV超のガンマ線を世界で初めて観測しました。
◆ 超新星残骸から観測されたガンマ線の中では最もエネルギーが高く、G106.3+2.7で加速された宇宙線(陽子)が周辺の分子雲と衝突して発生したものと推測されます。
◆ 宇宙線(陽子)のエネルギーはガンマ線より1桁程度大きいことから、1000 TeV (= 1 PeV)領域まで宇宙線を加速する天体「ぺバトロン」の候補が初めて見つかったといえます。

2. 発表概要

 宇宙から飛来している陽子、ヘリウムなどの原子核は宇宙線と呼ばれ、1912年の発見以来様々な実験装置によって観測されてきましたが、宇宙線の起源(どの天体で生まれているのか)は未だ明らかになっていません。

 チベットASg(エイ・エス・ガンマ)実験は、中国のチベット自治区の羊八井高原 (ヤンパーチン、標高4,300 m)に建設した空気シャワー(注1)観測装置により超高エネルギー宇宙線・ガンマ線を観測するもので、東京大学宇宙線研究所、中国科学院高能物理研究所など日本と中国の研究者95人の国際共同研究グループ(注2)により運営されており、1990年から観測を続けてきました。実験グループは2014年、空気シャワー観測装置にガンマ線由来の空気シャワーを感度良く観測できる機器を追加し、観測を再開しました。その直後から2017年まで約2年間分の観測データを解析したところ、1014電子ボルト(注3)(= 100 TeV)を上回る超高エネルギーガンマ線が、超新星残骸(注4) G106.3+2.7から到来しており、ガンマ線放射領域が近傍の分子雲(注5)の位置と良く合っていることが分かりました。この超新星残骸でPeV(= 1000 TeV)領域まで加速された原子核宇宙線が分子雲のガスと衝突して生成される中性パイ中間子(注6)の崩壊によってガンマ線が放射されていると推測されます。今回の結果は、銀河系内の原子核宇宙線の起源の解明を目指す上で重要な一歩となります。

 本成果を記した論文は、3月1日発行の英国科学誌Nature Astronomy Letters電子版に掲載されました。

3. 発表内容

①. 研究の背景・先行研究における問題点

 1912年に発見されて以来、宇宙線(陽子、ヘリウムなどの原子核)は 109—1020 eV の10桁以上のエネルギー領域にわたって観測されてきました。宇宙線をPeVのエネルギーまで加速している天体は「ぺバトロン」と呼ばれ、我々の銀河系内に存在すると考えられています。宇宙線は電荷を持っており、銀河磁場によりその進路を曲げられるため、地球で宇宙線を観測してもどの天体からやってきたのか知ることができません。一方で、加速された宇宙線が天体のごく近傍の分子雲などのガスと衝突することで中性パイ中間子が生成・崩壊し、元の宇宙線の1/10程度のエネルギーを持つガンマ線が放出される可能性があり、ガンマ線は磁場の影響を受けずに直進するため、地球での到来方向は放出された天体の方向に一致します。したがって、ぺバトロンの候補天体を同定するためには、

1)「その天体が100 TeVを超えるガンマ線を放射している」

2)「ガンマ線放射領域が分子雲の位置と合っており、超新星爆発後に残されたパルサー(注7)の位置から離れている」(パルサーは高エネルギーの電子を供給し、電子起源のガンマ線を放射し、原子核宇宙線起源のガンマ線と区別がつかなくなるため)

という二つの事を示す必要があります。これまで、これら2つの点が同時に示された例はありませんでした。G106.3+2.7に関しては、VERITASチェレンコフ望遠鏡(注8)が TeV領域で、フェルミ衛星がGeV領域で2)を観測しましたが、どちらの装置も100 TeV ガンマ線に対する感度が十分でなく、1)を観測できていません。また、HAWC実験は40 TeV — 100 TeVのエネルギー領域でこの天体からのガンマ線を観測しましたが100 TeVを超えておらず、さらにガンマ線放射領域がパルサー位置から離れていることを示していません。

②. 研究内容

 チベットASg 実験は、中国チベット自治区の標高4,300mの高原に多数の粒子検出器を配置し、宇宙空間から降り注ぐ超高エネルギー宇宙線・ガンマ線の観測を1990年から行っています(図1左)。高いエネルギーの宇宙線(またはガンマ線)は、大気上層の窒素原子核などと衝突し多数の粒子を生み、それがさらに衝突を繰り返してシャワー状に粒子が降り注ぐ「空気シャワー」と呼ばれる現象を引き起こします(図2)。この空気シャワー中の粒子を、多数の粒子検出器を碁盤の目状に配置したチベット空気シャワーアレイと呼ばれる装置で観測します。各検出器で計測された粒子密度分布や到着時間分布を用いて、元の宇宙線(またはガンマ線)の持つエネルギーと到来方向を決定することができます。本観測装置の最大の利点は、粒子を直接観測する(光学観測ではない)ため、昼夜・天候を問わず連続して観測できることにあります。しかし、天体からやってくる100TeVを超えるガンマ線の強度は弱く、一様にやってくる宇宙線雑音の数百分の1以下しかありません。つまり、たとえガンマ線信号があったとしても、その数百倍の雑音に埋もれてしまいます。

図 1 :チベット高原・標高4300mに設置されている空気シャワー観測装置(左)とその地下に設置されている注水前の水チェレンコフ型ミューオン検出器(右)。
図2 :宇宙線が大気中でつくる空気シャワー


 本研究では、宇宙線雑音を劇的に減らすために、空気シャワーに含まれるミューオン(注9)の数に着目しました。ガンマ線起源の空気シャワー中のミューオン数は、宇宙線起源のそれと比べて50分の1程度なので、ミューオン数を計測することでガンマ線と雑音である宇宙線を選別することが可能となります。そこで、純度の高いミューオン数を測定するために、空気シャワー中のミューオン以外のほとんどの粒子が遮断される地下2.4mに水チェレンコフ型ミューオン検出器を新たに建造しました(図1右)。この地下ミューオン検出器は世界最大級の面積3,400 m2を誇り、水深1.5mのプール中に光電子増倍管(注10)を取り付けた構造になっています。これにより、ミューオンが水中で発するチェレンコフ光(注11)を観測し、空気シャワー中のミューオン数を計測します。

 本研究では、2014年から約2年間のデータを解析しました。地下ミューオン検出器を用いて、100 TeV以上のエネルギー領域で宇宙線雑音を千分の1以下にすることに成功し、G106.3+2.7から放射されるガンマ線のスペクトルが100 TeV以上にまで伸びていることを示しました。これは、これまでに超新星残骸から観測された中で最高エネルギーのガンマ線です。

 また、ガンマ線の放射領域が分子雲の位置と良く合っており、分子雲の北東に位置するパルサーからは離れていることを示しました(図3)。これらのことから、超新星爆発後に形成される衝撃波で陽子がPeV領域まで加速され、近傍の分子雲のガスと衝突して中性パイ中間子を生成し、中性パイ中間子が崩壊して100 TeV領域のガンマ線を放射する、という過程が起こっていると考えられます。したがって、G106.3+2.7はぺバトロンの候補天体であるといえます。

図3 : チベット空気シャワー観測装置で見た超新星残骸G106.3+2.7方向の10TeV以上のガンマ線イメージ。PSF は装置の角度分解能によるひろがりを示す。黒の等高線は超新星残骸の外殻、水色の等高線は分子雲の分布、灰色のダイアモンドはパルサーの位置を示す。赤の星印(統計誤差を示す円付き)、黒の✖︎印、マゼンタの十字および青の三角は、チベット空気シャワー観測装置、Fermi衛星、VERITAS チェレンコフ望遠鏡および HAWC 実験で観測されたガンマ線放射領域の中心をそれぞれ示す。
③. 社会的意義・今後の予定

 本研究では、超新星残骸G106.3+2.7から100 TeVを超えるガンマ線が到来しており、ガンマ線放射領域が分子雲の位置と良く合っていることを示し、G106.3+2.7がぺバトロンの候補天体であるという結果を得ました。銀河系中心方向が観測できる南半球のボリビアにも、ALPACAと呼ばれるチベットASg 実験と類似の観測装置の建設を計画しており、この新エネルギー領域の観測が進めば、銀河系内の宇宙線のエネルギー限界や発生原理、および発生源を明らかにすることが可能となり、1912年の宇宙線発見以来、100年以上謎であった宇宙線起源の解明の研究が飛躍的に進むことが期待されます。

<論文情報>
雑誌: Nature Astronomy Letters
タイトル: “Potential PeVatron supernova remnant G106.3+2.7 seen in the  highest-energy gamma rays”
執筆者: M. Amenomori, Y. W. Bao, X. J. Bi,D. Chen*, T. L. Chen, W. Y. Chen, Xu Chen, Y. Chen, Cirennima, S. W. Cui, Danzengluobu, L. K. Ding, J. H. Fang, K. Fang, C. F. Feng, Zhaoyang Feng, Z. Y. Feng, Qi Gao, Q. B. Gou, Y. Q. Guo, Y. Y. Guo, H. H. He, Z. T. He, K. Hibino, N. Hotta, Haibing Hu, H. B. Hu, J. Huang*, H. Y. Jia, L. Jiang, H. B. Jin, K. Kasahara, Y. Katayose, C. Kato, S. Kato,K. Kawata, W. Kihara, Y. Ko, M. Kozai, Labaciren, G. M. Le, A. F. Li, H. J. Li, W. J. Li, Y. H. Lin, B. Liu, C. Liu, J. S. Liu, M. Y. Liu, W. Liu, Y.-Q. Lou, H. Lu, X. R. Meng, K. Munakata, H. Nakada, Y. Nakamura, H. Nanjo, M. Nishizawa, M. Ohnishi*, T. Ohura,S. Ozawa, X. L. Qian, X. B. Qu, T. Saito, M. Sakata, T. K. Sako*, J. Shao, M. Shibata, A. Shiomi, H. Sugimoto, W. Takano, M. Takita*, Y. H. Tan, N. Tateyama, S. Torii, H. Tsuchiya, S. Udo,H. Wang, H. R. Wu, L. Xue, Y. Yamamoto, Z. Yang, Y. Yokoe, A. F. Yuan, L. M. Zhai, H. M. Zhang, J. L. Zhang, X. Zhang*, X. Y. Zhang, Y. Zhang, Yi Zhang, Ying Zhang, S. P. Zhao, Zhaxisangzhu and X. X. Zhou (The Tibet ASg Collaboration)
DOI番号:10.1038/s41550-020-01294-9
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<用語解説>
(注1) 空気シャワー:高いエネルギーの宇宙線(またはガンマ線)が大気上層の窒素原子核などと衝突し多数の粒子を生み、それらがさらに衝突を繰り返してシャワー状に粒子が降り注ぐ現象。

(注2) チベットASg 実験グループ:Tibet ASg 実験に参加している共同研究者グループ。次の33の研究機関に所属している95名の研究者からなる。1.弘前大学理工学部 2.南京大学 3.中国科学院高能物理研究所 4.中国科学院国家天文台 5.チベット大学 6.河北師範大学7.中国科学院大学 8.山東大学  9.西南交通大学 10.神奈川大学工学部 11.宇都宮大学教育学部 12.芝浦工業大学13.横浜国立大学大学院工学研究院 14.信州大学理学部15.東京大学宇宙線研究所16.宇宙航空研究開発機構宇宙科学研究所17.中国気象局 18.山東農業大学 19.中国科学技術大学20.清華大学THCA 21.清華大学NAOC 22.清華大学天文学部23.国立情報学研究所 24.情報通信研究機構25.山東管理学院26.中国石油大学27.東京都立産業技術高等専門学校28.甲南大学理工学部 29.日本大学生産工学部 30.湘南工科大学 31.早稲田大学理工学術院 32.日本原子力研究開発機構 33.紫金山天文台

(注3) 電子ボルト(eV):エネルギーの単位。1電子ボルトは1個の電子が1ボルトの電位差で加速されるときのエネルギー。電磁波のエネルギーでは、可視光〜数eV、X線〜keV、ガンマ線〜100keV以上におおよそ対応する。

(注4) 超新星残骸:超新星の爆発後に残された星雲状の天体。爆発時に吹き飛ばされた外層は高速で膨張して周辺の星間ガスとの間に衝撃波を形成し、衝撃波で宇宙線が加速されると考えられている。超新星爆発の後に残された中性子星がパルサーとしてエネルギー源となっているものはパルサー星雲と呼ばれる。

(注5) 分子雲:星間空間のガス雲で、主要な成分である水素が主に水素分子状態(H2ガス)の形で存在している。

(注6) 中性パイ中間子:クォークと反クォークの対から構成される粒子の一種。不安定で、生成後すぐ(平均寿命約 10-16 秒)でガンマ線2つに崩壊する。

(注7) パルサー:強い磁場を持ち回転する中性子星。自転に同期して、電波からガンマ線に至る幅広い波長帯域で周期的な電磁波が放射される。

(注8) チェレンコフ望遠鏡:空気シャワーが大気中で放射するチェレンコフ光を捉えて高エネルギーガンマ線を観測する装置。TeVガンマ線領域での感度が高く、空間分解能が良い。

(注9)ミューオン:電子と同じ負電荷を持つ素粒子。質量は電子の約200倍重く、物質を貫通する能力が高い。

(注10) 光電子増倍管:超高感度の光センサー。光電効果を利用して微弱な光を電子に変換し、増幅させ電気信号に変換する。光子1個から検出可能。

(注11) チェレンコフ光:電荷をもった粒子の速度が(水や空気の)媒質中の光速を超えるときに放射される青白い光のこと。