トピックス「観測的宇宙論グループの菅原悠馬さん(博士課程2年) がIAUシンポジウムで”ポスター優秀賞”」

菅原悠馬さん(博士課程2年) が国際天文学会(IAU)のシンポジウムで"ポスター優秀賞"

ー観測的宇宙論グループ

 大阪大学で11月半ばに開かれた国際天文学会(IAU)シンポジウムで、宇宙線研究所の観測的宇宙論グループ所属の菅原悠馬さん(D2)がポスター発表で優秀賞を受賞しました。IAUシンポジウムが日本で開催されたのは、2012年に栃木県日光市で開催されて以来のことで、日本の大学院生がポスター賞を受賞するチャンスは少なく、たいへん貴重な経験とされています。

 IAUシンポジウムは一つのテーマに沿った最先端の研究を参加者で共有し、約5日間にわたって議論しながら、その分野の発展を目指す国際会議です。今回のIAUシンポジウムは、多波長観測による銀河の包括的理解をテーマとし、大阪産業大学、大阪大学、マルセイユ天体物理学研究所(LAM)が企画したもので、日本、フランス、イタリアなどから約130人の研究者が参加しました。

 菅原さんは、米国ハワイ・ケック天文台にある光学近赤外線望遠鏡で観測された可視光スペクトルを使って、およそ125億年前の銀河のアウトフロー(銀河風)の速度を測定し、ポスター発表で報告しました。アウトフローの正確な速度を知るためには、銀河とアウトフローガスの相対速度を得る必要があります。今回の研究では可視光スペクトルから得られたアウトフローの運動を、ALMA望遠鏡の電波観測で得られた銀河の後退速度(赤方偏移)と組み合わせることで、非常に昔の銀河のアウトフロー速度の測定ができました。

ポスター優秀賞を獲得した博士課程2年の菅原さん
ポスター優秀賞を獲得した博士課程2年の菅原さん
M82銀河の天体写真。銀河中心部から極方向へ電離した水素ガスが噴き出す様子。<br>銀河から吹き出すアウトフローも同じように極方向から吹き出すと考えられています。
M82銀河の天体写真。銀河中心部から極方向へ電離した水素ガスが噴き出す様子。
銀河から吹き出すアウトフローも同じように極方向から吹き出すと考えられています。

 この測定から、過去の銀河のアウトフロー速度が現在よりも速い可能性がある、という菅原さん自身の論文(2017年)の予測をさらに裏付けるデータが得られました。さらに、アウトフロー速度と重力ポテンシャルとの関係についても触れています。

 星を活発に作っている銀河では、超新星爆発などによってガスが加速されて、銀河の外へアウトフローとして吹き出します。ガスは星を作る材料なので、アウトフローにより銀河に含まれるガスが減ることで、星の形成が抑制されます。そのためアウトフローは、銀河の形成と進化を制御する重要な現象だと考えられています。

 菅原さんのように、銀河進化の初期段階である約130億年前のアウトフローを調査する研究者は多くありません。菅原さんは「さらにたくさんのデータを集めて検証すれば、アウトフローが銀河の形成進化にどのような影響を与えてきたかを解明できるかも知れません。次世代装置として、Kavli IPMUが開発中の超広視野分光観測(PFS)がすばる望遠鏡に取り付けられ、2021年からデータ取得が始まる予定です。視野の広いすばる望遠鏡の特徴を生かし、より大きなサンプルが得られる可能性があるので、大変楽しみです」と語りました。