宇宙線研究所とカブリ数物連携宇宙研究機構(Kavli IPMU)の秋の合同一般講演会が11月22日、各研究室と視聴者をオンラインでつないで開催されました。事前に申し込んだ人だけが視聴可能なYouTube中継(日本語、英語チャンネル)には、30日までのアーカイブ公開期間を含めて500人以上が訪れ、両機関を代表する二人の講演や対談(クロストーク)に耳を傾けました。
一般講演会は、研究成果を地元の方々に知ってもらおうと、宇宙線研究所の本部が柏キャンパスに移転した2000年ごろから毎年開かれ、Kavli IPMUが設立された後の2009年度からは合同一般講演会と名前を変え、春と秋の年2回、開かれてきました。2020年度は、春に予定されていた春の合同一般講演会が、COVID-19の感染拡大を受けて延期され、8月8日にオンラインで開催されています。
秋の合同一般講演会のテーマは「宇宙望遠鏡新時代」で、宇宙線研究所で重力波グループに所属する田越秀行教授が「重力波観測の最前線」、Kavli IPMUのジョン・シルバーマン准教授が「超大質量ブラックホールの総合的理解に向けて」と題し、それぞれ講演。二人のクロストークや質疑応答も行われました。
田越教授「時空のゆがみが波として伝わる現象が重力波」
田越教授は、重力波について「重力を時空のゆがみで説明するのがアインシュタインの一般相対性理論ですが、その時空のゆがみが波として伝わっていく現象のことを重力波と呼んでいます」と解説。そのうえで、「現在の検出器で観測できるような強い重力波を出すには、強い重力場と高速運動が必要です」とし、ブラックホールや中性子星の合体や、それらが関係する天体現象(超新星爆発、ガンマ線バースト)を例として挙げました。
さらに、2015年に実現した米国LIGOによる重力波の直接観測について、①人類が初めて重力波を検出した、②重力波が存在した、③地球にまでやって来た、④連星ブラックホールが存在した、⑤太陽質量の30倍規模のブラックホールが発見された、など多くの意義があるとし、最速でのノーベル物理学賞受賞(2017年10月)につながった理由を説明。また、2017年8月に米国LIGO-欧州Virgoのネットワークが捉えた連星中性子星の合体による重力波にも触れ、「LIGO2台とVirgo1台の計3台の観測で重力波の方向を絞り込むことができたため、世界中の光学望遠鏡でも天体を捉えることに成功し、中性子星を構成する超高密度物質の性質や、鉄より重い重元素合成の起源などに迫るなどの成果を挙げられました」と語りました。
2019年4月からおよそ1年間の国際共同観測(O3)で、50個以上の重力波イベントが報告され、その多くが連星ブラックホールの合体であることに言及。予想よりも重い連星ブラックホールが観測されていることについて、「大きな恒星が進化してブラックホール になった、小さいブラックホールが次々に合体して大きくなった、初期の密度ムラから発生した原始ブラックホールなどが推測されています」と説明しました。
KAGRA 2022年夏ごろから国際共同観測(O4)に参加へ
また、日本の大型低温重力波望遠鏡KAGRAの建設、運転、国際共同観測への参加までを振り返ったうえで、2022年夏ごろ、LIGO、Virgoとともに共同観測(O4)を開始する予定であることに触れ、「重力波望遠鏡は3台以上の観測で到来方向を絞ることができます。KAGRAの参画で3台以上の望遠鏡が常時動いている時間が増え、電磁波望遠鏡の観測対象となる天体発見の可能性が高くなります。さらに、比較的近くで超新星爆発などが起きれば、ニュートリノと重力波の同時観測の可能性もあり、超新星爆発のメカニズムの解明にもつながるでしょう」と述べました。
最後に、欧州宇宙機関(ESA)が2034年の打ち上げを計画している宇宙重力波望遠鏡(LISA)などの将来計画にも触れ、「これらが実現すれば重力波天文学のさらなる進展が期待されます」と結びました。
多くの質疑がサイトに寄せられ、一件ずつ丁寧に回答
講演者二人のクロストークを挟み、視聴者が専用サイトに寄せた質疑に回答。「重力波と量子論の関係はどのようになっていますか?」「ブラックフォールは物質ではない、というのはどのような意味でしょうか?」「重力波は減衰しますか?また、減衰する場合、原因は何ですか?」「重力波天文学または宇宙論を研究しようとするとき、日本外で研究を行った方がいいですか?それとも日本国内で行っても十分ですか?」など多くの質問が寄せられ、田越教授とシルバーマン准教授が一件ずつ丁寧に回答していました。