東京大学宇宙線研究所などが参加する国際共同研究チームは2019年1月、スペイン・ラパルマ島のチェレンコフ望遠鏡MAGICにより、最初の超高エネルギーガンマ線放射を伴うガンマ線バーストの検出に成功しました[1][2]。この事象は、このような高エネルギー天体から今まで得られた高エネルギーガンマ線放射の中で最も明るいものでしたが、さらに多くの成果を私たちにもたらしてくれています。MAGICに関わる研究者はこのほど、さらなる解析を進め、光の速度が真空中で一定であり、エネルギーに依存しないことを確認しました。これは、今回の観測データが、他の多くの検証と同じく、アインシュタインの一般相対性理論の正しさを裏付けていることを意味しています。
この成果は、米国の物理学専門誌Physical Review Lettersに発表されました[3]。
アインシュタインの一般相対性理論は、質量とエネルギーが時間空間とどのように相互作用するかを説明する美しい理論であり、一般に知られている重力と呼ばれる現象を引き起こします。 一般相対性理論はさまざまな物理的状況、およびさまざまなスケールで検証されており、光速が一定であると仮定すると、実験結果は常に矛盾なく説明できることがわかります。しかし、物理学者たちは、一般相対論が最も基本的な理論ではなく、量子重力理論と呼ばれる重力の基礎となる量子力学的な記述で説明できる可能性があると考えています。一部の量子重力理論では、光の速度はエネルギーに依存すると考えており、この仮想的な現象を「ローレンツ不変性の破れ」と呼んでいます。
量子重力理論による光の速度の変化はきわめて小さく、実験で検証するためには、非常に長い距離を伝搬する光を利用する必要があります。これは、天文学的な距離にあるガンマ線の信号を解析することで初めて可能となります。
ガンマ線バーストは強力で、遠く離れた宇宙で起こる爆発現象です。非常に変動しやすく、非常に強烈な信号を発します。よって、ガンマ線バーストは、量子重力理論を実験的に検証するのに十分な材料を提供してくれる可能性があります。より高いエネルギーの光子は、量子重力理論の効果をより大きく受けると予想され、これらは地球に到達する前に数十億年を旅し、その効果を高めます。ガンマ線バーストは、地球を周回する人工衛星により毎日検出されています。これらガンマ線衛星は、空の広い領域を観測していますが、MAGICのような地上の望遠鏡と比べ、観測エネルギーは低く止まっています。
2019年1月14日、MAGIC望遠鏡はテラ電子ボルト(TeV、可視光の1兆倍のエネルギー)に達する最も高いエネルギーの放射を、ガンマ線バーストから記録しました。MAGICの研究者たちは、この時の観測データを使用して量子重力理論が仮定する影響について調べました。しかし、MAGIC望遠鏡で記録された信号は、時間とともに単調に減衰していました。単調に変化する信号は、エネルギーに依存した光の速度の違いを測定するには不向きです。そこで、ガンマ線バースト源からのガンマ線放射の理論モデルを使用することにより、ローレンツ不変性の破れを推定しました。
そして、注意深い分析により、ガンマ線の到着時間にエネルギー依存の時間遅延がないことが明らかになりました。その結果、量子重力理論のエネルギースケールに強い制約を設定することができました。本研究により得られた限界は、フェルミ衛星など人工衛星のガンマ線望遠鏡によるガンマ線バーストの観測、または地上の望遠鏡からの活動銀河核の観測を使用して取得された最良の限界にほぼ匹敵しています。
近い将来、CTA大口径望遠鏡によるガンマ線バーストの観測により、より遠方で発生したガンマ線バーストの即時放射を測定できるようになる見込みで、今回よりもさらに優れた感度で、量子重力理論の効果を測定することができる可能性があります。
【連絡先】
東京大学・宇宙線研究所 教授
手嶋 政廣
mteshima_at_icrr.u-tokyo.ac.jp
東京大学・宇宙線研究所 准教授
野田 浩司
nodak_at_icrr.u-tokyo.ac.jp
京都大学・理学研究科 准教授
窪 秀利
kubo_at_cr.scphyst.kyoto-u.ac.jp
東京大学・宇宙線研究所 PR-Office
中村 牧生
m3nakamu_at_icrr.u-tokyo.ac.jp