【トピックス】観測的宇宙論グループの菅原さん(博士課程3年)、多摩六都科学館のサイエンスカフェで講演「宇宙の研究所で銀河の研究を始めました」

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 観測的宇宙論グループの菅原悠馬さん(博士課程3年)が登壇するサイエンスカフェ「宇宙の研究所で銀河の研究を始めました」が11月16日、西東京市の多摩六都科学館の学習室で開かれ、26人の市民が参加しました。

 多摩六都科学館でのサイエンスカフェは、同館と宇宙線研究所が2015年に締結した広報・啓発活動に関する相互協定に基づく共催イベントで、研究現場で得た知見を広く市民に提供し、科学文化の発展に寄与することなどを目的としており、1年に2回ほど開催されています。

多摩六都科学館のイベントホールで開かれたサイエンスカフェ

宇宙線研究所での大学院生活の5年を振り返る

 菅原さんは京都大学を卒業後、東京大学大学院理学系研究科に入学。柏キャンパスにある宇宙線研究所で、修士1年から博士3年までのおよそ5年間を過ごしてきましたが、講演ではまず、その5年間に宇宙線研究所や、宇宙・素粒子の世界で起きたニュースを振り返りました。

 2015 年の梶田隆章所長のノーベル賞受賞から始まり、2016年のLIGOによる初めての重力波の観測、2017年の中性子連星の合体の同時観測(重力波、ガンマ線、可視光など)、さらに2019年の超巨大ブラックホールの撮影成功など、大ニュースが毎年起きたことを話題にあげ、「この5年間に、天文学が、マルチメッセンジャー観測、そして世界中の研究機関が力を合わせて取り組む”大型化”の方向に転換しました。宇宙線研究所は今、宇宙からやってくるガンマ線、ニュートリノ、宇宙線など様々な観測を通して宇宙の謎に迫りつつあります」と語りました。

 また、自ら選んだ遠方銀河の研究について、観測の手法やメカニズムにまで踏み込んで、丁寧に説明。菅原さんは、地球から見える銀河の数が2000億個もあることに触れたうえで、参加者に「なぜ、海の底は見えないのに、130億年先の銀河のことがわかるのか」というクイズを問いかけ、光が直進する性質を持つため、宇宙に空気がないため、遠くの光でも遮るものがない場合には届く、「つまり、地球から見えるということです」という解答を披露。光には波長ごとの強度をグラフにするスペクトル分析という方法もあり、「その光が、存在、距離、形、素材、色、数、明るさなどの多くの情報を運んでくるので、”見える”というだけで、その天体について多くのことがわかります」と話しました。

サイエンスカフェに登壇した菅原さん

光のスペトクル、散乱の様子を実際に見る

 会場には、線香の煙を満たした集気ビンや、蛍光灯、白熱灯、LED電球、などの光を分光板(グレーチングシート)で観察する箱、さまざまな色のLED電球を分光板(グレーチングシート)で観察するコーナーが設置され、参加者たちは、光を出る仕組みやスペクトル、散乱の様子など光の性質について体験しながら学ぶ場面もありました。

蛍光灯(第二世代)、白熱灯(第三世代)、LED電球(第四世代)の光を個別に分光板で観察
白色LEDの光を分光板(グレーチングシート)を通して観察すると、スペクトルごとに分離、青色、緑色、赤色の3色を確認することができます
レーザーポインターの光線を当てると、線香の煙を満たした集気ビンの中だけに光の軌道が浮かび上がる様子が観察できます

銀河の銀河風 (アウトフロー)について研究

 さらに、菅原さんは、コンピュータによるシミュレーションで、初期の宇宙を再現してみたら、現実の宇宙よりも銀河が多くなってしまった(銀河天文学の大問題)という問題を解決するため、天文学者たちが「星を作り出す水素ガスが銀河自体から放出されている(銀河風/アウトフロー)」と推定していることに触れ、「そのアウトフローの速度を調べることを研究テーマとしました。しかし、アウトフローは光を出しておらず、見えません。そこで、銀河のスペクトルを分析し、アウトフローガスに吸収された物質の量を調べることにしました。つまり、影を使ってアウトフローの性質を調べるということです」と説明しました。

アウトフローを推定するために菅原さんが用いた手法 (スライドより)

 菅原さんが、13億年前から125億年前までの多くの銀河について、アウトフローガスによる吸収線のずれを調べたところ、「アウトフローの速度は昔になるほど大きかったことがわかり、論文にまとめました。今後は、アウトフローとは何なのか、銀河の進化にどんな影響を与えているのか、また、どれくらい吹き飛んでいるのか、アウトフローで銀河の数が本当に減っているのか、について調べつつ、銀河の進化について明らかにしていきたいと思います」と決意を語りました。

菅原さんの講演後、質問のために列を作る参加者

 講演後には多くの参加者が菅原さんの演台に集まり、銀河のアウトフローを予測するという菅原さんの研究などについて、多くの質問を寄せていました。