【プレスリリース】スーパーカミオカンデが超新星背景ニュートリノの兆候を捉える ― 宇宙の歴史に刻まれた「かすかなささやき」の手がかり ―

プレスリリース

東京大学宇宙線研究所
スーパーカミオカンデ国際共同研究グループ

研究のポイント
◆スーパーカミオカンデによる純水運転とガドリニウム導入運転で得られた約5000日分の観測データ解析により、超新星背景ニュートリノの兆候を世界で初めて捉えることに成功しました。
◆ガドリニウムの導入により、中性子捕獲による超新星ニュートリノ信号の同定精度が向上し、バックグラウンド除去の効率が大幅に改善され、解析ではバックグラウンドを精密に除去した後、統計的に有意な超過信号を確認しました。
◆この結果は、超新星背景ニュートリノの存在を実験的に示す初めての成果となり、宇宙の星形成の歴史や元素合成の理解を深める重要な手掛かりを掴んだと言えます。

 スーパーカミオカンデ(Super-Kamiokande)国際共同研究グループ*1は、純水運転期間(2008年~2020年のうち3349日)とガドリニウム*2導入期間(2020年~現在のうち1653日)を合わせた約5000日分の観測データの詳細解析により、超新星背景ニュートリノ(Diffuse Supernova Neutrino Background, DSNB)*3の兆候(2.6σ、99.5%信頼水準)を世界で初めて捉えました。超新星背景ニュートリノは、宇宙の歴史上すべての重力崩壊型超新星爆発*4に由来するニュートリノの総和であり、その直接検出はスーパーカミオカンデ計画開始時からの長年の目標でした。本成果は、宇宙の星形成の歴史や元素合成の理解を深める重要な手がかりをつかんだと言えます。

【研究の背景】
 重力崩壊型超新星爆発は、大質量星の進化の最終段階で起こる爆発現象であり、莫大なエネルギーをニュートリノとして放出します。この爆発は、ニュートリノに加え、星の内部で生成された元素を宇宙空間にばらまき、私たち自身や、身の回りに存在する炭素や酸素、シリコンや鉄などを生み出す源であると考えられています。
 初期宇宙から現在に至るまでの、すべての重力崩壊型超新星爆発から放出されたニュートリノが宇宙空間に蓄積したものが「超新星背景ニュートリノ」です。しかし、はるか遠方から飛来するニュートリノは拡散してしまい、その信号は非常に微弱であり、これまでは検出が困難でした。
 超新星背景ニュートリノを捉えることは、宇宙の元素合成史や星形成の歴史を定量的に解明し、理論モデルを検証する決定的な観測手段となります。この観測に挑むことは、まさに宇宙の歴史に刻まれた超新星爆発の「かすかなささやき」に耳を澄ますことにほかなりません。
 スーパーカミオカンデの前身であるカミオカンデでは、単一の超新星からのニュートリノ直接観測(SN 1987A)を成し遂げましたが、はるか遠方からの蓄積である超新星背景ニュートリノの検出は、スーパーカミオカンデにとっても長年の課題でした。

【観測手法と結果】
 スーパーカミオカンデは、岐阜県飛騨市神岡町の地下1000mに設置された5万トンの純水タンクと約13,000本の光電子増倍管を用いて、ニュートリノが水と相互作用した際に生じるチェレンコフ光を捉えます。
 本研究では、純水運転期間(2008年~2020年のうち3349日)とガドリニウム導入期間(2020年~現在のうち1653日)を合わせた合計約5000日分のデータを解析しました。ガドリニウム導入により、中性子捕獲による超新星ニュートリノ信号の同定精度が向上し、バックグラウンド除去の効率が大幅に改善されました。
 解析では、ニュートリノエネルギー13.381.3 MeVの領域において、バックグラウンド(主に大気ニュートリノ事象や宇宙線によって誘起される水中の酸素原子核の破砕事象)を精密に除去した後、統計的に有意な超過信号を確認しました。
 超過信号の有意性は 2.6σ99.5%信頼水準)であり、偶然の変動では説明できないものの、確定段階(以上)には達していないため、現時点では「兆候」と位置づけられます。推定されるフラックスは約3.6+1.6/1.5cm⁻²s⁻¹であり、いくつかの理論モデルの予測範囲(例えば Horiuchi+096 MeV モデルでは 2.13.9cm⁻²s⁻¹)と矛盾しません。

【今後の展開】
 今回の兆候検出は、超新星背景ニュートリノの存在を実験的に示す初めての成果です。ただし、現時点では2.6σの統計的有意性であり、確定的な検出にはさらなるデータの蓄積と解析の改善が必要です。今後もスーパーカミオカンデでの観測を継続するとともに、後継検出器であるハイパーカミオカンデとの連携により、さらなる感度向上も期待されます。
 また、本結果は、宇宙の星形成率や元素合成モデルに強い制約を与えると期待されます。特に、中性子星やブラックホールの形成過程や宇宙の化学進化の理解への貢献が見込まれています。

【研究者からのコメント】
 今回の結果について、スーパーカミオカンデ実験代表者の関谷洋之 東京大学宇宙線研究所准教授は、以下のようにコメントしています。「超新星背景ニュートリノの兆候を世界で初めて捉えたことは、スーパーカミオカンデ計画開始時からの悲願であり、大変意義深い成果です。ただし、現時点では2.6σの統計的有意性であり、確定的な検出には、さらなるデータ蓄積および解析の改善が不可欠です。今後もスーパーカミオカンデでの観測を継続し、確定的な検出へとつなげていく所存です。本結果が、宇宙の星形成史や元素合成、さらには中性子星・ブラックホールの形成過程の解明につながることを期待しています。」

【観測データと解析結果】

超新星背景ニュートリノイベントの候補となるチェレンコフ角度が42度に近い中性子数が1のイベントのエネルギー分布。赤い領域が観測された超新星背景ニュートリノの成分を示す。


観測結果の統計的解釈の図 本観測結果はフラックスが無いとすると99.5%の確率で否定される。またフラックスが3.6 cm⁻² s⁻¹で有った場合にもっともよく説明ができる。 

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【用語解説】
*1 スーパーカミオカンデ
スーパーカミオカンデは、1996年4月に観測を開始した世界最大の地下ニュートリノ観測装置です。岐阜県飛騨市神岡町の地下1000mに設置されており、ニュートリノの観測研究や陽子崩壊現象の探索などを行っています。スーパーカミオカンデ国際共同研究グループは、東京大学宇宙線研究所を実施責任機関とし、日本、アメリカ、韓国、中国、ポーランド、スペイン、カナダ、イギリス、イタリア、フランス、ベトナムの約60の大学や研究機関から約250名が参加する国際共同研究です。

*2 ガドリニウム
ガドリニウム(Gd)は原子番号64の元素であり、希土類元素(レアアース)の一種です。ガドリニウムは、全元素のなかで中性子を捕獲する能力が非常に高い元素です。そのため、スーパーカミオカンデの水に加えると、超新星爆発ニュートリノのうち、反電子ニュートリノが水と反応した時に生じる中性子をガドリニウムが捕獲して新たな信号が出るため、他のノイズ事象と区別できるようになります。2020年と2022年にスーパーカミオカンデの水にガドリニウムを加え、データ取得を続けていました。

ガドリニウムを加えることにより、反電子ニュートリノからの信号を区別して検出できるようになります。

 *3 超新星背景ニュートリノ(Diffuse Supernova Neutrino Background, DSNB
宇宙全体では、毎秒数回の頻度で超新星爆発が起きており、宇宙が生まれてから現在まで、超新星爆発から放出されたニュートリノは宇宙に拡散され、蓄積されることになります。そのニュートリノを「超新星背景ニュートリノ」と呼びます。

*4 重力崩壊型超新星爆発
太陽の約8倍以上の重い星が寿命の終わりに起こす大爆発です。核融合が止まると重力で中心が急激に潰れ、超高密度の中性子星やブラックホールが生まれます。その反動で外側の層が吹き飛び、宇宙に大量の物質とエネルギーを放出します。これにより重い元素も作られ、宇宙の進化に重要な役割を果たします。

 

関連リンク

神岡宇宙素粒子研究施設