東京大学
金沢大学
国立天文台
研究のポイント
◆巨大銀河団「MACS J0416」による重力レンズ効果を利用して、ジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡による酸素存在比が小さい銀河「LAP1-B」の超高感度観測に成功しました。
◆極小銀河「LAP1-B」の解析の結果、観測史上最少の酸素存在比を更新し、銀河全体が科学的に極めて原始的な段階にあることが示され、「LAP1-B」の酸素に比べ炭素が非常に高い特徴は、理論的に予想されている、「初代星」が爆発した時に生じる元素分布とよく一致します。
◆これは、宇宙最初の星「初代星」が元素を放出した直後の現場に迫る有力な証拠を得たものであり、生命の材料となる元素の蓄積と、銀河の誕生がどのように始まったのかを解き明かす画期的な発見です。

図1:巨大銀河団の「重力レンズ」が暴いた極小銀河LAP1-Bの素顔
(背景)JWSTの近赤外線カメラ(NIRCam)が捉えた巨大銀河団MACS J0416。
(拡大図)JWSTの近赤外線分光器(NIRSpec)のデータを基に作成した、LAP1-Bの「速度空間」3色合成画像。 この銀河は星の数が少なく極めて暗いため、背景のカメラ画像(NIRCam)ではその姿を確認できませんが、分光観測によって水素や酸素が放つ微弱な光(輝線)を捉えることに成功しました。拡大図の横軸はガスの運動(速度)、縦軸は空間的な広がりを示しており、異なる元素の分布を可視化しています(青:水素のLyα輝線、緑:酸素の[OIII]輝線、赤:水素のHα輝線)。Lyα輝線は、各元素の分布を見やすくするため、表示上で速度を200km/sオフセットさせています。© NASA, ESA, CSA & K. Nakajima et al., Nature
金沢大学の中島王彦准教授や東京大学宇宙線研究所の大内正己教授らの研究者からなる国際研究チームは、ジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(JWST)(※1)の強力な赤外線分光能力と、天然の虫眼鏡である「重力レンズ効果」(※2)を組み合わせることで、宇宙誕生から約8 億年後の時代にある、極めて暗く小さな銀河「LAP1-B」の超高感度観測に成功しました。解析の結果、星形成領域(星が生まれている現場のガス)に含まれる酸素の割合がこの銀河では太陽のわずか240 分の1 程度と極めて小さく、観測史上最少の酸素存在比(※3)を更新しました。これは、銀河全体が化学的に極めて原始的な段階にあることを示しています。さらに、その元素組成や暗黒物質(※4)に支配された質量構造を分析したところ、現代の天の川銀河の周辺にあり、長年謎に包まれていた「超低光度矮小銀河(Ultra-Faint Dwarf:UFD銀河)」(※5)の生まれて間もない頃の姿かもしれないことが分かりました。これまでUFD銀河は、宇宙初期に誕生した化石天体と考えられながらも、その形成現場を直接捉えた例はありませんでした。今回のLAP1-Bの発見は、UFD銀河誕生という長年の謎を解き明かす世界初の決定的な糸口となります。
本研究成果は、宇宙最初の星「初代星」(※6)が元素を放出した直後の現場に迫る有力な証拠を得たものであり、生命の材料となる元素の蓄積と、銀河の誕生がどのように始まったのかを解き明かす画期的なものです。
本研究成果は、2026年5月13日午後4時(英国時間)にイギリスの国際科学誌『Nature』のオンライン版に掲載され、翌14日発行の同誌(本誌)に掲載される予定です。
【研究の背景】
ビッグバン直後の宇宙には、水素とヘリウムといった軽い元素しか存在せず、生命の素となる酸素や炭素などの重い元素は、その後の星の誕生によって作られました。宇宙で最初に誕生した星「初代星」が、いつ、どのように元素を作り出し、宇宙に「元素の種」をまき、物質の多様性を生み出し始めたのかを探ることは、天文学における最も基本的な知的探求の一つです。初代星が作り出した元素の痕跡を直接とらえることができれば、現在の宇宙に見られる銀河や星、ひいては生命へとつながる物質進化の出発点を具体的に理解することができます。しかし、初期宇宙に存在する銀河はあまりに暗く小さいため、その元素組成を詳しく調べることは極めて困難でした。
【研究成果の概要】
本研究では、巨大銀河団「MACS J0416」による重力レンズ効果を利用することで、通常では観測が極めて困難な極小銀河「LAP1-B」を約100倍に増幅して捉えました(図1)。これにより、これまで詳細がほとんど分かっていなかった、宇宙誕生から約8 億年後に存在する極めて暗く小さな銀河「LAP1-B」の詳細な性質を明らかにしました。
NASAのジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(JWST)による30 時間を超える高感度な分光観測(※7)の結果、この銀河の酸素存在比は太陽の約240 分の1 と、これまで観測された銀河の中でも極端に少ない水準であることを突き止めました(図2)。
また、この銀河は酸素に比べて炭素の割合が極めて高いという特徴を示しました(図3)。この元素組成は、宇宙で最初に誕生した「初代星」の爆発によって生じると理論的に予測されてきた元素分布とよく一致します。本研究は、初代星が作り出した元素が、初めて銀河へ受け継がれる過程を観測的に捉えた可能性を示しています。
さらに、この銀河の質量を推定したところ、星の総質量は太陽の3,300倍以下と極めて小さく、天体の大部分が未知の「暗黒物質」で構成されていることも分かりました。これらの特徴は、現代の宇宙で「最も暗い銀河」として知られる「超低光度矮小銀河(UFD銀河)」とよく似ています。本研究成果は、初期宇宙の原始的な銀河がどのように進化して現在のUFD銀河に至るのか、その進化の仕組みを解明する重要な手がかりとなります。
本研究は、理論的にしか議論されてこなかった初代星の影響やUFD銀河の進化シナリオを、観測データから示した点に大きな特徴があります。
【今後の展開】
本研究成果により、宇宙誕生から8億年の時代に、極めて原始的な銀河が存在することが明らかになりました。元素組成と質量構造の両面から分析を行う本手法は、元素合成の最初期の現場や、宇宙の化石天体UFD銀河の形成プロセスを検証する新たなアプローチを切り拓くものです。今後は、さらに酸素存在比の低い天体の探査を進めるとともに、JWSTや次世代大型望遠鏡によるさらに高感度な分光観測を積み重ねることで、宇宙で最初に誕生した初代星そのものが光り輝き構成する「初代銀河」を同定することが期待されます。
【研究者からのコメント】
・研究チーム代表 金沢大学 中島王彦准教授:
「データに現れた圧倒的な酸素の欠乏を見たときは、思わず興奮しました。これほどピュアな状態の銀河が存在し、その姿をここまで克明に捉えられたことは、まさに驚きです。これまでの“宇宙考古学”では、現代に残る古い星から過去を推測してきましたが、今回は130 億年前の“当時の現場のガス”を直接分析できたことに大きな意義があります。これにより、初代星が作り出した元素が初めて銀河に受け継がれた、まさにその瞬間を実際に捉えた可能性があると考えています。こうした研究は、私たちの起源につながる元素が宇宙でどのように生まれ、蓄積してきたのかを理解するうえでも重要です。」
・国立天文台/東京大学 大内正己教授:
「超低光度矮小銀河(UFD銀河)は、最も暗い銀河であるだけでなく、120億年以上前に生まれた古い星からなる天体で、“宇宙の化石”とも呼ばれています。酸素などの重い元素をほとんど含まないことから、宇宙で最初に誕生した銀河の生き残りではないかと考えられてきましたが、その形成過程の多くは謎に包まれてきました。今回観測されたLAP1-Bは、これまで推測されてきたUFD銀河の祖先の姿と非常によく似ており、大きな驚きでした。この銀河を詳しく調べることで、UFD銀河がなぜ“宇宙の化石”として現在までその姿を保っているのか、その謎に迫ることができると期待しています。」

図2:銀河の星質量と酸素存在比の関係
銀河に含まれる星の総質量(横軸)と酸素の存在比(縦軸)の関係を示した図です。茶色の点はこれまでに発見された遠方銀河、破線は現代の宇宙にある近傍銀河の傾向を表しています。今回の対象天体「LAP1-B」(赤丸)は、他の銀河に比べて極めて星の質量が小さく、かつ酸素の割合が太陽の約240分の1と、星を産み出している銀河としては観測史上最少の値を記録しました。この圧倒的に低い酸素存在比は、この銀河が化学的な進化を遂げる前の、極めて原始的な段階にあることを示しています。© K. Nakajima et al., Nature

図3:酸素存在比と炭素と酸素の割合(C/O)の関係
銀河の酸素存在比(横軸)と、酸素に対する炭素の割合(縦軸)を比較した図です。今回発見したLAP1-B(赤丸)は、極めて低い酸素量を示しながらも、炭素の割合が高いという特徴を示しています。この化学組成は、宇宙最初の星「初代星」の爆発によって生じるとされる理論予想(紫色の領域)と非常によく一致しており、初代星が作り出した元素が初めて銀河に受け継がれた瞬間を捉えられた可能性を示唆しています。
背景の灰色(x)は天の川銀河の古い星、ひし形(◇)は宇宙空間の巨大ガス雲(DLA)のデータです。これらは以前から似た傾向を持つことが知られていましたが、130億年前という遠方の宇宙の、しかも活発に星を生み出している「銀河」においてこの特徴が確認されたのは、LAP1-Bが世界初の例となります。一方、より進化が進んだ「次世代の星々」による予想(オレンジ色の領域)からは大きく外れており、LAP1-Bの特異性が際立っています。©K. Nakajima et al., Nature
【掲載論文】
雑誌名:Nature
題 名:An Ultra-Faint, Chemically Primitive Galaxy Forming in the Reionization Era
(宇宙再電離時代に形成中の、化学的に原始的な超低光度矮小銀河)
著者名:*中島王彦(金沢大学)、大内正己(国立天文台/東京大学)、播金優一(東京大学)、Eros Vanzella(イタリア国立天体物理学研究所)、小野宜昭(東京大学)、磯部優樹(ケンブリッジ大学/早稲田大学)、西垣萌香(総合研究大学院大学/国立天文台)、辻本拓司 (国立天文台)、中村文隆(国立天文台/東京大学)、Yi Xu(東京大学)、梅田滉也(東京大学)、Yechi Zhang(カリフォルニア工科大学)
DOI:10.1038/s41586-026-10374-1
詳しくはこちら
【用語解説】
※1 ジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(JWST)
2021年に打ち上げられた、史上最大の赤外線宇宙望遠鏡のこと。
※2 重力レンズ効果
巨大な質量のそばを通る光が曲げられ、遠くの天体が拡大されて見える現象。
※3 酸素存在比
水素Hに対する酸素Oの個数比(O/H)。ここで水素は、宇宙誕生時から存在していた元素であるため、基準に使われる。
※4 暗黒物質
宇宙に存在する、光を発しない未知の物質。今回の銀河「LAP1-B」は、星やガスの質量に比べてダークマターの割合が圧倒的に高いことが判明しており、これが「超低光度矮小銀河」の祖先であると判断する重要な決め手となっている。
※5 超低光度矮小銀河(Ultra-Faint Dwarf:UFD銀河)
私たちの天の川銀河の周りなどに存在する、極めて星の数が少ない暗い銀河。宇宙初期の情報を保持していると考えられている。
※6 初代星
宇宙で最初に生まれた星。重い元素を全く含まない。宇宙の暗黒時代を終わらせ、宇宙の最初の元素合成を引き起こしたとされる極めて重要な天体。
※7 分光観測
天体からの光をプリズムのように波長(色)ごとに分解し、その強さを測定して「スペクトル」を得る手法。スペクトルを分析することで、その天体に含まれる元素の種類や量、地球からの距離、運動の様子などを詳しく調べることができる。