宇宙線研所属の大学院生バクスタージョシュア稜さん、森田開さん、鈴木幹基さんが日本物理学会第80回年次大会(2025年)の学生優秀発表賞を受賞

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 チェレンコフ宇宙ガンマ線グループに所属するジョシュア・バクスターさん(理学系研究科物理学専攻博士課程)と森田開さん(同修士課程)、重力波グループに所属する鈴木幹基さん(同)が、このたび 日本物理学会で学生優秀発表賞を受賞しました。

バクスターさんは「GeV-TeVガンマ線の宇宙論的伝搬を用いた銀河系外背景光への制限」と題する講演を行いました。銀河系外背景光(Extragalactic Background Light; EBL)は、宇宙が約138億年の歴史の中で生み出してきた全ての星や銀河、星間塵が放射した光を積み重ねたものであり、星形成史や銀河進化史の情報を内包することから「宇宙の光の化石」とも呼ばれる背景放射です。EBLの強度測定は容易ではありません。太陽系内の黄道光や星間塵による前景放射が強く、絶対測光には依然として大きな系統誤差が残ります。一方、相補的な手法である銀河計数法は前景の影響を受けにくいものの、観測で捉えられる銀河の数や明るさに限界があります。そのため、直接観測で推定されるEBL強度と銀河計数に基づく推定値の間には不一致が存在し、この差異が「銀河以外の拡散的な起源による光」や「暗黒物質崩壊など未知の寄与」を示唆するのか、あるいは直接観測側の系統誤差に由来するのかが長年の争点となっていました。

表彰状を持つバクスターさん

この問題に対し、バクスターさんは高エネルギーガンマ線が EBL と γγ吸収(Breit–Wheeler過程)を起こすという宇宙伝搬の物理過程に着目しました。ガンマ線は宇宙を進む間にEBL光子と相互作用して消失するため、観測されるスペクトルの減衰量を精密に解析することで、EBLの強度や赤方偏移進化を間接的に復元できます。今回の研究では、Fermi-LATの約15年にわたるGeV観測と、MAGIC・HESS・VERITAS・LST-1 の約20年分の TeV観測を統合し、1500を超えるブレーザーのガンマ線スペクトルを用いたこれまでにない大規模集団解析を実施しました。これにより、従来研究を大きく上回る統計的精度と赤方偏移分解能を達成し、宇宙年齢約15億年(z ≳ 4)に相当する時代まで EBLの進化を追跡できるレベルに到達しました。得られたEBL強度は、銀河計数による下限値や、探査機による低前景観測(例えば低黄道光環境での観測)と良好に一致しており、「EBL超過問題」が前景放射の絶対測光における系統誤差によって生じていた可能性を強く示唆しています。本成果は、EBL研究における長年の論争の解決に向けた重要な進展であり、ガンマ線天文学が宇宙背景光の独立かつ精密な制約手法として確立しつつあることを示しています。

バクスターさんは受賞に際して「このたびこのような賞を頂けたことを大変光栄に思います。銀河系外背景光(EBL)は、発見当初から長いあいだ「測ること自体が難しい」とされてきましたが、ガンマ線観測技術の進展と大規模データ解析の発展によって、もはや単なる上限・下限の議論ではなく、宇宙史を読み解くための精密な宇宙論的指標へと変わりつつあります。今回の研究が、その次のステージであるガンマ線宇宙論の幕開けの一助となれば何よりです。そして、まもなく始まるラパルマ島北サイトのCherenkov Telescope Array Observatoryの4台LSTによる観測が、この分野をどこまで押し広げてくれるのか、今から胸が高鳴っています。ガンマ線が描き出す新しい宇宙像を世界に示せるよう、これからも探究を続けていきたいと思います。」とコメントをしています。

同じくチェレンコフ宇宙ガンマ線グループに所属する森田開さんは「CTAO大口径望遠鏡向け光電子増倍管におけるアフターパルス減少の測定」と題する講演を行いました。

表彰状を持つ森田開さん

森田開さんは、受賞に際して「PMTを屋外で使用するCTAOのLSTにとってアフターパルスは大きな障害となります。そのアフターパルスについて、研究グループの皆様の丁寧なご指導のもと研究成果を出すことができました。今回この研究を発表賞という形で評価していただけたことを大変嬉しく思うと同時に、高エネルギーガンマ線天文学を含む観測分野において、検出器の基礎研究がいかに重要であるかを実感しました。修士1 年なので5連覇狙って研究頑張ります」とコメントしています。

重力波グループの鈴木幹基さんは「正規直交化された減衰振動モードを用いたブラックホールリングダウン重力波解析」と題する講演を行いました。

表彰状を持つ鈴木幹基さん

鈴木幹基さんは、受賞に際して「この度はこのような賞をいただき、大変光栄に思います。我々の研究について、多くの皆様に理解していただき、関心を持っていただけたことを大変嬉しく思います。また、ご指導いただいた方々に心から感謝申し上げます。今後もより良い研究成果を目指して努力してまいります」とコメントしています。

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学生優秀発表賞受賞者
チェレンコフ宇宙ガンマ線グループ
重力波グループ