【トピックス】XENONnT実験、暗黒物質探索に向けた前人未踏の純度を実現

トピックス

XENONコラボレーション
東京大学宇宙線研究所 (ICRR)
東京大学国際高等研究所カブリ数物連携宇宙研究機構(Kavli IPMU)
名古屋大学素粒子宇宙起源研究所 (KMI)
名古屋大学宇宙地球環境研究所 (ISEE)
神戸大学大学院理学研究科

液体キセノン中のラドンを太陽ニュートリノレベルまで低減

 東京大学宇宙線研究所、東京大学国際高等研究所カブリ数物連携宇宙研究機構(Kavli IPMU, WPI)、名古屋大学素粒子宇宙起源研究所(KMI)、名古屋大学宇宙地球環境研究所(ISEE)、神戸大学が参加する国際共同研究「XENONnT実験」は、イタリアのグランサッソ国立研究所(LNGS)の地下深部に設置された世界最大級の液体キセノン検出器を用い、宇宙の未知物質である暗黒物質の探索を進めています。XENONnTは、暗黒物質がキセノン原子核と稀に起こす相互作用の痕跡を測定することを目的とした検出器であり、厚い岩盤により宇宙線によるバックグラウンドを遮蔽し、約−95 ℃で液体状態を保った超高純度キセノンを標的に用いています。こうした測定には、極限まで放射性不純物を極限まで低減した極低放射能環境が不可欠となります。

 このたび XENON 共同研究グループは、放射性ラドンの濃度を従来にない水準まで低減し、極低放射能環境の実現において画期的な一歩を踏み出しました。ラドンは材料から絶え間なく“にじみ出る”性質を持つ厄介な放射性不純物であり、ごくわずかな量であっても偽の信号を生じさせ、暗黒物質由来の真の信号を覆い隠してしまう主因となってきました。新たに導入された検出器内部の液体キセノンを循環・精製する極低温蒸留システムにより、液体キセノン中のラドン濃度を1トンあたり約430原子まで抑え、そのバックグラウンドの寄与を太陽ニュートリノと同等の水準にまで低減することに成功しました。この達成は、暗黒物質など極稀事象に対する感度を飛躍的に高めるブレークスルーと言えます。また、この濃度は人体の自然放射能の約10億分の1にあたり、従来の実験環境を遥かに凌ぐ極めて低放射能な環境と言えます。

XENON検出器本体のすぐ横に配置されている、液体キセノンを精製する蒸留システム

「国際共同研究の力によって、長年の壁であったラドンをここまで低減できた。今回の技術革新は、素粒子物理の限界を押し広げ、暗黒物質の謎へ一歩近づくものだ」と、開発を主導したミュンスター大学のChristian Weinheimer教授は述べています。

世界最高水準のラドン濃度の達成とその詳細な評価は、米国物理学会誌 Physical Review Xに2025年9月30日付で掲載されました。

Original publication
Aprile E. et al. (2025): Radon Removal in XENONnT down to the Solar Neutrino Level, Phys. Rev. X 15, 031079 (2025)
DOI: https://doi.org/10.1103/zc1w-88p6

 XENONプロジェクトの詳細については、こちらのページをご覧ください。

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XENON実験東大グループのホームページ「XENONnTによる暗黒物質直接探索実験」