【この人】 観測的宇宙論グループ 大内正己教授〜初期宇宙の研究の傍ら、小学生向けの図鑑も監修〜

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 観測的宇宙論グループの大内正己教授は、国立天文台の教授とのクロスアポイントを務め、宇宙史初期を観測的に探る研究を行っています。多くの論文を執筆、プレスリリースを連発し、国内外の賞を獲得する一方で、20年前から小学生向けの図鑑に執筆や監修などにも興味を持ち、観測技術の発展により次々に明らかとなる宇宙の研究について、一般向けにわかりやすく説明する姿勢を貫いてきました。その根底には、子供時代に「宇宙への旅の入り口」として親しんできた図鑑への想いと、宇宙の謎に挑み続けてきた研究者としての情熱があるようです。そんな大内教授にお話を伺いました。

柏キャンパスで研究する大内教授

◇大内研究室ではどんな研究をしていますか。

 大内研究室は、宇宙史初期を観測的に探る研究を行っています。ビッグバン直後の高温ガスの宇宙が、どのようにして現在の銀河宇宙に進化したかを明らかにするのが目標です。私たちは、すばる望遠鏡やハッブル宇宙望遠鏡、ジェイムズ・ウェッブ望遠鏡さらにはALMA望遠鏡など世界最先端の望遠鏡を駆使した深宇宙探査を行い、誕生間もない天体を検出し、ビッグバン元素合成や初期の銀河、超巨大ブラックホール、大規模構造の形成、およびこれと密接に関連する宇宙再電離の物理過程を調べています。

◇この研究分野には、そもそもどんな課題があるのでしょうか。

 ビッグバンから始まった138億年の宇宙史の中で最初の約10億年(宇宙の誕生から赤方偏移6程度までの間)は、観測的にほとんど理解されておらず、宇宙史におけるミッシングピースとなっています。この時代は宇宙の黎明期に当たり、原始ガスから星や銀河が初めて誕生するといった未解明の天体物理現象が数多く存在しています。また、この頃に宇宙を満たす水素ガスが再電離されたと考えられていますが、再電離の時間進化はもとより、その原因が初代銀河による紫外線だけで説明できるかどうかも分かっていません。

 これらの問題は、宇宙最初の約10億年の時代の天体をはじめとした誕生後間もない天体を観測しない限り解決できないのでますが、見かけ上とても暗く、観測は困難を極めます。私たちは世界最先端の望遠鏡を駆使し、未だ人類が目にしたことのない宇宙に挑戦しています。

◇大内教授は、図鑑の執筆、監修にも長く関わってこられました。

 はい。小学生向けの図鑑は、2004年6月から刊行が始まった小学館の図鑑NEO「宇宙」で執筆に関わったのが最初で、それ以来、宇宙初期の研究と並んで重要なライフワークの一つとなっています。小学生だった私は図鑑が好きで、特に宇宙の図鑑は一番のお気に入りで、ぱらぱらとめくっては面白い画像を見つけ、そのページを読み、宇宙の姿を想像していました。図鑑はいわば、宇宙の旅への入り口でした。夜な夜な想像で宇宙を旅していた、小学生だった私が知りたかったことを、最新の技術や観測も合わせて、今を生きる子どもたち、そして大人を含めた皆さんに伝えられればと思い、取り組んできたとも言えます。

◇7月に発刊された「学研の図鑑LIVE宇宙 新版」では総監修を務め、大内教授が推薦した10人の執筆者が、最新の探査や観測の成果なども加え、全ての文章を書き起こしたと伺いました。この中には大内研究室の播金優一助教も含まれていますね。

 はい。Gakkenでは2023年6月に刊行された「学研の図鑑LIVE星と星座 新版」に続き、総監修を担当しました。LIVEというのは、Gakkenが制作したオリジナル動画が収録された図鑑シリーズで、「宇宙 新版」には「学研の図鑑LIVEムービー宇宙(約50分)」のDVDが添付されています。さらに、2014年に刊行された旧版にはなかった新章「系外惑星と宇宙生命」を加え、「宇宙人はいるのか?」という子どもたちの疑問に応えようとしているほか、近年の観測、探査技術の発展や宇宙の研究の進展を踏まえ、宇宙の成り立ちから太陽系の姿、宇宙望遠鏡が撮影した美しい恒星や銀河まで、最新の情報がたくさんのイラストや写真などで紹介しています。

 播金助教には、巻頭の宇宙の地図や宇宙カレンダーのほか、「銀河」の章を丸ごと執筆してもらいました。私たちのグループの研究でも取り上げられることの多い宇宙の大規模構造や重力レンズ効果、超巨大ブラックホールなどについて、子どもにもわかるやさしい言葉で解説しています。研究者が全ての文章を書き起こすというのも私の発案で、小学生から大人まで楽しめる図鑑に仕上がっていると思います。

7月に出版された学研の図鑑LIVE宇宙 新版」

◇宇宙を調べる研究者のページもあり、天文学者としての生き様なども語られています。

 はい。図鑑にはメッセージとして、私が子供だった頃や若い時に進路に悩んでいた頃のことも書かれています。当時は、天文学者になりたい人は多くて、数学や理科が大得意で、天文学者になりたい学生100人のうち3〜4人くらいしか、研究を専門にする天文学者にはなれませんでした。とても難しいので、私自身が天文学者になるのは無理だと思っていました。でも、私は一度きりの人生なので、トライしてみたい、ダメかも知れないけど、やれることをやろう、夢に1ミリでも近づこう、と思って勉強したり、多くの人から話を聞いたり、留学も含めて必要だと思うことを全てやりました。ハラハラすることもありましたが、気づいたら天文学者になっていました。

 人には得意、不得意があるので、『努力すれば必ずうまくいく』とは言えませんが、夢を持ってとことんやれば必ず道は開かれます。たとえ夢が叶わなくても、それまでの努力が全て無駄になることはないでしょう。大事なことは、自分が必要とされ、自分が打ち込める仕事を見つけることだと思います。図鑑を読む小学生の皆さんにもぜひ、そんな仕事に出会ってほしいと考えて、その思いを図鑑に書きましたので、読んで頂けたら嬉しいです。


プロフィール:
大内 正己 教授

東京大学大学院理学系研究科博士課程修了。理学博士。アメリカ宇宙望遠鏡科学研究所ハッブル・フェローなどを経て、現在、国立天文台教授と東京大学教授を兼任。研究テーマは、宇宙史初期、銀河形成、観測的宇宙論。2013 Extragalactic Tinsley Scholarに選ばれ、2014年の文部科学大臣表彰若手科学者賞を受賞しているほか、2018年に「ライマン・アルファ放射体を用いた初期宇宙の観測研究」で日本学術振興会賞、日本学士院学術奨励賞をダブル受賞した。著書・監修書に『宇宙』(小学館の図鑑NEO)と『宇宙』『星と星座』(学研の図鑑LIVE)、ナショナル ジオグラフィック日本版の連載記事に『 巨大望遠鏡で迫る、宇宙の果て』などがある。

関連リンク

・宇宙線研究所観測的宇宙論グループ
・ナショナル ジオグラフィック日本版の連載記事『 巨大望遠鏡で迫る、宇宙の果て』
学研の図鑑LIVE 宇宙 新版(GAKKENサイト)

GAKKENがが発刊した歴代の図鑑「宇宙」(1971年-2025年)と、2024年9月に幼児向けの図鑑「うちゅうのしくみ図鑑」