科学技術分野の2025年度文部科学大臣表彰が4月8日に発表され、チベット実験・ALPACA実験グループの瀧田正人前教授(4月1日から宇宙線研究所特任研究員・シニアフェロー)、大西宗博助教、川田和正准教授が、科学技術賞(研究部門)が受賞することになりました。
この表彰は、科学技術に関する研究開発、理解増進等において顕著な成果をおさめた研究者に贈られるもので、科学技術賞は、宇宙線研究所では2023年度の手嶋政廣名誉教授に続いての受賞となります。また、文部科学大臣表彰には若手科学者賞(40歳未満で顕著な成果を挙げた研究者が対象)もあり、宇宙線研究所からはこれまでに4人が受賞しています。

瀧田前教授らの文部科学大臣表彰・科学技術賞(研究部門)の受賞理由は、「最高エネルギーガンマ線天文学の開拓と銀河宇宙線起源の研究」です。宇宙線の発見から100年以上も謎とされている宇宙線の起源を探るには、宇宙空間の磁場で進行方向を変えることのない最高エネルギー(100兆電子ボルト以上)ガンマ線の観測が重要な鍵とされてきました。しかし、宇宙線を地上で観測する空気シャワーアレイでは、宇宙線とガンマ線の違いを見分けることが難しく、ガンマ線などの空気シャワーが放射するチェレンコフ光を捉えるチェレンコフ望遠鏡は、視野が狭く、闇夜など限られた時間帯しか観測できないため、最高エネルギーガンマ線の観測が困難などの問題点がありました。そこで瀧田前教授らは、チベット自治区に展開するチベット空気シャワーアレイの地下に、大面積(3,400平方㍍)の水チェレンコフ型ミューオン観測装置を追加設置し、空気シャワー中のミュー粒子数を高い精度で測定。ガンマ線が大気中で作る空気シャワー中にはミュー粒子数が極端に少ないことを利用し、ガンマ線の信号に対する原子核宇宙線のノイズを劇的に減らすことに成功しました。
瀧田前教授らは、これらの改良により、かに星雲から百兆電子ボルト以上のガンマ線の信号を世界で初めて検出し、新たなエネルギー窓の天文学を開拓。さらに、天の川に沿って広がった400兆電子ボルト以上のガンマ線を世界で初めて検出しました。宇宙線は星間物質との相互作用で、その宇宙線の約10%のエネルギーを持つガンマ線を放射すると推測されています。観測されたガンマ線のエネルギー分布を詳細に解析したところ、この広がったガンマ線が放射されるもとの宇宙線は数千兆電子ボルト以上のエネルギーを持つことがわかり、長年その存在が議論されてきた宇宙線の加速器天体ペバトロンが、私たちの住む銀河系内に存在する決定的な証拠を得ました。そのうえ、超新星残骸G106.3+2.7から百兆電子ボルトを超えるガンマ線を観測。このガンマ線の信号の方向には、宇宙線のターゲットとなる豊富な星間物質が付随しており、G106.3+2.7は宇宙線の起源天体ペバトロンの有力な候補であることが明らかになりました。

全体の取りまとめ役を果たした瀧田前教授は、今回の受賞について「このたびは栄えある賞を頂き、身に余る光栄と大変恐縮しております。この賞はこれまでの35年に及ぶチベットASγ実験グループの研究が評価された結果であり、チベットASγ実験に携わってきたメンバー全員が受賞したものであると受け止めております。」と喜びの言葉を述べました。
また、実験データ取得の責任者だった大西助教は「このたびは、このような栄誉ある賞を賜り、誠に光栄に存じます。本受賞は、的確な実験計画の立案、過酷な環境下での装置の建設・運転、そして解析・考察に携わったすべての方々の尽力が評価されたものと受け止めております。私自身、今後一層精進してまいる所存です」と抱負を語りました。
さらに、データ解析の責任者だった川田准教授は「この度は、このような栄誉ある賞をいただき大変光栄に思います。チベットASγ実験共同研究者の皆様、研究活動を支えてくださった研究所スタッフの皆様、これまでご指導くださった先生方に感謝申し上げます。今後は本実験の成果をさらに発展させ、次世代につなげていけるよう精一杯努めて参ります」とコメントしました。
関連リンク
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【東京大学プレスリリース(2021.4.2)】60年来の謎解明へ、宇宙線の起源「ペバトロン」の決定的証拠つかむ!〜天の川から史上最高エネルギーのガンマ線放射を観測〜