女子学生イベント「やっぱり物理が好き!」に株式会社ニコンの岩村由樹さんが出演

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 物理学に興味を持つ女子学生のためのイベント「やっぱり物理が好き! 〜物理に進んだ女子学生・院生のキャリア〜」が11月23日、東京大学柏キャンパスで開催され、約30人の学生が参加しました。

 本イベントは、物理学を専攻する女子の学生・大学院生の割合が、日本では特に低いことから、これから物理を学ぼうという女子学生や、物理分野に進学した学部生・大学院生を支援する目的で、東京大学柏キャンパスのカブリ数物連携宇宙研究機構(Kavli IPMU)、物性研究所、宇宙線研究所が合同で企画しているものです。9回目の今回は5年ぶりにメーン会場をKavli IPMUとするオンサイトの開催となり、物理学科の出身で大学などの研究機関や民間企業で活躍する先輩4人を招いて講演してもらい、各研究所の見学、交流会などを行いました。

 宇宙線研究所の推薦で講演をお願いした先輩は、かつて宇宙線研究所のチェレンコフ宇宙ガンマ線グループに所属し、現在は株式会社ニコンで、新規事業開発を担当している岩村由樹さんです。また、チベット実験・ALPACA実験グループに所属する川島輝能さん(博士課程2年)もTAとして参加し、交流会で参加者からのさまざまな質問に答えました。

Kavli IPMUの大講義室で講演するニコンの岩村由樹さ

 岩村さんは「将来設計が思い描けずにきた私なりの進路の選び方」と題して講演。自らの生い立ちから、宇宙線研究所での研究生活、自分の価値観に合う仕事を求めた就職活動、ニコンにおける映像やメタバースに関わる新規事業開発を振り返りました。

 神奈川県出身の岩村さんは、茶道やペンシルパズルが好きな物静かな性格で、高校時代までは将来の夢を聞かれると困るタイプだったといいます。物理を選んだきっかけは、高校3年生の時に友人の影響で宇宙に興味を持ったためといい、「宇宙を知るには物理が必要」と大学の物理学科を目指して勉強し、東京大学(理科一類)に合格。大学に入ってからは周囲の学生の優秀さに戸惑いながらも、そのまま物理学科、理学系研究科物理学専攻に進学し、「漠然とこのまま続ける気がしていました」と岩村さん。

 大学院時代は、修士課程から博士課程まで宇宙線研究所のチェレンコフ宇宙ガンマ線グループに所属し、スペイン・カナリア諸島のラパルマ島にあるチェレンコフ宇宙望遠鏡MAGICやCTAOの大口径望遠鏡(LST-1)近くにある観測小屋でシフトに就いたり、指導教官がディレクターを兼任していたドイツのマックスプランク物理学研究所に長期出張して研究に打ち込むなど、研究グループの仲間と楽しく過ごしました。宇宙からやってくる電磁波には、電波、赤外線、可視光、X線、ガンマ線など数多くの種類がありますが、その中でもエネルギーの大きなガンマ線は、「超新星爆発の残骸や活動銀河核、パルサーの観測や、ダークマターの探索にも使え、高エネルギーな天体現象の仕組みや基礎物理学の謎を調べることができます」と岩村さん。自身はチェレンコフ望遠鏡を用いて、広がった天体の観測・解析手法開発とその適用などの研究に熱中していたといいます。

 しかし、博士課程に進学してからは、「自分の価値観に合う仕事は、もっと直接的に誰かの役に立つことではないか」と悩み始め、COVID-19の影響で実験データが不足する問題も追い打ちとなり、単位取得退学してニコンへ就職しました。就職活動のイベントに参加し、実験装置などでも触れていた精密機器や半導体に興味を持ち、入社を決めましたが、最初の職場は半導体とは直接関係の薄い映像関連の部署でした。「企業にもよりますが、会社の都合に合う範囲で、なるべく意見を聞いて調整してもらえる雰囲気でした。入社前の配属面談で『カメラにも興味があります』などとざっくばらんに話していたら、映像関連の部署に配属されました」。

 現在取り組んでいるのは、3Dを駆使した最先端の映像技術に関する開発や、映像技術を活用した新規事業開発です。例えばメタバースの中でアバターに着せる洋服を作るため、実物の服からAIや画像処理の技術を活用して3Dモデル化するデータ処理のアルゴリズム開発などに挑戦しています。岩村さんは「新しい技術を開発し、ビジネス的な検討をする部署なので、日々学ぶことの連続です。大枠で何をするかの部分は必ずしも希望通りにならない場合もありますが、研究をしていた頃に比べると生活にリズムがあり、ワークライフバランスも保ちやすいと感じています。社風がかなり自分に合っていたため、過ごしやすいです」と現在の心境を語りました。

多くの女子学生が集まったKavli IPMUの大講義室

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