チェレンコフ宇宙ガンマ線グループの阿部正太郎さん(博士課程3年)、スーパーカミオカンデグループの三木信太郎さん(同3年)と、高エネルギー天体グループの草深陽さん(同2年)、暗黒物質直接探索グループの神長香乃さん(同1年)の4人が、2024年9月に北海道大学で行われた日本物理学会2024年年次大会で、学生優秀発表賞を受賞し、表彰されました。
チェレンコフ宇宙ガンマ線グループの阿部さんは「CTA報告228:CTA-LST-1による天の川銀河中心領域の拡散ガンマ線放射に関する観測的研究 (2)」と題して発表しました。阿部さんは、次世代ガンマ線天文台Cherenkov Telescope Arrayに向けた大口径望遠鏡初号機(LST-1)により、天の川銀河中心領域からの超高エネルギーガンマ線の観測に挑戦。大天頂角観測法と呼ばれる観測技術や、点源ではなく視野全体に広がったガンマ線放射を取り出すためのデータ解析技術を開発し、世界で最も広視野・高感度な超高エネルギーガンマ線観測の一つを実現することに成功しました。さらに、これを用いて銀河中心領域を観測・解析したところ、超大質量ブラックホール「いて座A*」周辺での拡散ガンマ線放射が、これまで有力とされていたものとは異なるエネルギー分布を持つことを示唆する結果を得ました。阿部さんは「この度は優秀発表賞をいただけましたこと大変光栄に思います。この受賞は研究グループをはじめとする皆さんの素晴らしい指導・研究環境のおかげです。心より感謝申し上げます。同時にCTAやLST-1によるガンマ線天文学への貢献に対する皆さまの期待感の表れとも感じており、身が引き締まる思いです。今後もこのような責任ある仕事に誇りを持ちながら、興味深い研究成果を発表できるよう努めてまいります」と語りました。
スーパーカミオカンデグループの三木さんは「SK-Gdでの中性子検出を用いた大気ニュートリノ振動解析」と題して発表しました。SK-Gdとは、スーパーカミオカンデで2020年から開始された新たな取り組みで、検出器内の水にガドリニウムを溶解させて中性子検出効率を上げることで、過去の超新星爆発によって出され、宇宙空間に漂うとされる超新星背景ニュートリノを捉えることなどを目的としています。三木さんは、ガドリニウムによる中性子検出効率の向上が、大気ニュートリノ振動の解析に及ぼす効果について調べた結果について考察。具体的には、ニュートリノ・反ニュートリノ識別能や、中性子検出位置から中性子運動量を見積もることによる方向・エネルギー分解能の向上が、質量階層やニュートリノ振動パラメータの測定感度に及ぼす効果について発表しました。三木さんは「修士課程の頃から4年間ほどかけて取り組んできた研究のまとめとなるような発表だったので、このような形で評価していただくことができ大変嬉しく思います。私の大学院入学とほぼ同時に始まったSK-Gd実験の性能を、より高める研究ができたのかと思うと感慨深いです。共に研究を進めご指導いただいた周りの方々に心より感謝いたします」と語りました。
高エネルギー天体グループの草深さんは「ジェットの磁場と厚みを考慮したガンマ線バースト残光放射の準解析的モデル」と題して発表しました。2022年にガンマ線観測衛星Swiftにより観測されたGRB221009Aは、異常に明るく長時間観測されたガンマ線バーストで、「Brightest of All Time(史上最も明るい)」の頭文字を取り、BOAT GRB221009Aとも呼ばれています。草深さんはこのガンマ線バーストが生み出した相対論的ジェットについて、磁場のエネルギーが99%以上を占める”磁場ジェット(Magnetic Bullet)”の数値シミュレーションを行ない、その結果をもとに新たな準解析的モデルを構築しました。その結果、GRB221009Aについて中国の観測装置LHAASOが10時間以上にわたって観測したガンマ線の光度曲線をほぼ再現することに成功したといいます。草深さんは、「数値シミュレーションコードは、当時自力で全て開発する必要がありましたが、研究室の先輩方の協力もあってなんとか成果を上げることが叶いました。私は当初モデリングにあまり関心がなかったのですが、他大学の同期のアドバイスを受けて取り組んでみたところ、想像を超える重要な研究成果につながりました。改めて、他者と協力することの重要性を認識いたしました。残された時間の中、友人らと共に可能な限り多くの天体現象の謎を数値シミュレーションによって明らかにしたいと考えております」と話しています。
暗黒物質直接探索グループの神長香乃さんは「XENONnT実験における85Krのバックグラウンド評価(3)」と題して発表しました。キセノン(Xe)を用いた大型暗黒物質探索実験XENONnTでは、暗黒物質や太陽ppニュートリノの信号などの稀事象を探索しており、精度の良い背景事象推定が必要です。Xeに含まれるクリプトンの放射性同位体85Krはこれらの探索における背景事象源の一つです。より正確な存在量測定のため85Krの稀崩壊事象を計数する存在量推定を導入した結果、Science run 0の85Kr稀崩壊事象数は0との結果(preliminary)を得たといい、この測定方法及び結果について報告しました。神長さんは「XENONnT実験は暗黒物質の探索を世界的にリードしている実験です。神岡で行われていたXMASS実験の技術によって高い探索感度を実現しており、本研究はその一つであるKr蒸留による背景事象低減の効果を最大限に生かすため取り組んだものでした。今回このような賞をいただくことができたのは気にかけてくださる方々に恵まれた研究環境のおかげです。ご指導いただいた全ての方に心から感謝申し上げます」と語りました。