スーパーカミオカンデ実験グループのHan Seunghoさん(京都大学研究員) 第26回(2024年度)の高エネルギー物理学奨励賞を受賞

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 大学院生時代に宇宙線研究所のスーパーカミオカンデ実験グループに所属していたHan Seunghoさん(学位授与機関 : 東京大学, 現所属 : 京都大学)がこのほど、高エネルギー物理学研究者会議による第26回高エネルギー物理学奨励賞を受賞したことがわかりました。

2024年度の高エネルギー物理学奨励賞を受賞したHan Seunghoさん

 高エネルギー物理学奨励賞は、高エネルギー物理学を専門とする全国の研究者たちが組織する同会議が年一回、同分野の博士論文を対象に審査し、インパクト・学術的価値の高い著者に贈るものです。対象となったHanさんの博士論文は、“Measurement of neutrons produced in atmospheric neutrino interactions at Super-Kamiokande” (スーパーカミオカンデに於ける大気ニュートリノ反応に伴う中性子の測定)です。

 岐阜県飛騨市神岡町にある大型水チェレンコフ検出器、スーパーカミオカンデでは、2020 年から中性子を捕獲する能力がダントツに高いガドリニウムを水に導入し、過去に起きた超新星爆発によるニュートリノである「超新星背景ニュートリノ」の検出感度が大きく向上しました。また、中性子情報を活用することで、大気ニュートリノ事象の再構成において未解明のニュートリノ性質の解明や、陽子崩壊・暗黒物質探索における背景事象の除去も期待されています。しかし、中性子生成の予測精度には課題があり、ニュートリノと原子核の反応で中性子がどれほど生成されるかについての測定は不十分でした。これに対し、Hanさんは修士・博士課程で奥村公宏准教授の指導のもと、大気ニュートリノ事象に伴う中性子の測定に取り組み、純水期とガドリニウム水期の両方で安定して使用できる検出アルゴリズムと機械学習モデルを整備し、様々な解析に対応可能なソフトウェアを開発しました。また、中性子線源を用いた較正で系統誤差を見積もり、較正結果の信頼性を高めました。この結果、従来の核子散乱モデルは測定結果に適合せず、量子的相関を考慮したモデルの方が適していることを示しました。高エネルギー物理学研究者会議の奨励賞選考委員会は「素粒子物理だけでなく、宇宙線物理、原子核物理といった広範囲の知見も必要となる高度な研究で、今後のスーパーカミオカンデの物理解析にとって極めて重要性の高い研究である」と高く評価したと公表しています。

 Hanさんは「博士論文を評価していただき、光栄に思います。本論文の完成にあたってご支援くださった宇宙線研究所の先生方、スーパーカミオカンデのコラボレータの皆様に心から感謝いたします。ニュートリノと原子核反応の正確なモデリングは、ニュートリノの性質解明や稀現象の探索において極めて重要ですが、測定では予測と一致しないことも多々ありました。スーパーカミオカンデの中性子検出能力を活かし、予測改善の可能性について議論できたことを嬉しく思います。卒業後も、この分野の研究を引き続き進めています。7年前のスプリングスクール以来、宇宙線研究所での充実した環境や、私を支えてくださった職員の皆様との出会いに心から感謝しています」とコメントを寄せました。

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