チベット実験・ALPACA実験グループの加藤勢さん 日本物理学会若手奨励賞(宇宙線・宇宙物理領域)を受賞

トピックス

 チベット実験・ALPACA実験グループに所属している宇宙線研究所の特任研究員(ICRRフェロー)、加藤勢さん(現パリ天体物理学研究所)がこのほど、第19回日本物理学会若手奨励賞(宇宙線・宇宙物理領域)を受賞しました。

日本物理学会若手奨励賞(宇宙線・宇宙物理領域)を受賞した加藤勢さん

 将来の物理学をになう優秀な若手研究者の研究を奨励し、日本物理学会をより活性化するために各領域ごとに毎年懸賞するもので、加藤さんの受賞対象研究テーマは「超高エネルギーガンマ線観測による銀河宇宙線加速天体の探索」です。

 2018年から2020年までの修士課程における加藤さんのテーマは、南半球ボリビアのALPACA実験でした。チベット実験と同様の宇宙線の空気シャワー実験を南半球でも実現するため、宇宙線研究所などがボリビアのチャカルタヤ山に設置したばかりの小型アレイALPAQUITAに関するモンテカルロシミュレーションを行い、設計の最適化と性能評価を実施しました。加藤さんはALPAQUITAの性能を丁寧に調べ上げ、修士論文で最適な設計を確定。ALPAQUITAによる 1年間の観測でも、複数の重要な天体からsub-PeVガンマ線を検出できることを示し、英国天文学誌Experimental Astronomyに発表しました。さらに、2020年から2023年までとCOVID-19の時期とちょうど重なった博士課程では、チベット実験のデータ解析に専念。HESS J1843-033というガンマ線天体に着目し、データ解析と先行研究を加味した考察を行った結果、近くの超新星残骸G28.6-0.1で加速された宇宙線が、周辺の分子雲と衝突し、ガンマ線を生じている可能性を提唱。この超新星残骸による宇宙線の最大加速エネルギーを0.5PeVと見積もり、過去にペバトロンだった可能性も指摘。さらに、HESS J1849−000というパルサー星雲の観測でも、PeV領域まで加速された宇宙線が周囲の分子雲と衝突して320TeVまでのガンマ線を放出している可能性を指摘し、いずれの結果も米国天文学誌Astrophysical Journalに投稿・掲載しています。

 2024年春からは宇宙線研究所の特任研究員(ICRRフェロー)となり、sub-PeV (100TeV以上) のガンマ線観測によるPeV宇宙線加速天体の探索を続けていました。

 加藤さんは「今回はこのような賞をいただけて大変光栄に思います。ガンマ線観測によるペバトロン探索は、北半球にある私たちのチベット実験がその扉が開いてから5年ほどの歴史しかない新しい分野ですが、最近は急速に発展しています。私たちが推進するもう一つのプロジェクト:ALPACA実験計画は、前人未到の南天のペバトロン探索に早くから着目し、2025年度には世界初の観測を開始させる予定です。南天はペバトロンの宝庫だと考えられていて、たくさんの天体を研究するために若い方々の参加が強く求められています。今回の受賞で、この分野に参加する若い方々が増えることにつながれば非常に嬉しいです。ぜひ一緒に研究しましょう!最後に、今回の受賞は私の指導教員である瀧田正人先生を初め、多くの先生方や活発な学生さん・ポスドクの方々に支えられてきた結果であり、彼らとの交流やサポートがなければ、なし得なかったことです。彼らに感謝するとともに、私も分野の発展に少しでも貢献できるよう、慢心せずに今後も一所懸命頑張ってゆこうと思います。」とのコメントを寄せています。

宇宙線・宇宙物理領域の若手奨励賞のサイトはこちらから。