宇宙線研究所はこのほど、⾼⼭における⽇本の宇宙線共同研究の発祥の場である通称「朝⽇の⼩屋」址碑を、研究所附属乗鞍観測所に隣接する乗鞍岳堂ケ原の跡地に建立しました。
「朝⽇の⼩屋」は1950年、各大学が共同で応募した朝日新聞の朝日科学奨励金を受け、乗鞍岳室堂ケ原(標⾼2,770 メートル)に建設された木造平屋建て15坪の小屋です。中には宇宙線の観測機器が設置され、隣接した場所に設置された東京大学宇宙線観測所(後に宇宙線研究所附属乗鞍観測所)とともに、その分室として2018 年まで68年間にわたり、わが国の宇宙線研究の発展に尽くしたことで知られています。朝⽇の⼩屋はその後、⽼朽化により倒壊の危険が⽣じたため、2018年に解体・撤去されました。
址碑の建立にあたり、宇宙線研究所の荻尾彰一所長は「『朝日の小屋』に始まる乗鞍観測所が、これらの日本の宇宙線研究の発展や現在の宇宙線研究所の基礎を作り、今日まで活動を続けて来られたのは、朝日新聞社からのご支援をはじめ、文部科学省・東京大学他の関係各所・各社の御支援、岐阜県・長野県の地元の皆様の御理解、また、もちろん全国の宇宙線研究者の皆様の御活躍と御協力のお陰です。この機会にあらためて、深く御礼申し上げます」とコメント(全文はこちらに掲載)。朝日新聞社からは「このたびは東京大学宇宙線研究所付属乗鞍観測所の通称『朝日の小屋』の跡地に立派な記念碑を建立していただき、心から感謝を申し上げます。この記念碑は、伝統ある日本の宇宙線研究を支えてきた乗鞍観測所の歴史と、その黎明期から関わらせていただいた朝日新聞社の役割を後世に伝えるものであり、私たちにとってたいへんな誇りであるとともに、一報道機関としても身に余る栄誉であります」(下段に全文を掲載)とする角田克・代表取締役社長の祝辞が寄せられました。
「朝⽇の⼩屋」址碑は宇宙線研究所が建立。幅180センチ、⾼さ110センチ、奥⾏き100センチの地元産⼭辺⽯(安⼭岩:重さ2.5トン)で造られ、「朝⽇の⼩屋址 ⾼⼭における⽇本の宇宙線共同研究発祥の地」というタイトルと、解説文がインド産⿊御影⽯(堆積岩)の⽂字板に刻印され、埋め込まれています。
朝日新聞社からの祝辞の全文は以下の通り
乗鞍観測所「朝日の小屋」記念碑の建立に際しまして
このたびは東京大学宇宙線研究所付属乗鞍観測所の通称「朝日の小屋」の跡地に立派な記念碑を建立していただき、心から感謝を申し上げます。
この記念碑は、伝統ある日本の宇宙線研究を支えてきた乗鞍観測所の歴史と、その黎明期から関わらせていただいた朝日新聞社の役割を後世に伝えるものであり、私たちにとってたいへんな誇りであるとともに、一報道機関としても身に余る栄誉であります。
乗鞍観測所のルーツは、1950年に「朝日科学奨励金」を受けて建てられた「朝日の小屋」にさかのぼります。木造平屋建ての小さな小屋でしたが、隣接地に本格的な観測所が建設された後も長年にわたって愛用され、世界に誇る日本の素粒子物理学の発展に寄与して参りました。一連の研究からは、二つのノーベル物理学賞を含む数々の優れた発見が生まれました。つい最近も、宇宙線研究所を中心とする国際共同研究グループが、桁違いに高いエネルギーをもつ謎の宇宙線「アマテラス粒子」の正体に迫る論文を発表するなど、世界が注目する研究を続けています。「朝日の小屋」で始まった研究が日本の宇宙線研究に飛躍をもたらし、科学史に刻まれる数々の業績につながったのだとしたら、これ以上の喜びはありません。
朝日新聞文化財団が自然科学や人文分野の傑出した業績に贈らせていただいている朝日賞では、1987年度に小柴昌俊博士らによるカミオカンデでの超新星ニュートリノの検出や、1998年度には戸塚洋二博士らによるスーパーカミオカンデでのニュートリノに質量があることの発見に対し、それぞれ賞を贈らせていただきました。梶田隆章博士には2017年度から同賞の選考委員も務めていただいております。
朝日新聞社は2029年に創刊150年を迎えます。社会のさまざまなステークホルダーとこれまで以上に協力・連携し、つながりを深めることで、メディア企業としての責任を果たしていく所存です。70年以上前から続く「朝日の小屋」のご縁を今後も大切にし、さらに次の時代へとつなげていきたいと考えております。
最後になりますが、記念碑の建設に尽力された乗鞍観測所や宇宙線研究所の皆さま、およびご協力いただいた皆さまに厚く御礼を申し上げ、ご挨拶とさせていただきます。
2024年8月
朝日新聞代表取締役社長 角田克