観測的宇宙論グループの播金優一助教が、 2023年度日本天文学会研究奨励賞を受賞

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 観測的宇宙論グループの播金優一助教が、2023年度の第35回日本天文学会の研究奨励賞を受賞し、3月12日、東京大学本郷キャンパスの小柴ホールで表彰式と受賞記念講演が行われました。受賞理由となった研究テーマは、「高赤方偏移観測限界における先駆的な銀河形成研究(Pioneering studies of galaxy formation at the observational redshift limit)」です。

日本天文学会で研究奨励賞の賞状と記念のメダルを授与された播金助教

 同賞は、最近おおよそ5年間における天文学への寄与が顕著な、博士学位取得後8年以内の若手研究者を対象に毎年3名以内に授与されるもので、宇宙線研究所の関係者の受賞は播金助教が3人目となります。

 播金助教は2014年4月から理学系研究科物理学専攻の大学院生として宇宙線研究所の観測的宇宙論グループに所属し、2019年3月に博士号を取得。日本学術振興会の特別研究員PD(国立天文台、ロンドン大学)及びロンドン大学Honorary Research Associateを経て、2020年6月に宇宙線研究所助教に就任しました。その間現在まで一貫して遠方銀河の観測的研究に専念し、すばる望遠鏡の大規模観測データの解析を主導しながら、これまで詳しく調べられていなかった100億-130億年前の宇宙において400万個からなる世界最大の遠方銀河サンプルを構築しました。さらに20年来の謎であった宇宙星形成史の物理的な起源に迫る考察を提示し、当時の最遠方記録である130 億年前の原始銀河団を分光同定してプレスリリースを行うなど複数の重要な発見をしながら、遠方銀河観測の分野をリードしてきました。2022年7月に、ジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(JWST)の観測データが公開されると、さまざまな初期プログラムの観測で得られた近赤外線撮像データをもとに、赤方偏移9から16の銀河候補23個のサンプルから紫外線光度関数を導き、紫外線で明るい銀河の個数密度が高く、現在の銀河形成の理論モデルでは説明が難しいと報告。また、星形成率密度(SFRD)の進化のデータを比較し、赤方偏移10を超える宇宙では、それより低赤方偏移の宇宙よりも高効率な星形成が行われていたか、金属量の低い始原ガスでの星形成に伴うと予想される高光度の紫外線が観測された可能性を指摘しました。赤方偏移10以上の銀河候補については同時期に多数の研究者から論文が出版されていますが、その中では最も信頼性の高いサンプルを構築したと国際的にも認知されて多くの引用が行われており、JWSTのデータを用いて2023年12月現在までに発表されているおよそ3000本の論文の中で、引用数の最上位に位置しています。

 播金助教のこれらの研究は国際的にも高く評価され、2023年だけで国際研究会での招待講演が8件に上っています。

 日本天文学会が研究奨励賞の受賞理由を掲載したサイトにも、「播金氏は、大型観測施設で得られたデータを駆使して、高赤方偏移にある銀河を波長によらず系統的に探査し、理論モデルとの比較を通じて、宇宙初期の構造形成にともなって進む銀河形成の描像を観測と理論の両方から明らかにすることに 大きく貢献している」とし、その成果を高く評価。さらに、次世代赤外線衛星計画であるRoman衛星やGREX-PLUS衛星の計画、高エネルギー分野を中心とするHiZ-GUNDAM計画における主導的役割を果たしていることにも言及し、「高赤方偏移宇宙の探査の観点から様々な分野の将来計画を主導する立場となっており、幅広いコミュニティへの貢献も高く評価される」と、幅広い活躍を讃えています。

 播金助教は今回の受賞について、「今回このような賞をいただくことができ非常に光栄です。推薦いただいた先生、共同研究者の皆様と、我々の研究を常にサポートしてくださる宇宙線研究所の皆様に感謝申し上げます。宇宙線研究所に10年前に大学院生としてきた当初は、自分がこのような世界最先端の研究をリードできるとは夢にも思っていませんでした。評価される研究成果を創出できたのは、宇宙線研究所の落ち着いた研究環境のおかげで、しっかりと腰を落ち着けて幅広い研究に取り組むことができたらからだと思います。今後も遠方宇宙研究における日本の存在感を保てるように引き続き研究に邁進しつつ、次世代のための教育や将来計画検討にも力を入れていきたいと思います」とコメントしています。

日本天文学会の研究奨励賞のサイトはこちらから。