テレスコープアレイグループの大島仁さん(特任研究員/ICRRフェロー) 日本写真学会の若手優秀口頭発表賞を受賞

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 テレスコープアレイグループの特任研究員(ICRRフェロー)、大島仁さんがこのほど、2023年度日本写真学会年次大会で若手優秀口頭発表賞を受賞しました。

 日本写真学会は、写真およびそれに関連する分野の科学技術の進歩・発展に関わる研究を披露する場として知られています。今年7月中旬に東京工業大学で行われた年次大会では、口頭発表、ポスター発表およびアート、レビューなどの優秀者が表彰され、大島さんの発表「原子核乾板を用いたニュートリノ・原子核反応の詳細研究: NINJA実験の解析結果と今後の展望」が唯一の若手優秀口頭発表賞に選出されました。

表彰状を手に笑顔を見せるテレスコープアレイ実験グループの大島仁さん

 原子核乾板は、古くから素粒子実験に使われてきた検出器で、臭化銀の粒子を利用した写真フィルムの一種です。対象とするのが素粒子のため通常の写真フィルムとは異なり、臭化銀結晶 がより密集していて、荷電粒子が通過するとその道筋に沿って非常に小さな銀の塊ができ、それを顕微鏡でのぞいて軌跡を確認します。非常に高い位置分解能を持つ検出器であることから、湯川博士が予言したπ中間子、チャーム粒子やタウニュートリノ、ダブルラムダハイパー核などの素粒子原子核 が、この原子核乾板を使って初めて発見されたほか、現在でも高い精密が必要な物理学実験で利用されています。

 大島さんは東邦大学大学院に在学中から、この原子核乾板を用いたNINJA実験に参加してきました。この実験は、茨城県東海村にあるJ-PARC (大強度陽子加速器施設)のメインリングで作られたニュートリノビームを使って、ニュートリノを標的の水や鉄に衝突させ、ニュートリノ反応断面積(ニュートリノの反応のしやすさ)や、ニュートリノ反応によって放出されたミューオン・陽子・荷電パイ中間子の放出角や運動量などを精密測定するものです。宇宙の初期に「物質」と同じ量だけ存在したはずの「反物質」が消え、物質しか残っていない謎に迫るため、ニュートリノと反ニュートリノにおけるCP対称性の破れを調べるのが究極の目的で、その精度向上に大きく貢献します。大島さんは誰よりも原子核乾板を有効活用して研究に取り組んできました。

 年次大会の口頭発表では、原子核乾板やNINJA実験の概要、実験で得られたデータの解析結果に加え、米国の素粒子物理の将来計画を検討する研究者コミュニティ”Snowmass2021”でも高く評価されたこと、2036年以降に計画される次世代ESS 𝜈 SBプロジェクトにもNINJA実験の水標的ECCが採用される見込みであることなどを報告しました。

 大島さんは受賞を受け、「今回はこのような賞をいただきまして大変光栄に思っております。本受賞も、ひとえにNINJAグループの共同実験者をはじめとする多くの方々のご協力のおかげです。この場を借りて感謝申し上げます。宇宙線研究所で取り組んでいるテレスコープアレイ実験に加え、NINJA実験によってニュートリノ・原子核反応の全貌を明らかにするために、今後も頑張りたいと思います」とコメントしています。