宇宙線研究所で博士号取得の藤本征史さんが2022年度日本天文学会研究奨励賞を受賞

トピックス

 観測的宇宙論グループに所属して博士号を取得し、2019年度まで研究員を務めていた藤本征史さん(米国テキサス大学オースティン校ハッブルフェロー)が、2022年度の日本天文学会研究奨励賞を受賞しました。受賞理由となった研究テーマは「電波と可視光観測による初期銀河と銀河周辺物質の新描像の提案と確立」です。

 同賞は優れた研究成果を挙げている35歳以下の若手天文学研究者を対象に、年間3名以内が授与されているもので、宇宙線研究所の関係者の受賞は藤本さんが2人目となります。

2022年度日本天文学会研究奨励賞を受賞した藤本征史さん

 藤本さんは、東京大学大学院理学系研究科の大学院生として宇宙線研究所の観測的宇宙論グルーブに所属。2019年3月に理学博士を取得したあと、宇宙線研究所と国立天文台ALMAプロジェクトの研究員を経て、2019年12月からデンマークにあるThe Cosmic Dawn Center のDAWN Fellowに就任し、2021年1月からはMarie Skłodowska-Curie COFUND INTERACTIONS Fellowを兼務。2021年度の第38回井上研究奨励賞を受賞し、2022年4月からは米国テキサス大学オースティン校でNASAハッブルフェローとして研究を続けています。 

 藤本さんは在学中、国立天文台などがチリに建設したALMA望遠鏡のアーカイブデータを用いた統計的研究を進めていました。それを足掛かりに2019年12月には宇宙初期の銀河周囲に存在する巨大炭素ガス雲を発見、もともと存在していなかった重元素が銀河を超えて存在していることから、銀河形成の早い時期に、銀河内部のガスを外部に放出する強力なアウトフローが起こっていることを世界に先駆けて示す結果となりました。The Cosmic Dawn Center に所属していた2021年4月には、宇宙誕生後間もない新生銀河が回転によって支えられていることを発見し、宇宙線研究所とともに共同プレスリリース。さらに、藤本さんは宇宙初期の銀河だけではなく、明るいクエーサーの形成についての研究にも触手を伸ばし、2022年4月に、形成初期段階にある赤いクエーサーを赤方偏移 7.19 という初期の宇宙に発見、主著者として英科学誌Natureから発表しました。また藤本さんは、複数の大規模国際共同研究に入り、中心的な役割を果たし、優れたコミュニケーション能力を生かして高いインパクトをもたらす研究を行えることも示しながら、自身が研究代表者となり、ALMAだけではなく、NASAのJames Webb Space Telescopeでも、初年度の運用という貴重な枠を高い倍率を勝ち抜くなど、国際プロジェクトを多方面でリードしています。今回の受賞ではそうした、国際的な場で幅広い分野に研究を展開しながら活躍している業績も、高く評価されています。

“Nature誌で報告された、爆発的星形成銀河内部で急成長中のブラックホールの兆候を示す天体「GNz7q」(右側の拡大図の中心にある赤い天体)、地球から約 131 億光年先で発見されました。ハッブル宇宙望遠鏡による3色の観測データを合成することで、画像に色をつけています。(クレジット:NASA, ESA, G. Illingworth (University of California, Santa Cruz), P. Oesch (University of California, Santa Cruz; Yale University), R. Bouwens and I. Labbé (Leiden University), and the Science Team, S. Fujimoto et al. (Cosmic Dawn Center and University of Copenhagen))”

 藤本さんは今回の受賞について、「このような栄誉ある賞をいただけることになり非常に光栄です。海外の場で研究を進めれば進めるほど、今日の私は、すばるやアルマのような最新鋭の望遠鏡へのアクセス (実地観測やその最新データの活用) に留まらず、時には新たなプロジェクトを自ら立案し牽引する機会提供、そしてキャリア・年齢を問わず同じ目線で議論をたたかわせてくださる、日本の優れた天文学教育・研究の環境があったからこそだと日々感じます。引き続き、場所を問わず、世界最先端の研究を楽しみながら、私も広く宇宙物理・天文学分野の発展に貢献して、いただいたバトンを次世代に繋いでいけるよう、活動を続けていきたいと思います。」とコメントしています。

 詳しい受賞理由については、こちらのサイトを参照ください。