チベット実験・ALPACA実験グループの加藤勢さんが理学系研究科研究奨励賞を受賞

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 チベット実験・ALPACA実験グループの加藤勢さんが、2022年度の理学系研究科研究奨励賞を受賞し、3月23日、本郷キャンパスの小柴ホールで開かれた学位授与式で、博士の学位記と研究奨励賞の賞状を授与されました。

学位授与式を終え、安田講堂をバックに笑顔を見せる加藤さん=3月23日午後4時20分ごろ撮影

 2018年から2020年までの修士課程における加藤さんのテーマは、南半球ボリビアのALPACA実験でした。チベット実験と同様の宇宙線の空気シャワー実験を南半球でも実現するため、宇宙線研究所などがボリビアのチャカルタヤ山に設置したばかりの小型アレイALPAQUITAに関するモンテカルロシミュレーションを行い、設計の最適化と性能評価を実施しました。加藤さんはALPAQUITAの性能を丁寧に調べ上げ、修士論文で最適な設計を確定。ALPAQUITAによる 1年間の観測でも、複数の重要な天体からsub-PeVガンマ線を検出できることを示し、英国天文学誌Experimental Astronomyに発表しました。さらに、2020年から2023年までとCOVID-19の時期とちょうど重なった博士課程では、チベット実験のデータ解析に専念。HESS J1843-033というガンマ線天体に着目し、データ解析と先行研究を加味した考察を行った結果、近くの超新星残骸G28.6-0.1で加速された宇宙線が、周辺の分子雲と衝突し、ガンマ線を生じている可能性を提唱しました。さらに、この超新星残骸による宇宙線の最大加速エネルギーを0.5PeVと見積もり、過去にペバトロンだった可能性も指摘。その成果を、米国天文学誌Astrophysical Journalに投稿・掲載しています。

 今春からは宇宙線研究所の特任研究員(ICRRフェロー)となる加藤さんの今後の研究テーマは、sub-PeV (100TeV以上) のガンマ線観測によるPeV宇宙線加速天体の探索です。宇宙線研究所は2021年4月、チベット実験の観測で最高1PeVのガンマ線が天の川銀河の方向に分布していることを確認し、銀河系内にペバトロンがあるという証拠を発見したとプレス発表し、大きなニュースになりましたが、加藤さんの研究テーマはまさにこの分野で、現在、宇宙線研究にとって大変重要な研究分野となっています。

 研究奨励賞を受賞した加藤さんはこの日、受賞の喜び、さらには今後への抱負について、「私の研究を注目していただけたことについて、とても嬉しく思っております。私の博士論文の研究は、これまでにチベット実験に関わってこられた方々全ての貢献があって可能となったものです。このような方々への感謝の気持ちでいっぱいです。また、ALPACA実験ではこれから南半球の空を開拓してゆく予定ですが、果たして南天にどのような面白い世界が待ち受けているのか、とても楽しみですし、そのフロンティアの開拓に自分も関わっていることに、大きな喜びを感じます。今後も、チベット実験・ALPACA実験と、宇宙線物理学の発展に少しでも貢献していけるよう、研究に邁進してゆきたいと思います」と語りました。