高エネルギー天体兼重力波グループの川口助教 日本物理学会若手奨励賞を受賞

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宇宙線研究所の高エネルギー天体兼重力波グループに所属する川口恭平助教(学位授与機関:京都大学)がこのほど、日本物理学会の各領域で優れた学術論文を執筆した若手研究者に贈られる第17回(2023年)日本物理学会若手奨励賞を受賞したことがわかりました。

 川口助教は宇宙線・宇宙物理領域から選ばれ、受賞対象研究は『中性子星連星の合体に伴う電磁波放射に関する理論的研究』。対象の論文は、”Radiative Transfer Simulation for the Optical and Near-Infrared Electromagnetic Counterparts to GW170817″, Kyohei Kawaguchi, Masaru Shibata, Masaomi Tanaka, ApJL, 865, L21, (2018)、”Diversity of Kilonova Light Curves”, Kyohei Kawaguchi, Masaru Shibata, Masaomi Tanaka, ApJ, 889, 171,(2020)、”A Low-Mass Binary Neutron Star: Long-Term Ejecta Evolution and Kilonovae with Weak Blue Emission”, Kyohei Kawaguchi, Sho Fujibayashi, Masaru Shibata, Masaomi Tanaka, Shinya Wanajo, ApJ, 913, 100,(2021)の3本です。

 重力波望遠鏡LIGO、Virgoが2017年8月、共同観測に成功した中性子連星の合体からの重力波イベント(GW170817)に伴い、世界中の望遠鏡がターゲットの天体に向けられ、近赤外線、可視光、X線、ガンマ線など幅広い波長領域でのマルチメッセンジャー観測が実現しました。これにより、中性子連星合体の際にr過程というで重元素合成が起きたことが、高密度の天体が合体する際に起きる大規模な爆発現象である電磁放射(キロノバ、マクロノバ)の観測によって明確になり、金やプラチナなどの起源が見つかったと話題になりました。川口助教の論文は、これらの観測データがまさに中性子星連星合体のコンピュータシミュレーションによる理論予測と見事に一致することを明らかにしたほか、重力波天体からの電磁波のより精緻な予測を可能とする枠組みを整備、キロノバ放射には合体する天体の種類や重さなどでさまざまバリエーションがあることを予言するなど、将来観測される電磁波を伴う重力波天体を予測する先駆的な研究をしてきました。

 川口さんは「このような栄誉ある賞を頂き大変光栄です。これもこれまで色々と共に研究してくださった方々のおかげだと感謝の気持ちでいっぱいです。今回私の研究したテーマだけでもまだまだ多くの謎・課題が山積みで、中性子星連星合体をはじめとする重力波・マルチメッセンジャー天文学の発展の中でさらにそれは増えていくと思います。そういった問題を少しでも解明し、宇宙の面白さ・不思議さをより深く理解できるよう、これからも切磋琢磨しこれ以上の研究をできるよう精進いたします」と喜びの気持ちを語りました。

シミュレーションの画像:Credit: Kyohei Kawaguchi
Radiative Transfer Simulation for the Optical and Near-Infrared Electromagnetic Counterparts to GW170817″, Kyohei Kawaguchi, Masaru Shibata, Masaomi Tanaka, ApJL, 865, L21, (2018)、”A Low-Mass Binary Neutron Star: Long-Term Ejecta Evolution and Kilonovae with Weak Blue Emission”, Kyohei Kawaguchi, Sho Fujibayashi, Masaru Shibata, Masaomi Tanaka, Shinya Wanajo, ApJ, 913, 100,(2021)より抜粋・改変

岐阜県飛騨市神岡町の地下に設置された大型低温重力波望遠鏡KAGRA
柏キャンパスの宇宙線研究所を拠点に精力的に研究する川口助教

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