チェレンコフ宇宙ガンマ線グループの稲田知大さんが、高エネルギー物理学奨励賞を受賞

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 大学院生時代に宇宙線研究所のチェレンコフ宇宙ガンマ線グループに所属し、2021年まで研究員を務めていた稲田知大さん(学位授与機関:東京大学,現所属 : 清華大学ポスドク研究員)がこのほど、高エネルギー物理学研究者会議による第24回高エネルギー物理学奨励賞を受賞したことがわかりました。

カナリア諸島・ラパルマのCTA建設サイトで、設置前の反射鏡を前に記念撮影する稲田さん(中央右)。右隣は野田浩司准教授:Image Credit. D. Mazin (ICRR, U-Tokyo)

 高エネルギー物理学奨励賞は、高エネルギー物理学を専門とする全国の研究者たちが組織する同会議が年一回、同分野の博士論文を対象に審査し、インパクト・学術的価値の高い著者に贈るものです。対象となった稲田さんの博士論文は、“Search for High-Energy Gamma Ray Line emission from Dark Matter annihilation in the Galactic Center” (天の川銀河中心における暗黒物質の対消滅による高エネルギーガンマ線放出の探索)です。

この論文は、チェレンコフ望遠鏡のMAGICを用いて,暗⿊物質が対消滅する際に発⽣するガンマ線を、発⽣密度が⾼いと想定される天の川銀河中⼼領域からのラインスペクトルに絞って捉えようとする実験研究であり、選考委員会では「チェレンコフ望遠鏡は高エネルギーガンマ線に感度が高いという利点に加え,MAGIC望遠鏡が北半球にあるにもかかわらず,南天の銀河中心から来る低角度のガンマ線に対しては、横切る大気量が多いために有効体積が増え,むしろ都合がよいことに気づいたことが、申請者のアイデアの素晴らしいところである。このため、バックグラウンドも増えるが、ガンマ線とハドロンとの識別の解析方法を開発し、これまでの観測結果と肩を並べるところまでもっていくことに成功し、TeV 領域の質量の暗黒物質に最も強い制限を与える結果を得た。この結果は,暗黒物質がSUSY Winoであるとするモデルなどに強い制限を与えるインパクト・学術的価値の高いものである」と高く評価。さらに「ハードウェア面に関しても、申請者は、MAGICの後継として期待される次世代チェレンコフ望遠鏡CTAにおいて、その主要部分である望遠鏡分割鏡の責任者として重要な役目を担っていることが本論文から読み取れる。以上を勘案し、本論文は高エネルギー物理学奨励賞にふさわしいと判断した」としています。

 現在も協力研究員として宇宙線研究所に所属している稲田さんは「このような賞を頂けて大変光栄に思います。宇宙線分野で行ってきた暗黒物質探索の研究を高エネルギー物理学分野で分野横断的に評価して頂いたことをとても嬉しく思います。これまで支えて頂いた共同研究者の皆様、大学院時代にお世話になりました宇宙線研究所の皆様、そして家族にこの場をお借りして心より感謝申し上げます。これからもこれ以上の研究をできるよう精進いたします」と喜びの気持ちを語りました。

国際会議で研究成果を発表する稲田さん:Image Credit: MAGIC collaboration
美しい星空に浮かぶMAGIC望遠鏡(中央と右)とCTA大口径望遠鏡(左):Image Credit: Urs Leutenegger (Instagram: @urs.leutenegger) 
MAGIC実験のメンバーとして記念撮影に加わる稲田さん:Image Credit: Alicia Lopez Oramas

高エネルギー物理学研究者会議の受賞に関するページはこちら
http://www.jahep.org/office/syourei.html