ICRRレポート「日本と中国の宇宙線共同研究」(太田周編)を発刊、Web公開

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 宇宙線研究所などの研究者が、中国と共同で進めてきた宇宙線の共同研究について、これまでの歴史をまとめたICRRレポート「日本と中国の宇宙線共同研究」をこのほど発刊し、PDF版のWeb公開もスタートしました。

発刊されたICRR Report

 梶田隆章教授(前宇宙線研究所所長)が、古くから日中共同研究に携わってきた宇都宮大学の太田周名誉教授に「日中共同研究を宇宙線研究所のアーカイブスに加えたい」と協力を依頼したことがきっかけとなり、2019年10月に関係者が集まってフォーラムを開催。記録と記憶の確認を行い、さらにアーカイブ室の中村健蔵氏 (高エネルギー加速器研究機構名誉教授)が古い文献や記録を掘り起こすなど、編纂に向けた準備が進められてきました。

 レポートでは、日中国交回復前から行われてきた研究者たちの交流、国交正常化後の1977年から行われた日本から中国への訪問、さらに中国から日本への訪問など、1980年から始まったチベット地区における日中共同研究の歴史を豊富な写真とともに振り返っています。

 中国との共同研究であるチベットASγ実験は、チベット高原(標高 4,300m)に設置した宇宙線空気シャワー観測装置を改造して高エネルギー宇宙ガンマ線の観測を行い、世界で初めてsub-PeV (1014eV =100TeV以上)の拡散ガンマ線を検出。PeV領域の宇宙線の起源が銀河系内にあることを解明した成果により、瀧田正人教授(2022年4月から宇宙線研究所副所長)が仁科記念賞を受賞しています。

 レポートを編纂した太田名誉教授は「日中交流は、戦後の日本の科学史的な新たな動きの一つです。時に太く、また時に細くなりましたが、最近に至るまで着実にその流れを築いてきました。共同研究の一つ、『チベットにおける空気シャワーの実験』の高エネルギー拡散ガンマ線の観測に対し、2021年度の仁科記念賞が授与されたことは、象徴的な出来事でした。空気シャワー観測、太陽中性子観測、東シナ海横断気球、CALET実験の研究の場に居た方々しか知りえない事柄と雰囲気を詳細に記録していただきました。このレポートから何らかの新たな知見が得られれば幸いです。ご支援をいただいた日中双方の多くの方々に感謝申し上げます」とコメントしています。

 本レポートは他の宇宙線研究所の歴史資料と合わせ、PDFファイルにてWeb公開されています。閲覧は年次資料・報告書のページからどうぞ。