第67回仁科記念賞の瀧田正人教授 受賞記念講演会をオンライン開催

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 第67回仁科記念賞を受賞した瀧田正人教授の記念講演会が12月17日、宇宙線研究所や宇宙線研究の関係者ら約90人が参加し、Zoom会議によるオンラインで開催されました。

オンラインで挨拶する梶田所長

 梶田隆章所長は冒頭、「瀧田先生、仁科記念賞の受賞、誠におめでとうございます。宇宙線研究所員の受賞としては2001年の中畑雅行先生と鈴木洋一郎先生、さらに高エネルギー宇宙線研究部門では1997年の木舟正先生以来となります。特に今回の受賞は、宇宙線研究所の中でも比較的小規模なチベット実験での受賞という意味でも大きな意義があります。野田浩司准教授の第18回日本学術振興会賞など、受賞が続いていて、宇宙線研究所にとっては大変喜ばしいことです。宇宙線研究所は、宇宙線と宇宙についての研究をしっかり進められる研究所であるべきで、来年以降も宇宙線研究所から世の中に大きな成果が出ることを期待しています」と挨拶しました。

 続いて横浜国立大学の片寄祐作准教授が「チベットでの実験の歩み」と題し、宇宙線における日本と中国との共同研究の歴史を紹介。1980年代のカンパラ山のEC実験、チベットの羊八井(ヤンパーチン)で開始されたTibet I実験から始まり、Tibet II (HD Array)実験、Tibet Ⅲ、そして地下ミューオン観測装置(MD)を備えた現在のチベットASγ実験に至るまで長い歴史があったことを説明しました。

チベットでの実験の歩みをテーマに語る横浜国立大学の片寄准教授

 これらを受け、瀧田教授が約1時間にわたって、受賞記念講演を行いました。

仁科記念賞の受賞記念講演を行う瀧田教授

 瀧田教授は、父親が旧制高校時代に仁科芳雄博士から講義を受けたというエピソードを披露したうえで、自身とチベット実験との関わりについて説明。カミオカンデ、スーパーカミオカンデの研究者を経て、2001年からチベット実験に加わり、地下ミューオン観測装置を建設多くの支援を受けて観測を開始した経緯を説明しました。また、チベットASγ実験で観測された空気シャワーの解析では、天の川銀河からのsub-PeVのガンマ線を見分けるために宇宙線による観測雑音を100万分の1まで落とし、高エネルギーのガンマ線を出すような天体がない方向から100TeV以上のガンマ線の信号を23個発見。これらが、銀河磁場で閉じ込められた宇宙線のプール中のPeVの宇宙線と銀河系内星間物質が衝突して生まれたガンマ線の信号と確信したとし、「第67回仁科記念賞の受賞は、チベットASγ実験グループの研究成果であるとともに日本の宇宙線業界の技術の結集が評価された結果であり、実験に携わってきたメンバー全員が受賞したものであると受け止めています。この場を借りまして、チベットASγ実験グループのメンバー及び実験を支援して頂いた方々に深く感謝申し上げます。今後ともご支援をよろしくお願い致します」と述べました。

SpatialChatで開かれたオンライン懇親会で集う宇宙線の研究者たち

 講演の後、SpatialChatで開かれたオンライン懇親会では、チベットでの実験に関わった先輩の研究者たちが、瀧田教授に対して次々にお祝いの言葉をかけました。初期の実験からチベットに関わっていた宇都宮大学の太田周名誉教授は「空気シャワーの地表粒子検出器、AGASAのS600、ミューオン観測装置など、宇宙線の研究者が使っていた古い武器をフルに活用して、よい成果に結びつけたものだと思います。その意味でも受賞できて本当によかったです。おめでとうございます」と祝福しました。