川口助教が「重力波・マルチメッセンジャー天文学の最前線」と題して講演〜Kavli IPMU・ICRR 秋の合同一般講演会で〜

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 宇宙線研究所とカブリ数物連携宇宙研究機構(Kavli IPMU)の秋の合同一般講演会が11月28日、各研究室と視聴者をオンラインでつないで開催されました。事前に申し込んだ人だけが視聴可能なYouTube中継には多くの視聴者が訪れ、両機関を代表する二人の講演や対談(クロストーク)に耳を傾けました。

 一般講演会は、研究成果を地元の方々に知ってもらおうと、宇宙線研究所の本部が柏キャンパスに移転した2000年ごろから毎年開かれ、Kavli IPMUが設立された後の2009年度からは合同一般講演会と名前を変え、春と秋の年2回、開かれてきました。2021年度は4月にも春の合同一般講演会が、COVID-19の感染拡大を防止するため、全面オンラインで開催されています。

 今回の秋の合同一般講演会のテーマは「ある現代数学の夢。ある物理学の先端。」で、Kavli IPMUの阿部知行准教授が「超越数とグロタンディークの見果てぬ夢」、宇宙線研究所で重力波グループと高エネルギー天体グループを兼務する川口恭助教が「重力波・マルチメッセンジャー天文学の最前線」と題し、それぞれ講演。二人のクロストークや質疑応答も行われました。

川口助教「時空が物理実体として存在するって、めちゃくちゃ面白い」

 阿部准教授に続いて登場した川口助教は、アインシュタインが、重力を「時空の歪みの現れ」とする一般相対性理論を提唱し、時空の歪みが波として伝搬していくものとして「重力波」の存在を予言したとし、「時空が物理実体として存在するというのはめちゃくちゃ面白いと思いました」と感想を述べました。そのうえで、自らが理論的な研究をするうえで最も興味があるイベントとして、二つの重い天体(ブラックホールや中性子星)によるコンパクト連星合体を挙げました。

「コンパクト連星合体とは、二つの重い天体がお互いの重力に引かれ合いながら回転し、ぎりぎりまで近づき、最後に衝突して合体するものですが、その過程で時空をかき乱し、とても効率よく重力波を出すことが理論で予測されていました。アメリカの重力波望遠鏡LIGOが2015年9月、ブラックホール同士の合体による重力波を検出したことが話題になった当時、私はまだ大学院生で、本当なのかと疑いましたが、理論で予測したのとそっくりの波形が出ていると知り、非常に驚いたのを覚えています」

身振り手振りを交え、オンラインで講演する川口助教

 2017年8月にLIGO、Virgoが成功した中性子連星の合体による重力波観測については、「強烈なものでした。重力波の観測を受け、世界中の望遠鏡が電磁波でも同時期に観測できたという意味で、歴史的なイベントです」とコメント。中性子連星が近づいてくと、潮汐力で歪み、そのエネルギーが重力波で放出されるため、軌道の進化が加速していくようすを映像で説明し、「このようなコンパクト連星合体で生じる時空の歪みを予測するには、アインシュタイン方程式を数値計算(シミュレーション)で解くことが必須です」と、研究テーマとする数値相対論的シミュレーションの意義について解説しました。

「理論家として深め、マルチメッセンジャー観測の成果を最大化したい」

正確な重力波波形の数値シミュレーションが実現すれば、コンパクト連星合体から、①どんな重力波が出るのか、➁合体した時に何が起きるのか、➂どんな物質が飛び出すのか、④どんな電磁波を出すのか、➄光り方で何がわかるのか、などが予測できるとし、「実際の観測と比較することで中性子星の内部構造までわかります。今回の例では、潮汐力による歪みを知ることで中性子星の”硬さ”がわかりました。さらに、理論で予測されていたキロノバと呼ばれる発光現象も確認され、(迅速かつ連続的に中性子を取り込み、鉄より重い元素を作る)r過程による元素合成が進んだと推測され、金や白金などの元素の起源解明に大きな一歩となりました」と興奮気味に語りました。

こうした観測で予想もしていなかったことがわかった一方で、「多くの謎も山積みで、やらなければならないことがたくさんあり、非常にうれしいです」とし、「今後はLIGO、VirgoにKAGRAも観測に加わり、多くのイベントが観測されると思いますし、電磁波も含めたマルチメッセンジャー観測も多く受かるでしょう。私も理論家として深めていって、その成果を最大限に生かしていければと考えています」と抱負を語りました。

多くの質疑がサイトに寄せられ、一件ずつ丁寧に回答

 講演者二人がお互いに質問し合うクロストークを挟み、視聴者が専用サイトに寄せた質疑に回答。「実際に観測された重力波で、理論で導かれた数値シミュレーションで答え合わせができないようなイベントが観測されたことはありますか?」「海外の大学で研究することについてどう思われますか?日本とのレベルの違いはあるのでしょうか?」「重力波が初発見される前、どれだけの確信を持って研究されていましたか?」「研究者として生きる中で、何か挫折を経験したことはありますか?」「超越数の研究は物理学のどの部分と結びつくのですか?」など多くの質問が寄せられ、川口助教と阿部准教授が一件ずつ丁寧に回答していました。

オンラインでクロストーク及び質疑応答を行う川口助教(左上)、阿部准教授(右上)、司会を務めたIPMUの角林元子さん(右下)、坪井あやさん(左下)