チェレンコフ宇宙ガンマ線グループと高エネルギー天体グループの貢献-<プレスリリース>『多波長同時観測でさぐるM87巨大ブラックホールの活動性と周辺構造』に寄せて-

特集

 イベント・ホライズン・テレスコープ(EHT)と多くの電波望遠鏡、可視光線・紫外線望遠鏡、エックス線望遠鏡、ガンマ線望遠鏡による、楕円銀河M87の中心にある巨大ブラックホールの多波長観測は、ブラックホールの中心領域とは異なる場所でガンマ線が放射されている可能性を浮かび上がらせました。巨大ブラックホールが噴き出すジェットが複雑な構造を持っていることを示す結果であり、宇宙線研究所のチェレンコフ宇宙ガンマ線グループ、高エネルギー天体グループの研究者が大きく貢献しています。[関連プレスリリースはこちら]

MAGIC望遠鏡 / Daniel Mazin特任准教授
「ブラックホール近傍からのガンマ線ではないと実証」

 宇宙線研究所でチェレンコフ宇宙ガンマ線グループに所属するDaniel Mazin特任准教授は、スペイン・カナリア諸島ラパルマにあるMAGIC望遠鏡で、15年にわたるM87の長期モニター観測を主導してきました。

 Mazinさんは「M87はブラックホールからのジェットが地球の方向と20度ほど角度が開いているにもかかわらず、地上のチェレンコフ望遠鏡でガンマ線が観測できる珍しい天体で、これまで三度ほどフレア(爆発的なガンマ線の放射)が観測されている興味深い天体です。2017年4月の共同観測は、M87が静かな時期にあたりましたが、高いエネルギーのガンマ線が観測できました。他のチェレンコフ望遠鏡の観測データと合わせて解析した結果、ガンマ線が中心部のブラックホール近傍から放射されたものではないことが判明したということが、一番大きな成果だと思います」と語り、今後について「2018年も観測し、その論文をまとめているところですが、2021年の共同観測も予定されています。さらに詳しく観測を続け、放射されるガンマ線が、どこから、どのように出ているのかなどを明らかにしていきたいですね」と意欲を見せました。

MAGIC望遠鏡によるM87の観測について語るDaniel Mazin特任准教授

高エネルギー天体グループ / 川島朋尚 特任研究員
「ジェットの仕組みを解明する足掛かりに」

 一方、高エネルギー天体グループに所属する川島朋尚・特任研究員(ICRRフェロー)は、多波長の観測を説明するため、自ら開発した数値計算コードRAIKOUを用いて理論モデルを構築し、結論を導き出す点で成果に貢献しました。

 川島さんは「M87の中心にあるブラックホール近傍の高エネルギー電子のプラズマを再現し、電波からガンマ線までの幅広い観測結果を説明しようとしましたが、電波に合わせようとするとガンマ線が低い、ガンマ線に合わせようとすると電波が低いと、うまく一致するモデルを作ることが困難でした。その結果、ガンマ線は、ブラックホール近傍の電波放射領域とは異なる場所から出ているのではないか、という結論が導き出されました。ブラックホール近傍から吹き出ていったジェットか、あるいは降着円盤から出ているのかもしれません」とコメント。ブラックホールから吹き出す光速に近いジェットはM87で初めて見つかりましたが、高エネルギー電子が注入される仕組みなど、その生成は100年来の謎とされているといい、「次回は中心のブラックホールから、その半径の10-100倍くらい離れたところからガンマ線が放射される理論モデルを試みる予定で、ジェットの仕組みを少しずつ解明してきたいと思います」と今後の抱負を語りました。

BH近傍の理論モデルの構築により、ジェットの仕組みに挑む川島朋尚・特任研究員