【トピックス】馬渡研究員が「酸素が伝える初期宇宙の銀河」をテーマに講演〜西東京市・多摩六都科学館のサイエンスカフェで

馬渡研究員が「酸素が伝える初期宇宙の銀河」をテーマに講演〜西東京市・多摩六都科学館のサイエンスカフェで

―観測的宇宙論グループ

 宇宙線研究所・観測的宇宙論グループの馬渡健・特任研究員(ICRRフェロー)が2018年12月8日、東京都西東京市の多摩六都科学館で行われたICRRサイエンスカフェに出演。自身が深く関わり、2018年5月に「132.8億光年かなたの銀河に酸素を発見〜酸素の最遠方検出記録をさらに更新」と題し、報道発表した研究成果について講演しました。

 多摩六都科学館でのサイエンスカフェは、同館と宇宙線研究所が2015年に締結した広報・啓発活動に関する相互協定に基づくもので、研究現場で得た知見を広く市民に提供し、科学文化の発展に寄与することなどを目的としており、1年に2回ほど開催されています。同館地下1階のイベントホールで開かれたサイエンスカフェには、都内とその周辺部から34人が出席しました。

不思議、そしてたび重なる幸運に恵まれ...

 馬渡研究員は千葉県我孫子市に生まれ、東北大学、ハーバード大学スミソニアン天体物理学センターと学び、博士号を取得した後、大阪産業大学でのポスドク時代に大学の旧友と偶然再会し、今回の報道発表につながる研究を一緒に進めることになったというエピソードを、「まさか大学時代の飲み仲間と一緒に研究することになろうとは。人生というのは不思議なものです」などと紹介。

サイエンスカフェで講演した馬渡さん
サイエンスカフェで講演した馬渡さん
カフェに集まり、熱心に耳を傾ける34人の市民
カフェに集まり、熱心に耳を傾ける34人の市民

 ALMA望遠鏡を使った研究については、観測直前にずらした波長帯が当たりだったこと、更にその当たりの波長帯だけより高品質のデータが得られるなどの幸運が重なり、銀河(MACS1149 JD1)の酸素輝線を発見できたこと。天体が遠方にある度合いを示す赤方偏移zを9.11と確定させ、最も遠く(昔)の銀河の記録を樹立したことなどを報告。強い紫外線を受けて励起したO2+から放出される酸素輝線の発見からは、年齢が300万年以下の若い星の存在が示される一方で、ハッブル、スピッツァー宇宙望遠鏡による多波長データの分析からは、年齢が1億年以上の古い星が大量に存在することも判明し、馬渡研究員らが作り上げた両者を整合的に説明する銀河成長のシナリオも紹介されました。

「宇宙の一番星を探したい」

 馬渡研究員は「今回発見した銀河の星形成のスタートは、宇宙年齢わずか2.5億年ごろだったことが示されました。色々な望遠鏡のデータを組み合わせて実際に観測できない時代の様子を推測できたこと、つまり見えない過去を探ることができたのは大変興味深いことです。酸素だけでなく、炭素やケイ素も調べ、より遠方の銀河、宇宙の一番星を探していきたいです」と語りました。

参加した市民からは多くの質問が寄せられた
参加した市民からは多くの質問が寄せられた
コップを片手に熱弁を振るう馬渡さん
コップを片手に熱弁を振るう馬渡さん

 国立天文台が開発したソフトウェア“Mitaka”の画像をプロジェクターに投影し、地球から太陽系、銀河系、宇宙マイクロ波背景放射(CMB)に至る宇宙の大規模構造を視覚的に示し、自身が明らかにした132.8億年前の銀河がいかに遥か彼方の天体かを説明。さらに、紫外線を浴びると発光する洗剤、キャンディー、人工蛍石、トニックウォーター、栄養ドリンク剤なども用意し、ALMA望遠鏡の観測で発見したという酸素の輝線について解説するなど、市民の興味を引き付け、飽きさせない工夫も凝らしていました。

紫外線ライトを浴び、青、緑、赤など様々な色に光る人工蛍石
紫外線ライトを浴び、青、緑、赤など様々な色に光る人工蛍石

 会場からは、「132.8億光年とは想像がつかないが、どれくらいの距離なのか」「現在の技術で赤方偏移いくつまで観測できるのか」「遠くの銀河の本当の波長はどのように見分けるのか」「輝線の場所が鉄だとなぜわかるのか」「ガンマ線、X線の観測との違いは」「水素、ヘリウムの輝線を探さないのはなぜか」など多くの質問が寄せられ、馬渡研究員が一つ一つ丁寧に回答していました。